5-65 地球と彼の地を結ぶ門②
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今話で5章完結となります。
1メートルほどの距離を隔てて、お互いに睨み合う男と女。
直立不動で立ち会う2人。仮に闘気というものが可視化できるなら、両者の間に迸るほどのそれが見えるだろう。震えあがりそうになる空気のおまけつきで。恐怖を感じないはずの魔獣が怯んでいるのがその証左。
「やるのかい?」
先に動いたのは女だった。男を挑発するかのように、右足で1歩だけ前に出る。
「……やめましょう。先ほどの失言は撤回します。マザーには、私程度では及ばない深淵なる考えがあるのでしょう。その考えに免じて、今は矛を収めることにしますよ。今は」
一触即発の空気があっという間に霧散した。女の挑発を男は受けなかったから。
「本当に馬鹿馬鹿しいよ。こんなことをしている時間があるんだったら、もっとコレのことを調べたい。時間は有意義に使いたいものだよ」
実際、この場で戦闘が生じた場合、第二位の命はなかっただろう。第一位は万能型、さらに魔核で戦闘面を強化しているバリバリの前衛型だ。対して第二位は知識系の特化型、戦闘能力はほぼ皆無に近い。それでも引かなかったのはそれなりの理由があるのだろう。
「私を試そうとするのは、これっきりにしてほしいよ、ね? それでさっきの説明の続きだけど、魔核があるかないか、コレはそれを見て『許可』を出しているんじゃないかな? サンプル数が少ないから確定とは言えないけどね」
今までのいざこざが無かったように平然と説明を続ける女の心臓は一体どうなっているのか。案外、鋼か何かで出来ているのかもしれない。
「体内に魔核を保有している第一位と魔獣は触れることはできない。魔核を保有していない私は触れることができる。更に、その辺にたくさんいるので試しに捕獲したこの爬虫類、ただの生物なので、もちろん魔核はない」
女はそう言うと、ぐったりとしているアーススイーパーを岩山に向かって放り投げる。
「ね? この爬虫類も触れられる」
放物線を描いて飛んでいったアーススイーパーは、弾かれることなく岩壁にぶつかった。ゴキリと鈍い音がしたのは気のせいだろうか。
「魔核の有無で反応が違うのは理解できました。それで、これからどうするのですか?」
「あー、それなんだけどね。研究のとっかかりは掴めたから、これからはじっくりとやっていこうかなと思っている。今のところ、第一位に任せられる件はないから、私一人に任せてもらっていい。進展があれば報告するようにするよ」
「そうですか。それでは私はマザーから任されている別の案件を片付けに行ってきますので、ここはお任せします」
男はそう言うと、この場を女に任せて立ち去った。その後ろ姿が見えなくなるまで見送ると、ぽつりと呟いた。
「ふう、とりあえず第一段階はクリアかな。さて、ここからが問題だ。開けたら、何が出てくるのか……楽しみだ」
自分一人になったことを確認してから、岩山の入口を開く。その顔には、己の知識欲を満たせる無邪気な喜びに満ちていた。
「あははー、ということで、この拘束を解いてくれるととっても助かるかなー? 君からもお願いしてくれない?」
「司様の身の安全が保障されるまで、解くことができるわけがありません。第一、あなたの話した内容が正しいのかどうなのか、どこにも保証がないわけですから」
「あちゃー、こりゃぁ前途多難だねぇ。あははー」
女はテカテカと黒光りするテープのような物で拘束されていた。急いで対応したためか、豪快にぐるんぐるんの簀巻き状態である。女の背後には兎神が、両サイドを橙花と蒼花が固めていて、かつてないほどの完璧な警戒態勢だ。3人の雰囲気から、妙な動きがあればいつでも排除ができるように意識が研ぎ澄まされているのがわかる。
そんな状況で、簀巻きにされた女は無造作に床に転がされているが、怯んだりすることもなくあっけらかんと笑っている。意外とというか、かなり出るところは出ている体型をしているのでこの状態は案外目のやり場に困る。正直な話、妙齢の女性に対する処置ではない気がするが、兎神たちの警戒は解けないので仕方のない事だろう。
「司様。個人的な意見を進言させて頂けますと、情報をできるだけ引き出して即抹殺するべきです。この女を生かしておくと、こちらの情報を持ち帰る可能性がありますから非常にリスクが高い。指示を頂ければ、私のほうでしっかりと対応しておきます」
「随分と物騒な話をされている気がするなー。こう見えて、私って結構無害なんだけどー」
暗に、拷問して情報を出来るだけ吐かせて砂にして埋めるということか? かつてないほど物騒なことを言う兎神、彼がここまでの意見を口にするのは珍しい。しかし、それは今回それだけのリスクを伴うという事。兎神にとっては、司の存在が最優先なのである。
「待て待て。じゃ、こいつは、あっちから来たということか?」
司が混乱しているのは目の前に転がされている女の素性。見た目は司たちとほとんど変わらない人間の姿。しかし、本人曰く、彼の世界から来たという。今までは司たちしか移動できていなかった門を通って、である。というか、ヒト型の知的生命体が存在したという驚愕の事実。
「……よし! こいつの扱いについては……」
考えた末に司が出した答えは……どうやら、また波乱の幕開けのようである。




