6-18 双子の記憶
気づいたら、私は闇の中を漂っていた。
昨日も司さんとお風呂に入って、クーシュと一緒にお布団で寝たはずなのに。
近くには、誰もいない。一体、ここはどこなんだろう?
まるで地面がないみたいにフワフワ、エレベーターに乗った時の感じに似てる。
夢の中なのかな?
場面が変わった。
急に動けなくなった。しかも、身体がぐるぐる回転してる。目が回りそう……。
それに寒い。寒いというよりは冷たい? これは冷たい風に吹かれた寒さじゃない。
ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる。
目が回る。息苦しい。怖い。寒い。
近くに来た何かに、必死にしがみ付く。助けて。助けて。助けて。
何かにしがみ付いてからは、ぐるぐる回転することはなくなった。
だけど、寒いのは変わらない。それに、身体もうまく動かない。
何かにしがみ付いて、かなりの時間が経った。
前脚がぷるぷるする。捉まっているのも限界が近い。寒いから余計に力が入らない。
でも、またあのぐるぐるに戻るのかと思おうと、ぞっとする。
司さんたちと一緒に寝る、ふわふわで温かなお布団が恋しい。司さんはどこだろう? 心配をかけていないといいけど。
押さえつけられているような圧力が弱くなって、ちょっと動けるようになってきた。もうちょっと弱くなれば、ここから抜け出せるかもしれない。
クーシュは大丈夫なんだろうか? 私みたいに寒い思いをしていないといいけど。あの子はまだ赤ちゃんだから、こんな思いはしてほしくない。
前脚が限界。
ずるずると身体が何かからずり落ちていくのがわかる。力が入らない。
あの冷たくて、動けなくて、気持ちが悪いぐるぐるに戻りたくない。司さん、お父さん、お母さん、誰か助けて。
私が一生懸命求めたからか、救いの手が現れた。
唐突な浮遊感の後、冷たくて動けなくなる何かから引っ張り出された。身体も自由になった。よかった、助かった。親切な人、ありがとう。
でも、助けてもらってなんだけど、私の扱いにちょっと不満。
首を掴まれて持ち上げられている感覚。これ、前に何かで見た気がする。そうだ、俗に言うネコ掴みというやつだ。司さんにテレビで教えてもらった。
子供の頃、お母さんたちにもこうやって運ばれてたみたいだけど、小さすぎて記憶にないからノーカウント。
私、もう子供じゃないし、ネコでもないんですけど?
掴まれて、ぷらーんな状態でしばらく移動。
は、恥ずかしい……しかも、抵抗もできないなんて理不尽だ。
周りの匂いがどんどん変化する。土の匂い、草の匂い、木の匂い……あれ?
助けてくれた人は親切だ。1人で動けない私にご飯をくれているらしい。
お肉をがじがじして砕いたやつ、これって昔、お母さんがやってくれてた。離乳食?
たまに変な草の味が混ざる。司さんたちのお家があるところで育てているような、お野菜みたいに甘くない。ただただ、苦いだけの草の味。まずい。
ご飯を食べたら一休み。助けてくれた人も休憩しているみたい。
ぷらーんな状態で移動をして、ご飯を食べて、休憩をしてが何回も繰り返された。結構な距離を移動しているみたい。
どこかにたどり着いたみたい。恐らく、助けてくれた人の目的地。
この匂い、私は知ってる。
司さんと、橙花さんと蒼花さんと一緒に、初めて旅行に行った場所。
舞さん、宗司さんと一緒に泳いだ場所。
舞さんのお友達の大きなお船とお家がある場所。
たくさん食べて、たくさん遊んで、たくさんの友達が出来た場所。
凄く広くて、どこまでも青くて、お魚がいっぱいいて、しょっぱいお水の……海だ。
「ふぃぃぃ、やっと家に着いたわい。この歳になると長旅はしんどいの」
「小さいの。お前も、ここまでよう頑張ったな。いや、老い先短い爺よりも先にくたばっとる場合じゃないか?」
「まぁ、何はともあれ。今日からここが、お前の家じゃ」
初めて、助けてくれた人の声が聞こえた。
何となくだけど、温かくて、優しくて……司さんに助けてもらって、一緒に寝た夜のことを思い出して、涙が出た。
「泣いとる場合か、まずは、お前の寝床を作らんとな。いや、名前が先か?」
助けてくれた人は、私を家族にしてくれようとしているみたい。でも、私にはリリって名前があるの。お父さんたちと、司さんのお家に住んでるんだよ?
「うーん、何が良いかのぅ。珍しい若葉のような色の毛並みじゃから、ミドリ……は安直すぎる。おっと、お前は男の子じゃったか。では、ミドリは却下じゃな」
え?
私の毛並みは紫色だよ? 司さんがいつも綺麗だねって褒めてくれるもの。
それに、私は女の子だよ? お母さんみたいな立派なウルの女になるんだから。
「そうだのぅ。※※。そうじゃ、※※がいい」
肝心の部分が聞こえない。ねぇ、助けてくれた人、あなたは今、何て言ったの?
今の私は本当にリリなの? ねぇ、教えて。




