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6-41 宗司の誤算

 司たちが出発して1週間が経つ。


 宗司は、いつものように武神家で日課の筋トレに勤しんでいた。

 宗司曰く、美しい肉体は日々の筋肉への感謝から成り、それは1日として欠かすことのできない神への祈りである。


 意味がわからない。


 兎も角として、ここ最近は新しく3人の弟子が出来たため、自分が疎かになっていたので、この日は念入りに肉体調整をしているようだった。


「よし! 次は足腰の鍛練だな! ……おっと、今日は重石つかさがいないからどうしたものか。何か代わりになるものは……」


 そう言って、近くの門下たちに視線を飛ばしたが、皆にさっと反らされてしまった。


「しょうがない、1人で走るか」


(武神の小僧、緊急事態じゃ)


 1人でロードワークに出かけようとしていた宗司に、何者かから声がかかった。


「え?」


 事態を認識するよりも早く、突然に空中へ投げ出されたような形になった宗司。

 そして、強風でもないのに空中を舞っていく宗司の姿を唖然として見送る門下生たち。


 宗司は適度に上昇したところで、そのまま空中を横にスライド移動していく。


「クーシュの母殿! この状態はまずいです! 万が一、目撃者でもいたら事件に……」


 聞こえてきた声で犯人の当たりを付けた宗司が主張をするが、事態は改善しない。

 というか、既に多くの門下生に見られているので、今更感はある。


 実際は、母鳥が宗司を爪で掴んで攫ったのだが、不思議と母鳥の姿が見えていないのだ。

 外部から見れば、宗司1人が空中をアブダクションされていく図となる。

 明日の新聞1面の主人公は宗司で間違いない。大抜擢である。



 わけもわからず干支神家まで連行された宗司は、屋敷前の庭でようやく解放された。

 と同時に、今度は蒼花に拉致されて速やかに屋敷内に連行される。

 誘拐犯も真っ青な鮮やかな手口である。


「あの、蒼花さん? 説明を求めたいのですが……」


「おだまり、男は黙って女についてくればいいのです」


「あ、ハイ……」


 宗司は屋敷に入ってすぐに異変に気付いた。


 屋敷中にクーシュが泣く声が響き渡っている。

 以前から司の側を離れると鳴くことはあったが、この泣き方は異常である。


 蒼花に司の部屋まで連行された宗司が見たのは、ベッドで泣くクーシュを宥める橙花と母鳥、遠巻きにひかえていた兎神とカノコだった。


「武神の小僧、ようきた」


「お、宗司いらっしゃい。随分と早かったね」


「兎神さん、カノコさん、どうも。まぁ、母鳥殿に前代未聞の方法で誘拐されましたのでね」


「え? どう言う事?」


 どうやら誘拐犯の母鳥はこの部屋から遠隔操作で宗司を連れて来たようである。

 原理を解明することは不可能なので、当該事件は迷宮入りで間違いない。


「ピーーー!!」


「げふぅ……」


 クーシュは適当な宗司まとを見つけたと同時に高速タックルをお見舞いする。

 完全にストレス解消の八つ当たりである。


「それで、私は何の用事で呼ばれたのですか? クーシュの相手ですか?」


「娘が感知したのだが、どうやら司の身が危ういようでな」


 母鳥が伝えた内容を聞いて、部屋にいる全員の雰囲気が変わる。


「司の話では、今回は危険ではないと伺っています。何か問題でも?」


「娘の感覚を聞いただけなので正確ではないが、どうやら司を起点にして気脈のエネルギーが凝集しておるようじゃ。何か、知らんか?」


 それを聞いた宗司の表情が強張り、驚きの余り目を見開く。


「かなりの量じゃ、おおよそ人の身で耐えられる量ではない。あれだけあれば眠った山が火を噴いてもおかしくない。気脈と共に生きる我らフェルスでも、娘たちでは処理できないほどの膨大なエネルギーじゃ」


 言うなれば、小さなガラスのコップ目掛けて、ダムいっぱいの水を一気に放流して満たそうとするようなものである。

 結果は、誰でもわかるだろう。

 膨大なエネルギーの奔流を受け止められなかったコップの末路は、木っ端みじん。


「バカな……あれを、アレを使ったのか?」


 一方、それが何を意味するのかを、この中で唯一思い当たった宗司は信じられない思いでいっぱいだった。


「宗司様、何か、ご存知なのですね?」


 宗司の言葉に反応して、兎神たちが向けた目が怖い。

 完全に凶悪犯罪者を見る目つきである。


「恐らくだが……司が使ったのは、初代の闘気法」


 武神流の初代。

 それは、あらゆる武神の技を極めた鬼神。

 それは、人の身で人を超えた猛者。


 しかし、生身でも武神流を修めれば誰でも素手で岩を砕けるわけがない。

 それには武神独自のカラクリがあるのだ。


「申し訳ない。司には絶対に使うなと厳命していたのですが、これは私の責任です」


「我々に謝罪は結構です。それを司様が決めたことならば。しかし、司様が無事に戻らなかった場合は、覚悟して頂きます」


 一切の感情が消えた兎神の放った言葉は、対象者に恐怖以外を許さない。


「承知。しかし、まずは司たちを迎えに行かせてください。その後でしたら、私の身は如何様にして頂いても結構です。では、これからすぐに発ちます」


 宗司は一縷の望みをかけて、行動を開始した。

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