5-62 深い深い暗闇の中で
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男は考えていた。
「まさか、神域を行き来する輩が我らの敵とは……嫌な予感がしますね」
彼らにとって神域とは禁足地。生まれながらにして不可侵を約束された場所。彼の世界には、それらがいくつか存在しており、その何れにも男たちは足を踏み入れることができていない。内部に何があるのかもわからない。
「ただ、1つだけ言えることは、神域が何らかの移動拠点となっていること……か」
以前、男が感知型を使って追跡していた魔核を破壊した者は神域内で忽然と姿を消した。そう、移動して感知範囲外に出たわけではなく、この世界から存在が消えたのだ。
魔核とは、彼らが母と呼ぶナニカの血液である。他者の意識を縛り、身体を乗っ取り、力を与え、生物を殺戮する付与効果がある。その特性上、乗っ取った他者を、母を通じて記憶するという役割も合わせ持つ。つまり、前回の遠征で宗司が乗っ取られかけたことで、宗司の生命パターンを知られてしまっているのだ。
「この世界のどこにも存在しない場所、それを探す必要があるということですか」
男にとっては、まるで謎かけのようだが、実際のところ司たちは地球に帰ってしまっているのだから、強ち的外れの推理ではない。むしろ、その答えにたどり着いただけでも驚異的な思考能力である。
「とりあえずは、あそこの神域がヒントですから監視は続けるとして、何とか内部を確認する手段を見つけたいところですね。さて、どうしたものか」
男は考えていた。
「そして、我々の目標を理解していないだけかもしれない。相手が知性的であれば、交渉も検討してみましょうか。排除を試みるのは、それからでも遅くはありません」
彼らにとって母の意を拒む輩は敵。しかし、それは彼らが復讐するべき生物とは違う。男が明確な憎悪を向けるのは、この世界の生きとし生ける者達。魔核を通じて得られた情報はそれに当てはまらなかったのだ。
男は考えていた。たった1人、暗闇の中で。
思考に没入していた男の元に、背後から1人が近づいてきた。
「さて、どちら様でしょうか? ここに来れているということは同胞なのでしょうか?」
男は振り返りもせずに言葉をかける。今、彼にとって最も重要なことは考えること。それ以外は些末なことなのだ。
「ええ、はじめまして。マザーより、先ほど第二位を拝命しました。第一位のあなたを手助けするようにと」
近づいてきた人物が男に声をかける。そして、マザーという単語を聞いて、初めて男が反応した。思考を止めて振り返ると、そこにいたのは女だった。男と同じく赤い両目の。
「そうですか。今回の件は、私一人では手に余ると、マザーがご判断されたということですね。自分が不甲斐なく感じますが、悔いるのは後にしましょう。実際、割と手詰まりだったので助かります。ちなみにタイプは何ですか? 私は万能型です」
「特化型ですね。神域を崩す役目ということで、マザーが適任だろうとお選びくださいました。概要しか伺っていないので、状況を詳しく教えてくださいますか?」
男は1つ頷くと、今までの経緯を話し始めた。
「先日、我々の計画に沿って、D級の魔獣をいくつか放ったのですが、内1匹が外敵の皆無のエリアで何者かに殺されました。D程度の雑魚がどれだけ死のうとも問題はないのですが、死骸を調べてみたら魔核が1つ抜き取られていたのです。野生生物でそのような行動をすることはまず考えられませんので、知的生物が何らかの目的で回収したのでしょう」
以前、宗司に討伐されたゴリラのような魔獣のことである。赤い石こと魔核は珍しいものを見つけたので拾っただけ、宗司に大した意図はない。そして、その後は司に丸投げである。
「その後、しばらく行方が分からなくなっていたのですが、時を経て、持ち去られた魔核を起点に血の誓が発動しました。マザーがおっしゃるには、対象の取り込みをかけたそうですが抵抗され、弾けたと」
魔核の呪詛である血の誓は、脳筋宗司には通用しなかった。拘束の解除に時間はかかったが、持ち前の強靭な意思で跳ねのけたのだ。しかし、それは宗司だったから効かなかっただけで司や舞だったらどうなっていたかわからない。
「その時、対象の生体パターンを記憶していたので、感知型で追跡をかけたのですが、ある地点で痕跡が途絶えました。その地点を確認したら神域があったというわけです。ちなみに、私が全力で一撃を与えましたが、微動だにしませんでしたよ」
「わかりました。では、私たちの役目は神域の調査と破壊、未確認の敵性生物の排除ということでよろしいでしょうか?」
「神域に関してはそれで構いません。しかし、未確認の生物については、少し私に考えがありますので、対応は任せてください。制圧と拘束までは許可しますが、くれぐれも殺害しないように」
女は少し考える素振りをしたが、素直に頷いた。露骨に、なぜそんな必要が? と言わんばかりの顔をしていたが。
「では、対策を練っていきましょうか」
男は考えていた。ただし、今度は第二位の女と2人で。




