6-16 司の疑問、隠されていた過去
リリが昏睡状態になってから、翌日の朝を迎えた。
「リリ? リリ? 朝だぞ? 散歩の時間になったよ?」
朝7時になって、散歩の時間を教えるように司が声をかける。何事も無かったように、リリがひょっこりと起き出すことを期待して。
「ダメか……」
司の声掛けに僅かに反応するものの、依然として覚醒する様子は見られない。これで24時間以上は寝たままの状態である。
「いつも元気なリリが傍にいないだけで、ここまで辛いとは……」
「いや、ダメだダメだ。俺がしっかりしないで、どうする!」
司はバシッと両頬を叩いて弱気な心を追い出す。落ち込んだとしても、リリが良くなることは絶対にない。
「司さん、リリの様子は私たちが見ておりますので、少し休憩をなさってください。それに食事をとられたほうが良いと思います」
「いえ、大丈夫で……」
「ダメです。昨日から、ほとんどお食べになっていませんよね? 橙花さんも心配しておりました」
人間は1日食べなかったくらいで倒れはしない。しかし、そんな様子を見ていたルーヴは司の事を嗜める。
「もし司さんが倒れでもしたら、リリが起きた時にどういう想いをするか、わかっていますでしょう? きっと、こう思うはずです。私が司さんにご迷惑をかけたから、と」
言葉に詰まる司。尤も、その様子が言葉以上のものを語っていた。
「お食事をとって、少し休んで、お風呂にゆっくりと入られて、さっぱりなさったら部屋にお越しください」
「うむ、そうしたら、少し話をしよう」
ルーヴとヴォルフの言葉を聞いて、ハッと顔を上げる司。
「何か、私たちに聞きたいことがあるのだろう?」
まるで、自分の両親の様な、優しい瞳で司を見つめる2人。
「……わかったよ。少し待っててくれ、すぐに戻るから」
不意に図星を付かれた司は、ウソが見つかって気まずい子供のような顔で部屋を後にした。それを2人は興味深そうに見送った。
「自分の事なのに、案外わからないものだ。ヴォルフたちにまで気を使わせてしまった」
食事とお風呂を済ませた司は、驚くほど気分が落ち着くのを実感していた。知らず知らずのうちに気を張り詰めてしまっていたようだ。
「ヴォルフ様たちなら兎も角として、司様が食事も取られない程に取り乱してどうしますか?」
「司様が気を張っても、リリ様が良くなることはありません。今、必要なのは、状況を冷静に分析することです。尤も、今回はそれを諭すことができなかった我々が言える立場ではありませんが」
落ち着いてから漏れなく橙花と蒼花からお小言を頂いた司。ごもっとも過ぎて、何も言い訳ができないので、ありがたく頂戴しておく内容だ。
トータル1時間程の休憩を経て、司はリリの元に戻ってきた。
「あら? もう戻られたのですか? もう少しゆっくりなさってもよかったのに」
司の足音に気づいて、ルーヴが声をかける。ルーヴはリリを包み込むように、ヴォルフはベッドの下で伏せて待機していた。
「気を使わせたようで、すまなかった。考えてもみれば、ヴォルフたちのほうがリリのことを気にかけていてもおかしくないのに、俺ばっかり取り乱して」
「落ち着いたようだな。いや、それだけ娘の事を心配してくれているのだから、ありがたいことだ」
ヴォルフがそう言うと、ルーヴも同意するかのように頷いた。
「それで、私たちに話があるようだと思ったのだが、違ったか?」
「ああ、昨日ちょっと変わったことがあったんだ。内容も、その事実か、そうじゃないかがわからないし。2人にも、リリがこんな状態にならなければ聞くつもりもなかった」
「??」
ルーヴはわけがわからず疑問の表情を浮かべていた。説明が抽象的すぎるからだろう。司の顔には気まずい、と大きく書いてある。
「そんなに、私たちに聞きづらい内容なのか? だが、リリに関係する事なんだろう?」
「ああ」
しかし、避けて通るわけにもいかず、司は意を決して、2人に聞くことにした。
「初めに言っておくが、今から俺が言う事は、事実かどうかもわからない。それを踏まえて、相違があったら、すぐに言ってくれ」
ヴォルフたちが頷くのを確認してから、司は昨日の夢の内容を話し始めた。
一通り、内容を説明し終わったところで、
「なるほど……確かに、これは司からは聞きにくい内容だろうな」
ヴォルフの見た目は普段通りだが、ルーヴのほうは話を聞いて明らかに辛そうな顔をしている。あまり触れてほしくない、そんな印象を受ける。
「じゃ、俺が見たアレは事実なのか?」
「……そうだ。内容に間違いはない」
態度に変化は見られないが、ヴォルフの口調も重い。
「夢の最後は、枯れた大樹のところで魔獣に襲われる直前だった。あの後、ヴォルフたちがどうなったのか。それに、リリは双子だった。ならば、もう一人の、深緑の兄弟は?」
ヴォルフはベッドの上のリリとルーヴを見て、
「それは、私が話そう。司、ルーヴたちのために部屋を変えさせてもらっていいか?」
「ヴォルフ、大丈夫です。私たちの子の話ですもの。ここで」
ルーヴの承諾を得て、ヴォルフは一息置いてから過去を話し始めた。




