表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

205/278

6-2 女の闘いが勃発

 早くも一人の女が根を上げていた。


「もう無理……もう動けない……」


 午前中の雑用を何とか終えて、昼食の時間になった途端に、食堂の机に突っ伏した女。その顔には疲労が色濃く滲んでいた。キャリアウーマン風の出来そうな女の外見が、やつれていてもはや見る影もない。


「まだ午前の仕事が終わっただけですよ。1時間の食事休憩をしたら、午後の仕事が待っていますから、早く回復することをお勧めします」


「えええええ、ちょっと私に厳し過ぎない?」


「大丈夫です、慣れですよ、慣れ。今日無理やりに10やれば、明日は11出来るようになりますから。あなたが限界と思っているところよりも、もっともっと先に本当の限界があるのですよ。やり続けることが重要なのです。では、13時になったら迎えに来ます」


 さらっと理不尽なことを宣う橙花。だが、実際に彼女は昨日まで雑用を含めてかなりの分量をこなしているのだ。経験者は語るのである。やれば慣れる、と。そして、昼食を置いて必要事項を述べて橙花は下がっていった。


「まぁ、カノコが頑張ってくれた分だけ橙花たちの仕事が減るからな。早く慣れてくれたほうがこっちとしては助かるんだよ。一応、保護という名目だけど、遊ばせておくわけにはいかないし」


「私、ここで生きていけるか、自身ない……」


 残された女は机に突っ伏したまま、稼働初日にして情けないことを宣っていた。しかし、働かざる者は食うべからず。司が言う様にカノコを遊ばせておく余裕は干支神家には存在しないため、何らかの形で貢献しないといけないのである。


「あれ? カノコさん、ご飯を食べないんですか?」


 途中から別行動をしていたリリが食堂に合流した。ご飯を目の前に置いたまま、机の上に倒れているカノコにハテナマークの模様。


 リリの到着と同時に昼食が運ばれてくる。今日は赤身肉を表面だけさっと焼いたブルーレアのコロコロステーキ、温野菜のサラダ、マッシュポテトのナッツ混ぜ、デザートにカットリンゴである。ちなみに、先日の試作フードは未完成なので、まだ食卓には並ばない。橙花は食に関しては一切の妥協はしないのだ。


「あ、橙花さん、ありがとうございます! いただきまーす!」


「はい、どうぞ」


 橙花に感謝をしてから、元気よく食べていくリリ。司の席の後ろに設置されているリリ専用のご飯台は今日も大活躍である。


「ねぇねぇ、リリちゃんのご飯ってさ……」


「皆まで言うな……俺だってわかっているさ」


 新入りのカノコですら気づいたようだ。リリのご飯のグレードの高さに。しかし、それは疑問には思ってはいけないこと。この家の食事は橙花の一存で決まる。決して、疑問に思ってはいけないのである。


 ……というのは冗談で、食べ盛り育ち盛りのリリに出来る限り良い物をというだけの話。ヴォルフたちにも同じお肉や野菜が提供されているし、司たちの食べる物も同様である。リリの分だけ豪華に見えるのは、橙花の惜しみない手間暇が凝縮されているからなのだ。


「あ、食べるのに夢中で、司さんに言うの忘れてました。蒼花さんから伝言です。舞さんがいらっしゃったので昼食後に応接に、だそうです」


「ん? モグモグ……誰だい? モグモグ……その舞っていうのは、モグモグ」


 漸く食べ始めたカノコが司に尋ねるが……行儀が悪い事この上ない。この女、見た目は良いのに、とても残念な生き物な気がしてきた。


「お前、食べるか話すかどっちかにしろよ……舞は、俺とリリの知り合いだ」


「ほうほう……モグモグ」


 尋ねたはいいが、然程興味がなさそうなカノコ。それ以上を聞くわけでもなく食べることに集中し始めた。今のところ、司もカノコに詳しく説明する必要性は感じられなかったので、この場ではそれっきりの話題となった。



 昼食を終えて、司たちが応接に行ってみれば、


「それで? その後ろにいらっしゃる方は、どこの、どちら様でしょうか?」


 この舞から流れ出る絶対零度の闘気は一体何なのか。思わず身震いしそうである。見間違いでなければ、機嫌がとても悪そうに見える。まるで、殴り込みに来たかのような雰囲気で、許嫁に会いに来たとは一片も思えない。



 リリと司が応接室に入ったまでは問題なかった。しかし、カノコが続いて部屋に入ってきた辺りから不穏な空気が流れ初め、


「へー、君が舞か。初めまして、私はカノコ。昨日から干支神家で居候しているんだ。これから、よろしくね」


 カノコが自己紹介したくらいから露骨に顔が無表情になり、


「司の知り合いって聞いてたけど、どんな関係なの?」


 この発言でアウトであった。舞の機嫌は一気に急下降し、先ほどの怖すぎる質問に戻る。カノコとしては本当に何気なく、興味本位で聞いただけで他意は全くないのだが、それを受け取った舞はそうではなかった。


 少なくとも見た目だけはモデルレベルで整っていて、グレーのビジネススーツが女の妖艶さを助長する。それでいて司と親し気で、昨日からここに住んでいるという事実。


 そう、舞にとっては宣戦布告以外の何物でもなかったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング  ← 1日1回ぽちっと応援下さると嬉しいです(*´ω`*)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ