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6-15 これは夢か、それとも現か

 司は夜中に目が覚めた。


 気持ち悪い。


 不自然なほど身体はびっしょりと汗をかいていた。幸いなことにリリとクーシュは離れて寝ているようなので、そっと抜け出せば起こすこともないだろう。


「嫌な夢だったな……あれが原因か?」


 無意識に呟いてしまうほどに、気味が悪く、妙にリアルな夢だった。


 登場人物は司の知り合いだし、2人が感じた気持ちも、まるで自分がヴォルフたちのようにフィードバックされていた。むせかえるような絶望感が痛々しい。


「まずは風呂入ろう……」


 リリたちを起こさないように静かにゆっくりと部屋を出て行ったそんな姿を、じっと見つめる2つの目があったことに、司は気づいていなかった。



 さすがにこの時間ともなると、既にお風呂の掃除は終わっていた。橙花の手を煩わせるわけにはいかないので、司はシャワーだけを使う。


「何であんな夢みたんだろう……あれってヴォルフたちだよな」


 司は先ほどまで見ていた夢を思い出す。昔から変な夢を見ることは極稀にあった。でも、大体は意味のない内容だったり、断片的だったりすることが多い。


 あんなに鮮明に『見えた』のは、両親を失うことになった、あの事故以来だ。


 あの時、両親に注意を促せなかった自分の事を、司はずっと後悔している。自分が原因ではないというのに、事故から10年以上も経っているというのに。未だに、あの光景が忘れられないでいる。


「こういう時は、風呂に入って落ち着くのが一番……」


 司はシャワーを浴びようとして、ふと気づいた。何かがこちらの様子を窺っている……この状況で考えられるのは1つだけだが。


「リリ、起きちゃったか?」


「司さん、こんな時間にお風呂ですか?」


 案の定、ガラス扉の向こう側からこちらをひょっこりと覗き込んでいるリリだった。こっそりと抜け出したつもりだったが、起こしてしまったようだ。


 その後、司はリリと一緒に本日2回目のお風呂に入って汗を流し、部屋に戻った。さっぱりとした身体でリリとくっ付いて寝たら、夢の続きを見ることなく熟睡できたのだった。


 抱き枕ではないが、リリには癒しと安眠の効果があるようだ。


 司は微睡みの中でホッとした。夢の続きは気になるものの、出来ればあの後は知りたくないと思っていた。あの状況と、現状を鑑みれば、ある程度の推測ができてしまうのだから。


 今、司が出来ることは、2度と悲劇を繰り返さないように、リリたちが幸せに過ごせる環境を作ることだけだった。



 次の日の朝。


 リリの様子がおかしかった。いつもなら散歩の時間前後には必ず起きているはずなのに、司が目を覚まして外出準備を終えても寝たまま。


「リリ? リリ?」


 心配になって声をかけてみるが、覚醒しそうな反応はない。それどころか、魘されているようにも見える。こんな状態は初めての事である。


「司様? どうしましたか?」


「橙花、リリが魘されていて起きないんだ。下手すると病気かもしれないから、ヴォルフとルーヴを急いで呼んできてくれ」


「!? わかりました! すぐにいってまいります!」


 時間になっても起きてこないのを心配して橙花がやってきたので、リリの状態を伝えると即座に反応して折り返していった。



 ヴォルフとルーヴがやってきてリリの状態を確認したが、


「……わからない。こんな様子は初めて見る」


「ええ、我々の一族で、このような症状になった話を聞いたことがありません」


 両親の呼びかけにもリリは反応を示さない。2人にも原因はわからなかった。


「……橙花、今日の予定は全部キャンセルだ、兎神に伝えてくれ。部屋で出来る仕事だけをやる。あと、必ず誰か1人は俺の部屋にいるようにしてくれ。今日は食事もここで取る。あとは、医者か……」


「承知しました。獣医のほうは、兎神のほうで口の堅い方を当たってもらいますので、お任せください」


「今日は、私たちも娘の側に居よう。司、気にするな。時間が経てば、きっと良くなる」


「そうです。あなたが気に病むことなんてありません。日頃から、リリには良くしてくれているのですから」


 原因不明の昏睡。


「……すまない」


 司が完全に取り乱していて、ヴォルフたちのほうが落ち着いている。これでは、どちらが親なのかわからない。


 それからは、司はヴォルフたちと一緒にリリの様子を見て時間を過ごした。部屋で出来る書類整理をしてみたものの、全く気乗りはしないし、集中もできない。


 最後の最後には兎神から、今日はお休みで結構です、とダメ出しをされる始末。仕事では使い物にならなかった。


 その日は、夜になっても変化はなく、司はベッドの横までソファーを移動してきて、そこで休むことにした。クーシュはリリの事が心配なのか、今日は1日ベッドで添い寝していた。優しいのか怠惰なのか、本心はわからないが。いや、きっと心配しているのだろう。



 魘されて、目を覚まさないリリ。司には、たった一つだけ心当たりがあった。


 いや、心当たりというべきか勘というべきか。それは、あの嫌な夢である。夢を見て、次に起きた時に、リリは昏睡状態になったのだ。


 関連性はわからないが。


 もし明日になっても起きなかったら、ヴォルフたちに相談してみよう、司の長い長い夜は始まったばかりであった。

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