6-32 それぞれの交流
改めて家族の絆を確認したララは、普段の落ち着きを取り戻した。
その後は、源の勧めでヴォルフたちと少しずつ交流をすることとなった。
「司も成長したもんじゃのう……それはそうと、そろそろ隣の娘を紹介してくれてもいいんじゃないかの? コレじゃろ? コレ」
ヴォルフたちから司に向けられている信頼を感じ取った源は満足そうだった。
そして、ヴォルフたちが抜けた後の話題は舞に向けられ、源は小指を立ててにやりと笑う。
それで通じるのは、ある程度の年齢が高い人だけである。
現に、司は呆れた顔をしているが、舞は何のことだかわかっていない様子だった。
「それについても、かなり言いたいことがあるんだが……舞、非常に残念なことに、これが俺の祖父の干支神源だ。全ての諸悪の根源だな」
本当に嫌そうな顔をして舞に祖父を紹介する司。
「初めまして、お爺様。武神舞と申します。司さんの許嫁を名乗らせてもらっています」
それに対して、非常に真面目に自己紹介をする舞。
「おお、やはりそうじゃったか。司の祖父の源じゃ。幼い頃に1回だけ会ったことがあるんじゃが、美人になったのう。司には勿体ないくらいの良い娘じゃなぁ」
「じじいのおかげで、俺たち2人とも相当な迷惑を被ったんだぞ? これでもかってくらい真摯に反省しろ」
「じゃが、最終的にはいい感じなんじゃろ? わしの目に狂いはないじゃろ? 第一、超が付くほどの朴念仁のおぬしを1人残したら、結婚なんぞできるわけないじゃろ?」
「それとこれは別だろ? 俺は兎も角として、舞は見たこともないヤツと婚約したようなもんなんだぞ? 今時それはないだろ!」
言いたいことは山ほどあるが、正論を言い返されてぐうの音も出なくなった司。だが、ここで言い返さないわけにはいかない。
しばらく、2人の不毛な言い争いが続いたが、
「ふふふ、司さんはお爺様とそっくりですね」
「「どこが!?」」
そのやり取りを見ていた舞が、面白そうに笑う。
お互いの心に垣根の存在しない、本当に仲の良い祖父と孫に見えたからだ。
自分はここまで父親と何でも言い合えるような仲だろうか? そう思えるほどに。
「最初は戸惑いのほうが大きかったのですけれど、今では司さんと廻り合わせて頂いた縁を感謝しています。父から姿成りのお話だけは聞いておりました。実際にお会いできて嬉しいです」
真面目にしている時に限って、今時ありえないくらい丁寧な舞。
最近は、めっきりダークサイド舞の出番がなくなってしまうほどに正道を歩んでしまっている。
「司さんに聞けば、今回は源様に会いに行くと伺いましたので、無理を言ってついてきてしまいました。どうしても直接お会いしてお話したかったので」
凛の娘として幼い頃から叩き込まれているだけあって、こういう仕草や立ち振る舞いは息を呑むほど洗練されていて美しい。
「硬い……かたくるしいぞぉぉぉおお!」
しかし、源にはこういう空気は耐えられない。
堅苦しい雰囲気や真面目な空気は仕事の間だけでお腹いっぱいなのである。
「舞さん、いや、もはや我が孫も同然! 舞よ! 良いか!?」
「は、はい!」
「硬い! 硬すぎる! わしは、おぬしにとってもおじいちゃんなのじゃぞ!? もっと砕けた感じで! フレンドリーにじゃ! そんなのでは肩が凝り固まってしまうぞぉぉ!」
「そうそう、こんなヤツは爺で十分だ」
「司……おぬしの場合は、もうちょっとどうにかならんのか? 敬意が欠片も感じられんのじゃが?」
ごつい身体つきからわかるように、源は宗司たちの同類なのだ。
ということで、舞に対する熱血指導が始まってしまった。
「お? リリ、どうした? 爺がうるさくしてごめんな」
「司さーん、ララに果物を食べさせてあげたいんで、少しオヤツをくれませんか? 本当はリンゴをおススメしたいんですけど……」
こうなると長くなりそうなので源と舞は放置して、司はリリの対応をすることにした。
「おう、いいぞいいぞ。じゃ、とっておきなのを出してあげるよ」
司がカバンから取り出したのは、リンゴの保存食。
リンゴはエチレンガスが発生するので、他の食べ物を劣化させてしまう。
そのため、厳重に個別包装しなければならないのが難点である。
「!? こ、これは!?」
「少し乾燥させてあるから食感は違っちゃうけど」
これは司が、リリに内緒で橙花に作ってもらった物。
事が上手く進んだ場合、恐らくリリが望むであろうことはお見通しなのである。
「つ、つかささん……」
「ほら、早く持っていけ。リリが説明してあげないと、ララは食べられないだろう?」
目をうるうるさせていたリリだったが、司に促されるままにリンゴの入った袋を咥えてララたちの元へ向かう。
これは凄い食べ物だとか、とっておきの食べ物だとか説明しているのが微笑ましい。
食べる前に、そんなに敷居を上げて大丈夫なのだろうか?
初めて見る食べ物におっかなびっくりのララだったが、リリたちが食べて見せると興味を持った様だった。一口目を食べさせることができれば、問題はないだろう。
ぎこちないながらも交流をしているヴォルフたち一家を見て、司は温かい気持ちに包まれていた。リリたちに自分の姿を投影していたのかもしれない。
「本当に、再会できてよかったな、リリ」
司のように、したくてもできないようになってからでは後悔しても遅いのだから。




