6-26 遠征前の小休止
普通のミツバチが、いつの間にかどう考えてもモンスターと化していた件。
司は乗り越えたというか、とりあえず気にしないことにした。
呪縛から解き放たれた干支神家のプラントエリアは、この先も順調に魔境化が進んでいくのだろう。小竜たちの手によって。
ミツバチの要望については、好き嫌いがわからないので、複数の種類を試すことにした。
まずは巣の近くにテーブルを用意して、果実類を置いておくだけ。
結論としては、バナナとマンゴーなどの南国系を好むようで、水っぽいスイカやメロンなどは好まなかった。
好むものは定期的に供給することをリリが伝えると、伝令蜂と働き蜂が嬉しそうに飛び回っていた。ただ、その数が多すぎてリリが覆われたようになったから焦ったが。
連れてきた3人はというと、悟った顔をしていた。こういうものだということを現実として受け入れたようだ。
尤も、仮に説明を求められたとしても、司には証明することができないので困る。
最悪、現地にご案内することになってしまうのだが、宗司からまだ許可が下りていない。
「リリちゃんは賢いワンちゃんだな~くらいにしか思っていなかったですけど、これはちょっと現実離れしすぎです~。そう言えば、あの丸いフワフワしたものも謎でしたが~」
「ああ、ハムダマの家族な。あいつらも元気だぞ。帰りに会ってくか? あー、ダメか。今は子供ができたみたいで、母親の気が立っているらしいんだ」
「へ~、あの子たちって司さんの家に住んでるんだ。元気で過ごしているならよかったよ」
「司、宿泊許可求む。私はしばらくここで暮らす。ヴォルフの住処に間借り」
「おいおい、ヴォルフのところに泊まるとか、ダメにきまってるだろ……ヴォルフたちだって嫌じゃないのか?」
「大丈夫、本人たちの許可は得た。後は、司が許可すれば問題ない」
司がミツバチに気を取られていた間に、交渉が進んでいたようだ。その後は、何とか優を宥め空かして説得を行い、お帰り頂くことを不承不承だが納得してもらった。
澪たちが衝撃的な邂逅を終えて屋敷の応接室に戻ると、そこには先客がいて、
「澪たちが、その顔をしているということは一通り見たんですね?」
自分も通った道と言わんばかりに落ち着いた舞が、お茶とケーキを食べて待っていた。
「舞ちゃんが黙っていたのは、これだったんですね~。納得でしたよ~、これは外部には絶対に出せません~」
「優、1人だけずるいよ! あ、橙花さんありがとうございます! いただきます!」
「もぐもぐ」
舞の時はリリがしゃべるというとっかかりがあったので導入がスムーズだったが、澪たちはいきなりバーンだったので余計にきつかっただろう。
しかし、ケーキが目の前に出されると意識はそっちへ持って行かれたようだ。
既に優は食べ始めていた。こういうことには抜け目がない。
一息ついたところで兎神がやってきて、澪たち3人に改めて守秘義務を伝える。
もちろん書類では残っているが、それよりも最後に呟いた『私の手を煩わせるようなことにならないことを祈ります』という言葉のほうが恐ろし過ぎる。
「舞さーん!」
「リリ、もうすっかり元気ですね」
舞は、不意打ちで勢いよく飛びかかったリリを慣れた手つきで受け止め、空中でくるりと1回転させて膝の上に落とす。
「びーーー!」
「ぐほっ」
司は、不意打ちで勢いよく飛びかかったクーシュを慣れたように体で受け止め、悶絶する。
母鳥の袋の中で寝ていたはずだが、起きて司たちを追いかけてきたようだ。
「もう! 司さんに体当たりはダメって言ってるでしょ! クーシュ!」
リリはクーシュの行いを見てぷりぷりと怒る。自分も同じようなことをしているのだが。
「リリちゃんたちがしゃべっているのもアレなんですけど、この生き物も何なんでしょうかね~。本当に」
「有袋類で、ペンギンのような特徴の生き物は地球上で未確認。新種発見」
「もう私は考えるのやめたよ?」
リリたちウルの民やクーシュたちフェルス族が話して意思疎通ができることを知った今となっては、生物の特徴なんて些細なことである。
「まぁ、そういうことだから、くれぐれも他言無用な。さっきは兎神が怖いこと言ってたし」
「リリたちは決して見世物じゃありません。もう私の家族ですから。あなたたちもそのつもりで接してあげてください」
司たちに念を押されなくても、3人はそのつもりだ。迂闊なことをして、物理的なアサシネイトなんて御免被る。
3人が帰った後、舞は司に予定を訊ねた。
「それで、今度出かけるのは、いつからなんですか? 同行するのは?」
「3日後かな。最低1週間、最長1か月ってところだ。同行するのは、リリとヴォルフとルーヴの予定だ。今回は、爺に会いに行くだけだし。家の問題だ」
舞が今日干支神家を訪れていたのは、それが理由である。
「私も……一緒に行きましょうか?」
「んー? んー」
親同士が決めたこととはいえ、当事者と言えば当事者の舞。
その控えめな主張に対し、司は考え込んだ。




