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6-12 各人の思惑と計らい

 3人娘が得られた情報を精査しているとの情報を掴んだこちらも負けてはいなかった。


「そうですか。例の3人は、予定通りに誘導できていますか」


「はい、司様たちの話の内容から推測を始めたようです。推測だけで真実にたどり着けるかは疑問ですが。それにしてもよろしいのですか?」


 報告を聞いて満足そうな兎神に対して、蒼花は不満そうであった。


「あなたの不満もよくわかりますが、これは計画の一部です。それに、趣旨は事前に相談したでしょう?」


「趣旨は理解できても、不安になるのです。それが私の役割ですから。そして、何より司様の身に僅かでも危害が及ぶことを容認するのが辛い」


 何故なら、彼女の職務は干支神家の防衛全般にあるのだから、敵とまでは言わないが意図的に外部に情報を出すことを決して良しとしない。


「確かに、時として情報漏えいは組織を危うくします。しかし、理由があっての行動です。今回はその不満を飲み込んでください」


「私も子供ではありませんから、そこはわかっています。ですが、防衛に関する裁量権は私にありますので、有事には対応します」


「ふふふ、あの小さくて怖がりだった蒼花が大きくなったものです。それで構いませんよ。既に防衛はあなたに任せていますから」


「そ、それは、言わない約束です。司様の前では、絶対にやめてくださいよ?」


「ふふふ、今はもう私たちは司様のお姉さんですからね。不甲斐ない姿は見せられませんよね?」


 永い時を一緒に過ごしてきた3人だが、最初からこの関係性だったわけではない。当然ながら橙花にも蒼花にも子供時代があったのだ。


「それでは、この件は計画通りに情報提供を続けるとして……次の問題は例の女です。橙花、様子はどうでしたか? 妙な動きはありませんか?」


「今のところ、不審な行動を見せてはいません。余計なことを考える暇がないように、力量より斜め上の仕事を与えて忙殺するようにしていますから。ただ……」


 次の話題はカノコのようだが、さらっと酷い内容があった気がする。


「ただ?」


「リリちゃんやクーちゃんたちのことを観察している時間が長い気がします。視線に邪な気配は感じませんが、あれは何か意図がありそうなレベルです」


「あとは、先日、司様と武神家を訪れた日を境に、別の考え事をしていることが増えたことでしょうか。意識が散漫な様子をよく見かけますので、注意はしているのですが」


 不審と言えば不審だが、すぐに問題になるレベルではない。そんな内容。兎神はカノコの不審な行動を測りかねているようだ。


「リリ様が何も感知していないので、どこかに連絡を取っている、というのは考えにくいですが、万が一のことは考えないといけませんか。我々の知らない何かがあるかもしれません」


「私はジャミング系の措置が取れないか相談してみることにします。もし仮に通信するならば、何らかの兆候があるはずです」


「そうですね、それは蒼花に任せます。橙花は引き続き監視を。そして、ヤツが何を考えているのかを探りなさい。では、仕事に戻りましょう」


 真面目な打ち合わせを終えた3人は各自の仕事をするべく去っていく。




 仕事が終わると、自分に割り当てられた部屋で寛ぐカノコ。部屋着に着替えてゴロゴロとベッドの上を転がる。


「案外、ここの暮らしも悪くないなぁ。仕事は辛いけど」


 今まで経験したことのない肉体労働で日々お疲れの様子だが、初期程のグロッキーさは感じられない。


「おっと、本格的に休む前にアレアレっと」


 そう言うと机に向かって何やら書き物を始めた。書いている文字は、驚くことに日本語のひらがなだ。


「〇月○日、天気は晴れ、本日の仕事は、資材の搬入確認と屋敷内の掃除、料理については教えてくれるのはまだ先の模様……」


 ただの日記だったようだが……驚くべきことはそこではない。


 元はと言えば、日本語が通じていること自体が謎なのだが、それを言い始めたらキリがない。しかし、文字を、ひらがなを書くことは確実に知らなかったことである。


 カノコが地球に滞在し始めたのはつい最近のことで、この短時間のうちに1つの言語を理解しつつある知能が恐ろしい。


「はー! 疲れたぁ! 明日は5時から橙花の手伝いだし、もう寝よ」


 書き物を終えたカノコは、そのままベッドにダイブして寝息を立て始めた。


 時計を見て、現在の時刻を確認し、明日の予定を認識する。日本人なら誰しもが当然のようにやっていることだが、それをカノコが当たり前のように実行していることを。


 考えてみてほしい。


 まるで環境の違う世界の人間が、突然日本にやってきて、現地の生活や文化を体験する。当初は違いに戸惑うだろう。しかし、数日後には何事もなかったかのように馴染み、溶け込む。


 そんな人間は異常だ。


 しかも、恐ろしいスピードで、その土地のありとあらゆることを学習して、環境に適応していく。それは、天才というべき人間か、はたまた類稀なるスパイの才能か。


 今のところ、彼女の目的がどこにあるかはわからないが、時が経てば経つにつれ、事態が深刻になるような。兎神の予感は正しいのかもしれない。

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