6-27 武神家への報告
司はリリと一緒に、出発前の報告を兼ねて武神家を訪れていた。
「まぁ、リリちゃんいらっしゃい。これ食べる? こっちにリンゴもありますよ?」
「わーい! リンゴです! いただきます!」
「ハハハ! リリちゃんは可愛いなぁ。まるで幼い頃の娘を見ているようだ……リリちゃん、うちの子にならんか?」
「おじちゃん、ごめんなさい……私は司さんのお家が良いんです。あそこには、お父さんとお母さんもいますから」
「巌さん、あなたという人は……」
「おお、すまんすまん。冗談だよ、冗談。リリちゃんがあまりにも可愛かったから、ついな。でも、たまにはこうやって会いに来ておくれよ?」
司は舞と宗司に任せて、リリの世話を焼く武神夫妻。
前回、リリが臥せった時に何もできなかったのが悔しかったらしい。あれからリリへの対応がさらに激甘になった気がする。
「あのバカ親父め……」
「これでは、どっちが本当の子供かわからんな! がはは!」
リリを溺愛する2人を見て、微妙な表情の舞。
父親の巌から、自分の昔話がいつ飛び出すか気が気でないご様子である。
「それで、司よ。また行くのか?」
「ええ、ちょっと用事が出来まして。最長で1か月程です」
「そうか。司を見る限り厄介ごとじゃなさそうだから、今度は比較的心配いらんか」
「そうですね、今回の目的は人に会いに行くだけなので、小旅行みたいなものです」
言葉少なめだが、それだけで通じる司と宗司。
師弟とは似るものなのか。ある意味で、この2人も肉体言語派なのかもしれない。
「それでは出かける前に、少しだけ稽古をつけてやろう」
「……え?」
「今回は、お前が舞の相棒なのだからな。少しでも力量を上げておけ」
そう来るとは思ってなかった司、しばらく宗司の言葉を理解できなかった。
出発前に、どこか身体を壊さないように願うばかりなのである。
そして、いつの間に舞の護衛役に抜擢されたのか。きっと司は護衛される側である。
いや、宗司の心情的には、司を信頼しているのかもしれない。義弟として。
宗司が司を扱いている間、リリは武神夫妻に構われ続けていた。
オヤツの後は全身ブラッシング、至れり尽くせりの状況だ。
「はわ~、気持ちいいです~」
「リリちゃんはローズマリーみたいで綺麗ですね。ローズマリーの花言葉は、静かな力強さっていうんですよ。司さんの助けになっているリリちゃんにぴったりなお花でしょう?」
凛がリリを膝の上に乗せて丁寧にブラッシングをしている……のを羨ましそうに隣で見つめる巌。自分も混ざりたい、彼の目がそう語っている。
「ろーずまり? ですか~。凛さんがそれ程おっしゃるなら凄いお花なんでしょうね~。いつか見てみたいです~」
「ほう! ローズマリーとな! 少し待ってなさい! 今から花屋へいってk……ごはっ」
「やめんか!」
リリのつぶやきを聞いて、早速花屋に走り出そうとしていた巌は娘にどつかれた。
「あらあら、巌さん。今は季節が違いますからお花屋さんにいってもありませんよ」
滑らかな動きで地面にダイブした巌にかける言葉ではない気がするが、ここは武神家である。細かいことは気にしてはいけない。
「親父、私が言うのもなんだが、もう少し考えて行動したほうが良い気がするぞ? 舞、こちらは終わりだ」
宗司が舞に声をかけると、用意していたタオルとペットボトルを持って、離れたところで仰向けに倒れる司に即座に駆け寄る。
「あらあら、舞ちゃん、案外ちゃんと女の子しているじゃない、ふふふ」
舞に嬉しそうな視線を投げる凛だが、手元のブラシは澱みなく動き続けている。
「母さんがそんなだから、親父がこうなるんだぞ? リリが可愛いのはわかるが……」
「あらあら、人聞きの悪い」
お気づきかと思うが、武神家で最も頑固なのは凛である。
彼女は一度こうと決めたらテコでも動かない人間の部類なのだ。尤も、他の人間も大なり小なりそんな感じではあるが。
「それで今回行くのは舞ちゃんだけで、宗司は行かないのですか? よく単独で行くことを、あなたが許可しましたね」
「うむ、あの司の反応を見る限り危険はないと判断しました。それに何やら知人に会うようなので、部外者の私がついて行ったら野暮というものでしょう」
いつも空気読めない男だと思っていたが、意外と空気の読める男だったようだ。
「婿殿がついているのだから、よほどのことがない限り大丈夫だろう。やはりわしの目に狂いはなかった。それに、お前があれほどに目をかけているのだからな」
いつの間にか復活していた巌が真剣な顔で物申す。いつもこうなら格好いいのにと思う。
「大丈夫です! 今回は私のお父さんとお母さんが一緒なんですから! 心配ありません!」
「おお、そうかそうか。リリちゃんの家族が一緒なら安心だな~。よろしく頼んだよ~」
リリの元気のいい発言によって、シリアスは5秒で砕け散った。




