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6-33 この場所に拘る理由

いつもお読み頂きありがとうございます。

総合評価が1000を超えました。これからも頑張っていきます。

 リリたちの交流は上手くいっているようだ。

 司が渡したオヤツをきっかけにして、ララとの会話が弾んでいた。


「ねぇねぇリリ、これは何? すっごく美味しい……」


「えへへ、甘いでしょ? これはね、リンゴっていうんだよ。私も大好きなんだから!」


「これ、甘いっていうんだね。うん、すごく甘くておいしい。リンゴって凄いね!」


 何というか、非常に微笑ましい兄妹の会話。

 それを周りで見ているヴォルフとルーヴは満面の笑み、にっこにこである。


「こっちのは何? リンゴとは違うみたいだけど、こっちも甘いね」


「こっちはね、ブドウだよ。これは干したブドウだから甘いよね。でも、木に生ってるときは酸っぱいのもあるから、注意だよ?」


「酸っぱいの? どんなのだろう、そっちのも食べてみたいな」


 リリには誰とでもすぐに仲良くなる能力がある。

 さっき出会ったばかりのララとでも、もう本当の兄妹のように仲良くなっている。

 世界中がララとリリみたいな兄妹で溢れていたら、どんなに平和だろうか。



 方や、源による舞への教育的指導は、明後日の方向へ向かっていた。


「司が子供の頃は寂しがり屋でのぅ。雷が鳴ると、わしの布団によく入り込んできたものじゃった。なのに、今となっては可愛げの欠片もなくなりおってからに」


「ほうほう、やっぱり司さんも可愛い頃があったんですね。いえ、今も時々はそんな片鱗を見せる時があるんですけど」


 随分な黒歴史が暴露されていた。


「おい、じじい。舞に、ある事ない事を吹き込んでんじゃねぇ。第一、それ情緒不安定だった6歳くらいの頃の話だろうが……」


「事実は事実じゃろう? わしにとっては良い思い出よ。現実は無理なんじゃから、孫娘に聞かせる過去の話くらい楽しみにさせてくれてもいいんじゃないかのぅ?」


「まぁまぁ、司さん、良いじゃないですか。それで、他にはどんな話があるんですか?」


 舞が乗り気すぎて、手が付けられないことになっている現実。

 これはもう諦めて、本人たちの気のすむまで放置していたほうがいいのかもしれない。

 暴露会に同席するのは恥ずかしいので真っ平ごめんである。



 正直な話、司は小さい頃の記憶が曖昧だ。

 目の前で親の死を目撃してしまった衝撃で、一時的に頭が情報の処理を拒否したのだ。

 身体が完治しても、しばらくは何もかもが無気力だった。


 そんな自分を変えるきっかけをくれたのは、剛志であり、宗司だった。

 彼らとの特訓はひたすらに脳筋で、それこそ身体が力尽きるまでだったから。

 それ以外の、余計なことを考える時間がなかったせいもあるけども。


「だけど、あれが無かったら、自分が今頃何をしていたか恐ろしくなるよな」


 彼らの指導は辛く厳しいものだったけれど、決して司を1人にしなかった。

 忙しい本業の時間を縫って、出来る限り司と一緒に生活して。

 身体の動かし方を、身を守る術式を、何もない場所で生活する方法を。

 心技体、ありとあらゆることを教えてくれた。

 特訓が終われば、一緒に風呂に浸かり、筋肉痛で真面に動けない司に対し、自分も通った道だと笑い飛ばして背中を洗ったりもした。


 司は1人じゃない、そう言ってくれる人が周りにいることの、何という幸運か。


 その頃くらいから、司の見る景色は変化した。

 自分のために、どれだけ源や兎神たちが尽くしてくれていたのか。

 ろくな反応をしない司に根気強く接して、声をかけ、励ました。

 それでいて、彼らは1度として司を邪険にしたことも、司に恨み言を言ったこともなかった。

 幼くして両親を失ったことは不運だったけれど、自分はそれでも恵まれている。


 無念だった親の分まで、生きて幸せになろう。

 そして、自分が受けた幸せは、他の困っている人に少しずつでも返していこう。



 その小さな善意は、リリを拾って、次世代の大樹を育て、ウルの民を移住させて、居候がどんどん増えて、屋敷がカオスになりつつあるけれど。


 司の隣で笑い合うヴォルフたち一家を見て、あの時の選択は間違っていなかったと。


「司さーん、お話が終わったなら、こっちへ来て一緒にオヤツ食べませんかー?」


 司は声をかけられた方へ向かって、いつものようにリリを胡坐の上に乗せる。

 一瞬驚いたが、司に撫でられればすぐに笑顔になるリリは嬉しそう。

 ララは若干警戒気味だが、リリの様子を見て興味津々のよう。


 僅かな、ほんの小さな一歩だけれども、間違いなく結実していると。

 司に実感をさせてくれる瞬間だった。




 そして、存分にリリをもふって時間を潰した司は、こう切り出した。


「それで、何で死んだふりをしてまで、爺はこんなところに住んでいるんだ?」


「ん? うーむ、まぁ、な」


 歯切れの悪い源は、司を1人外へ連れ出して、目的の場所へ向かう。


 案内されたのは、家から出て、ほど近い海に面した崖の端。

 源が無言で視線を飛ばした先にあったもの。


「これ……墓、か?」


 やや丸みを帯びた石を置いただけの、簡素な造り。

 お墓の前には、少量の花が横たえてある。

 きっと、源が置いたものだろう。


「うむ、そうじゃな」


 寂しそうな、何とも言えない表情で肯定する源の姿を、司は初めて見た。

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