6-13 忠義の礼とウルの民の未来
司は珍しくプラントエリアに呼び出しを受けていた。
とは言っても、トイレの裏に来いやオラァ的なお話ではなく、相談をしたいとの伝言である。呼び出し主はリリの父親のヴォルフだったので、リリを帯同して現地へ向かう。
司たちが着くと、ウルの民の住居用コンテナハウス前に全員が既に集まっていた。リリ以外の7頭が、ヴォルフを先頭として綺麗に整列している。
こんなことは初めてである。リリも訳が分からず、司の横でポカーンとしていた。何事か。
「司、改めて感謝を。あなたのおかげで我々の同胞が新たな命を授かった」
ヴォルフが代表して発する。言葉に、万感の想いを込めて。
その後、2頭の組と3頭の組が前に出てきてワフと一鳴きする。子供ができたのはこの番たちなのだろう。ルーヴはまだ妊娠していないようだ。
「そうか……そうか! よかった、こっちに連れてきたから心配してたんだ。環境が変わって問題が起こるんじゃないかって。でも、これで一安心だ」
言葉を察して喜ぶ司に対して、リリはキョトンとしたままだった。
「リリ、子供ができたってさ。まだ雄か雌かわからないけど、リリがお姉さんになるんだぞ? よかったな!」
司の言葉を聞いて理解したリリの喜びようは凄かった。
「赤ちゃん!? 赤ちゃんができたんですか!? わーい!」
ぴょんぴょんと跳ねて喜びを体現したかと思ったら、ヴォルフたちのところに突っ込んでいった。早速、ウル流のコミュニケーションが始まるのが微笑ましい。
一段落して、ヴォルフたちから詳しく話を聞くと、やはり先ほどの2組が妊娠したようだった。雄雌、雄雌雌の番らしいのだが、見た目ではどれがどれなのか未だにわからない。すぐに判別できるのはヴォルフとルーヴくらいである。
目出度い事だが、ウルの民の出産は1回でどれくらいの数が生まれるのだろうか? リリのケースを想定すると多出産とは思えないのだが、ふたを開けたら衝撃事実、ということは避けたい。事前に心構えが必要なのだ。
「それで、何か必要なものとか、注意する事はあるのか?」
その後は、司はヴォルフと打ち合わせをして各自が必要なものを聞き取っておく。その間、リリは子供ができた雌に代わる代わる話しかけていたようだ。余程、嬉しいのだろう。
「それじゃ、早急に対応するものとしては、暖房設備の増設と食事の改善だな。長期的なものとしてはコンテナハウスの増築か」
「うむ、あと子が出来たものたちはしばらく農作業を休むことになる。なるべく雄たちで回す様にはするが、大樹様のお世話係があるからな。今よりペースが落ちるだろう」
「それはもちろん構わない。子供優先で、自分たちの身体を大事にするように言っておいてくれ。あとで俺からも橙花に伝えておく」
「ありがとう」
「あと、どれくらい生まれるんだ?」
「私たちの経験でしかないが、1か2だと思う。我々は寿命が長いからな。そんなに子はたくさん産まれない。だから、我が子の事は、とても愛おしい」
いつの間にか戻ってきてルーヴと話していたリリにグルーミングをするヴォルフ。リリもくすぐったそうにするが素直に受け入れる。ルーヴはその様子を見て、そっと2頭に寄り添った。
この家族を見ていると、リリ達がとても仲が良いことがわかる。以前、ヴォルフたちがリリと別れると決断した時は、それこそ断腸の想いだったのだろう。再開できて本当によかったと思う司だった。
いつか、リリにも番ができるのだろうか? そんなことを考える司だった。問題は今のところ、ウルの一族の中に婿候補がいないことくらいか。
あとは、ヴォルフが長く生きると言っていたが寿命はどれくらいなのだろうか? 身近にいる割には、ウルの民の生態はそれほどわかっていない。近いうちに詳しく聞く必要があるのかもしれない。
司が一通りのことを終えて、戻ろうとしてみんなに声をかけた時に、それは起こった。
「……それって何の意味があるんだ?」
ヴォルフを先頭にして全員が伏せの恰好をとったのだ。リリ以外のウルの民の全員が。見た目は大型犬くらいのサイズだが、7頭が揃って行うと迫力がある。
「これは、我々の忠義の礼だ。大樹様以外には、司にしかしたことはない」
「我々が大樹様の元に再び集い、次世代を育めるようになったのも、全ては司さんのおかげです。私たちは最大限の感謝を、あなたに送ります」
両親のその言葉を聞いて、みんなに習って慌てて伏せをするリリ。一糸乱れぬ様子の中に、リリだけは尻尾がフリフリしていて、とても微笑ましい。
「わかった。受け取るよ。だが、これだけは言わせてもらうと、ヴォルフたちをここに導いたのはリリだ。俺は手伝いをしただけ。あなたたちの娘の力を、褒めてやってくれ」
「……ありがとう」
逆境にあったウルの一族を助けるきっかけ、それは。
たった一人で地球に大冒険をしにきたリリがいて、司と出会ったから。そこからの縁が高じたに過ぎない。小さな子供が精いっぱいの努力をした結果なのである。
司に褒められたことが分かったリリの尻尾が加速していたのには、それを見ていたみんなに自然と笑みがこぼれた。




