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6-23 武神家での日常

 いつの間にか、メイド服で居る事に違和感が無くなっていて、仕事では橙花の薫陶を受け、今日も背景に溶け込んでいた人がいた。


「ねぇねぇねぇ、最近、私って影薄くない? 大丈夫? 私、息してる?」


「いきなりなんだよ……」


 皆さま、覚えているだろうか? この人物のことを。


「段々と、私の扱いが雑になってきてない? ここ数日、存在している描写が書かれてない気がするんだけど」


「例え、そうだとしても、そんなこと俺に言われたって困るぞ」


 干支神家で要注意人物の筆頭、居候のカノコである。


「私、気づいたんだ。居場所ってものは自分で作らないといけないって、他人から与えてもらえるものじゃないって」


「いや、それでお前は俺の部屋に何しに来たんだよ?」


「ということで、次に司が出かけるときは一緒について行きます!」


「お前、扱いが面倒くさいからダメ」


「えええええ、そんなぁ」


「まぁまぁ司様、最近は真面目に仕事もして役に立ってきてますから、たまには息抜きでもさせてもいいかと思います」


 拒否する司に対して、最終的には橙花から説得されるという一幕があって、


「それで、一緒に家に来たということですか?」


「今日は、カノコさんも一緒です!」


「ああ、もし迷惑なら強制送還するから。おい、1人でウロチョロするんじゃないぞ」


 しょうがないのでカノコを連れて武神家に来た司だった。

 それを武神家の門の前で律儀に待っていた舞に説明すると、彼女はやや訝し気な表情をした。


「ねえねえ、宗司はどこにいるの? いるんでしょ?」


 なぜなら、入口からキョロキョロと中を窺う怪しい人物だったからだ。


「宗司兄ですか? さっきは道場のほうにいましたけど」


「ほうほう」


 舞から答えを聞くと、1人でスタスタと歩いて行くカノコ。向かっているのは道場の方向である。


「お、おい、勝手にどこ行くんだよ……」


 単独行動をしようとするカノコについて行こうとする司だったが、思わぬところから待ったがかかる。


「あの、司さん……あれって、そういうことですか?」


「あれ? それ?」


 舞の言葉には何か含みがあるようだが、あれそれこれでは司には全く訳がわからない。

 リリも同じくである。それにしても、司の腕の中でこてんと首を傾げるのが可愛い。


「あー、わからないのなら、何でもないです。私たちも道場のほうへ行きましょう」


 司にとっては随分と消化不良だが、舞はそれ以上話す気はないようなので諦めることにした。



 舞の後を追って道場へ向かった司とリリが見たものは、魔王だった。


「フハハハハ! まだまだぁぁ! これしきで根を上げていたら日が暮れるぞぉぉ」


 魔王の宗司を前にして、力及ばず地面に倒れ込むのは3人。

 赤の戦士、詠美。青の僧侶、澪。黄の遊び人、優。

 命がけで習得した技の悉くが通用しない魔王をどうやって倒せばいいのか。

 しかし、ここで魔王を倒せなければ多くの民が犠牲になる、決して負けるわけにはいかない……


「何を適当なナレーションしているんですか? お母様?」


 宗司たちと一緒にいたのは舞の母親の凛だった。割とノリノリである。


「あ、こんにちは、司さん、リリちゃん。いらっしゃい」


「凛さん、こんにちは」


「こんにちはでーす!」


 舞をさらっと無視して司とリリに微笑む凛。司たちとはそんなに接点が多くないのだが、未だに謎の多い女性である。


「で、お母様。3人はどうなんですか?」


「武神流の見込みはないですね。根性だけではどうにもならない領域がありますから。一般的な運動能力という点では及第点くらいでしょうか」


「そうだね、宗司や舞ほどの才能はないだろう。でも、あの3人は何であそこまでやるんだい? 明らかに向いて無さそうに思えるんだけど」


 訓練風景を見ていた凛とカノコが客観的に澪たち3人を評価するが、どうも成果は芳しくないようだ。


「よし! 休憩だ。母さんが差し入れを持ってきてくれたようだ。甘いモノは……無理そうだな。だが、水分は無理やりにでも飲むように。でないと脱水症状で死ぬぞ? あと、塩も少し舐めとけ」


 そういって渡されたのはヤカンに入った麦茶。


 もうすぐ冬になるというのに時季外れも甚だしいが、武神家の稽古ではこれが日常である。汗をかいたら塩を舐めろとか、いつの時代の風景か。


 よろよろとゾンビのような足取りで麦茶のヤカンに群がる3人の顔には疲労困憊という文字がでかでかと書かれていた。


 普段あれほど騒がしい3人が終始無言。何が、それほどまでに3人を掻き立てるのか。


「って、こんなのやってられるかーーー!!!」


 感心していたら、優が噴火した。


 もともと運動は苦手だし、計画立案当初から何かと反対運動を展開していた彼女が、ここまで付き合っていたのが不思議ではあった。


「こんな3Kな職場は認めない。業務改善を要求する。それまでは断固としてストライキ」


 ここで3Kとはきつい稽古、苦しい稽古、厳しい稽古の略である。本来の意味で用いられているものではないので注意が必要だ。


 予想していた光景に、司はため息をつきながら、まずは3人と話をしてみようと思うのだった。

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