6-1 いつの間にか居候(雑用係)は増えていく
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本日から6章スタートとなります。楽しんで頂ければ嬉しいです。
司の後ろを2人と1匹がついて歩く。
1人はビジネススーツをビシッと着こなした女。容姿は非常に整っており、黒に近いグレーのスーツを身に纏い、無駄に眼鏡も身に着けているので、どこの秘書かと間違わんばかりの出で立ち。見た目だけで言えば、仕事の出来るキャリアウーマンのようだ。中身は別物だが。
もう1人は執事服の男。40代くらいに見える渋めの相貌、ただし眼光は鋭い。清潔感のある身だしなみは完璧の一言。髪は乱れないように整髪剤で固められ、服には汚れや皺の一つも見られない。もはや執事のお手本のような出で立ち。彼を見た10人中9人はこう評すだろう。ザ・パーフェクト執事。
最後の1匹は薄紫色の毛並みをした体長40センチの子狼。3人の歩調に合わせるように、少し小走りでトコトコと追いかける姿は可愛いの一言。本日も元気いっぱいのようである。
「司様、今ならまだ間に合いますので、御考え直しを。今すぐにでも、この女を排除するべきです。いつ裏切るかわからないような輩を手元に置くのは、とてもおすすめできません」
「え? おねーさん、もう帰っちゃうんですか?」
「そんなことないよ~。リリちゃん、おねーさんは、しばらくこのお家にお世話になるからね~」
司、彼の世界から来た第二位の女、兎神、リリ。この組み合わせは初めてである。
「まぁ、リリが警戒しないんだから、今のところの実害はないだろう。それに、放逐するよりは目の届く範囲に置いて監視をしたほうがいいさ」
「……女。司様のご厚意に背くような素振りを見せてみなさい。即座に、この世とお別れをすることとなるでしょう。胆に銘じておくことです」
「おー、こわこわ」
司が第二位の女を手元に置くことにした理由。それはリリが女を見ても警戒しなかったからである。勿論それだけで決めたわけではないが、1押しになったのは事実だ。
リリは忘れがちではあるが大樹様の巫女と呼ばれる存在である。不思議な力をいくつか持っていて、うっすらと相手の思考を読んだりすることもできる。だから、相手の悪意や害意には人一倍に敏感なのだ。しかし、そのリリが女を見ても警戒しない。つまり、すぐに問題になるようなレベルではないということの証明なのである。
ただ、依然として素性が知れず、目的も不明なため、司自身も気を許したわけではない。ここからは、お互いの情報を探り合う心理戦なのだ。
「それにしても、名前は何ていうんだ? 呼び方が決まらないと不便だぞ」
「私、名前なんてないから、適当につけてもらって構わないよ?」
「名前がないとか、どういう環境で生きてきたんだよ……んー」
この点に関して、第二位の女は失策である。司にネーミングセンスを期待してはいけない。以前ボルゾイの子犬にボル吉やボル子、丸い居候たちにハムダマと名付けているくらいなのだから。辛うじてクーシュだけは難を逃れているが圧倒的にアレな候補が多い。
「じゃ、カノコで。彼の世界から来たから、カノコ。わかりやすい」
「…………え?」
司の答えを聞いた女は、何を言っているのかわからないような顔で固まった。理由はさておき、司にしてはまぁまぁなセンスだった。かのこ、という名前は日本人ではかなり一般的な部類に入る。普通にしている分には違和感はないだろう。
まぁ、問題なのは日本人離れした体型と目の色なのだが、この点は外国人の血が混ざっているとでも嘯いておけばいい。実際、本当にそうなのだから嘘は一切言っていない。真っ赤な目の色は、兎神がどこからか持ってきた眼鏡をつければカムフラージュできる。正直、黒のカラーコンタクトを入れれば速そうだが、そう言う習慣が全くない女にはこちらのほうが良いと判断したためだ。ちなみに度は入っていない伊達である。
「カノコさんですね! わかりました!」
「では、そのように周知しておきます。戸籍は少し様子見ですね。必要がありそうなら作るように手配しておきます」
「え? え?」
女はあっという間に、しかもかなり適当に決まった名前に若干不満そうにしていたが、リリが覚えてしまった時点で変更は不可である。兎神にとってはどうでもいい内容なので異議は一切ない。ということで、圧倒的多数の賛成で可決となった。
ところ変わって干支神家の倉庫へ移動する。今日は丁度搬入日なので段ボールやプラスチックの容器が山積みだ。
「で、カノコのこれからの仕事だけど、まずは雑用からいってみよー!」
「いってみよー! おー!」
ここには屋敷で生活する上で必要な物資が日夜トラックで運ばれてくる。食材や調味料などの食料品から洗剤やトイレットペーパーなどの日用品、はたまた園芸の肥料など多岐にわたる。
「今日やってもらうのは、ここにあるものが、このリスト通りかどうかをチェックする仕事だ。段ボールの中に入っているモノもあるからちゃんと開けて中身を確認するんだぞ?」
どうやら搬入物とリストを照合するようだが、実はこれが地味に辛い。種類はもちろん、数や重量を一つ一つ確認しなければならないため、かなりの重労働だからだ。
「目標は1時間以内かな。じゃ、始めー!」
「ひーーー! 何これぇ!」
意外と普通に扱き使われる第二位の女。しかし、これはまだ始まったばかり。これまで橙花や蒼花がどれだけの仕事をしていたかを雑用の部分だけを延々と行わされることで思い知ることになる。彼女の受難の日々は、ここから始まるのだった。




