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6-30 久方ぶりの邂逅

 リリたちに乗って移動を続けること3日。

 徒歩で進むなら1か月はかかりそうな距離を、ウルの民は強靭な脚力で楽々と走破した。


 世界的な位置関係としては、ウルの森の遥か南。

 森の端を通る、流れの急な河沿いに草原を進む。さらに荒野を抜け、海が見える場所へ。


「司の見立てだと、目的の場所まではもう少しか?」


「リリの見た情報だと、たぶんこっちのほうで良いと思うんだよな~。あってるよね?」


「私にはよくわからないです……」


 これはリリが見た記憶を辿る旅。


 ウルの森の東端にある河を流れに沿って下り、草原に出る。

 草原からは、リリが感じた匂いの順番に南の方向へ進む。

 最終的な目的地は海の側に立つ一軒家。


「でも、もうすぐ海なんですよね? 最悪、真っすぐ着かなくても、海沿いを走って探せば何とかなるんじゃないですか? まだ時間はたっぷりありますし」


 何という武神家の前衛的思考か。いや、何事にも前向きな大らかさか。

 宗司もそうだが、武神の人間はあまり悩むということをしない。

 そして、何でも力技で解決しようとする傾向があるのが残念である。


「舞の言う通りです。この辺りは初めて来る土地なのですから、探す時間を費やすのはしょうがないことでしょう」


 ルーヴも賛成らしい。

 女衆の承諾があるならば、男衆に異見はない。それが真理である。



 まぁ、とりあえず行ってみよう思考となった一行。もはや、気楽なものである。


「むむ? 海の匂いがしてきましたよ!」


 しかし、海が近づいたことを知らせるためにリリが伝えるのとほぼ同時くらいに、


「!? 止まれ! 来るぞ・・・!」


 先頭のヴォルフから警告の声が上がった。


 何かの接近に備えて、ヴォルフを先頭に防衛陣形で身構える。

 背中の司たちも対処ができるように臨戦態勢に突入だ。


 それは警告から1分も待たずに現れた。


「お前たち! 何者だ! ここに何しに来た! ここから先は進ませないぞ!」


 ヴォルフたちよりも一回りほど小さいくらいの、リリよりは確実に大きい立派な身体。

 ヴォルフたちと同じ、茂ゆる森林のような深緑の毛並みを持ち。

 ウルの民が生来備える、強靭な脚が生み出す力強い足取りと体捌き。


「あれって……」


 舞が呟くのも仕方のないこと。

 それは、あまりにもヴォルフに似ていた。


 急に訪れた司たちを警戒し、いつでも対応できるように身構えて。

 油断なく見つめる眼には、強い意思の輝きが宿り。

 低く、唸るように威嚇の声を上げた。


「そこから一歩でも、こちらに近づいたら、許さないからな!」


 深緑の、年若い古狼。


「アオーーーーーン!」


 相手を一目見たヴォルフが、空に向かって全力の遠吠えを上げる。


「アオーーーーーン!」


 数秒遅れてルーヴも、空に向かって全力の遠吠えを上げる。


 困惑する若狼を前にして、2人で交互に、何度も何度も、空に向かって遠吠えを上げる。

 その遠吠えには、何の意味があったのか。

 小刻みに震える身体には、どんな想いが渦巻いているのか。

 いつしか2人の目には、滂沱の涙が溢れてた。


 どこかに嬉しさを滲ませた様な、力いっぱいの遠吠えはどれくらい続いただろう。


 敵意はないとでも伝わったのだろうか。

 初めは困惑していた若狼は、最低限の警戒態勢をとってはいるが当初ほどの刺々しさは見られなくなった。


「やれやれ、急に出て行って何事かと思ったら、こういうことじゃったか」


「じいちゃん!」


ララ・・、こいつらは大丈夫じゃ。わしの、客じゃよ」


 後ろからの声かけに反応して、若狼が即座に駆け寄ると、

 完全に警戒は解かないままだが、嬉しそうにその人物にすり寄る若狼。


 歳のわりにはガタイの良い筋肉質の身体。

 短い白髪はそれなりに切りそろえられていて、あごにはチクチクしそうな無精ひげ。


「あ! 白いお髭のおじいちゃんです!」


 リリが真っ先に声を上げて誰が来たのかを知らせた。

 白いお髭のおじいちゃんと呼ばれた人物は困ったような、嬉しそうな、微妙な表情だ。


「元気そうじゃな、孫よ」


「くそじじいめ……」


 司は珍しく不機嫌な顔。

 久方ぶりに邂逅した祖父と孫は、10メートルの距離を空けて睨み合ったまま。

 最初の言葉以降、お互いに何も口にせず、ただ時間だけが過ぎる。


 均衡を崩したのはリリだった。


「ねぇねぇ、あなたのお名前はララっていうの? 私はリリ! よろしくね!」


「こら! 勝手に近づくな! じいちゃん! こいつら誰?」


 ララと呼ばれた若狼は、無邪気にニコニコして近づいてきたリリにタジタジだった。

 対応に困って、司の祖父、源に助けを求めるように話しかける。


「わしの子供の子供じゃ。家族じゃよ」


「え? じいちゃんの子供の子供? どれが?」


「あれじゃ、あれ。あそこで嫌そうな顔をしている若造がそうじゃ」


「へ~、じいちゃんに少し似てるね」


 司の顔を改めて見た若狼は、うんうんと頷いた。


「まぁ、立ち話もなんじゃ。わしの家に行くか。そちらのお嬢さんと狼? の方々もどうぞこちらへ、先導いたしますじゃ」


 そう言うと、ララに乗って駆けていく源。

 リリは、すぐにその後を追いかけていった。

 司のことを忘れて行ってしまったことから、余程ララの事が気になるらしい。


「ヴォルフ、ルーヴ、よかったな。お前たちと、リリがあの様子なら当たり・・・だろ? 早く追いかけて話しをしよう」


 全員で頷き合うと、司たちは源の後を追いかけて行った。

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