5-61 ハムダマハウス試作1号
この日の朝はいつもと違い、少しだけ喧騒に包まれていた。業者のトラックから荷卸しされたのは大きめのケージと何本ものロール状の布と段ボール箱。それらが玄関ロビーに搬入されていくのが見える。どうやら、兎神たちに頼んでおいたものが届いたようだ。
司は、日課の散歩を終えて朝食を済ませると、ロビーに搬入された荷物をハムダマたちの住処となる予定の部屋へと運んでいく。橙花たちが手伝いを買って出ようとしていたが、司は自分が直接頼まれたことなので、これくらいは一人でやると断った。
リリも手伝いたそうにしていたが、流石に荷物は運べないので遠慮してもらった。ここで大きくなるわけにもいかない。その代わりに、父ハムダマたちに今日の午後には住処試作1号が完成すると伝言を頼むと、嬉しそうにトコトコと歩いて行った。
とりあえず、部屋の外まですべての荷物を運んだ段階で内装に取り掛かる司。元々、部屋にあったベッドなどは既に運び出されていて、今は絨毯しかない状態だ。
まずは奥に設置するケージから組み立てる。縦1メートル×横2メートル×高さ1メートル、畳1畳よりもちょっと大きいくらいのステンレス製の汎用ケージである。もっと大きいほうが良いか? とも考えたが、暗くて狭いくらいが良いとのことだったのでこのサイズを選定したようだ。
既製品なので30分もあれば組みあがってしまった。入口は開放したままにするため、スライド式の物を選んだようだ。バスケットボール大の親ハムダマが通れるように半開き状態で動かないようにバンドで固定する。ぶつかってケガをしないように角をウレタンカバーで覆い、ケージの中にはふんわりと柔らかめのクッションを多めに敷き詰める。後は母ハムダマが自分で位置を調整するだろう。
トイレと水飲み場をどこに設置するか悩んだが、交換したり補給したりするために寝床とは別に設置することになった。1メートル立方のケージを全開放してトイレと水飲みボトルを設置する。このケージは部屋の出口よりの位置に。
次は暗い空間を作るために遮光カーテンを加工する。部屋のカーテンはすべてこれと交換して、締め切った状態となる予定。更に寝床になるケージとトイレ用ケージにも遮光カーテンをかけてズレないように端をバンドで固定する。寝床のほうはカーテンを2重にした。そして、ケージの入口付近は布切りハサミでスリット状にしておくことも忘れない。
部屋の扉は開放状態で足止めをしておいて、内側の上部にカーテンレールを取り付けてここにも遮光カーテンを張っておく。あとはカーテンを閉めて部屋の中を暗くすれば、これでハムダマたちの住処試作1号の完成である。
「おっと、いつの間にか結構時間が経ってる……夢中になりすぎてた」
司が時計を見れば、作業を始めて2時間が経っていた。ふと、廊下に出てみれば、司の部屋からひょっこりと顔だけを出した状態で、見つめる5対の目に気が付いた。
「一応完成したから、確認してくれないか? まだカーテンを閉めてないから部屋の中は明るいけど、寝床を移す時には暗くするよ」
司が苦笑しながら呼びかけると、父ハムダマと子供3匹とリリが駆け寄ってくる。母ハムダマの姿は見えないが、恐らく身体を気遣ってなるべく動かないようにしているのだろう。
「これが寝床用のケージで、あっちのがトイレと水飲み場な」
「おおー、これは素晴らしい!」
「「「やわらかい!」」」
父子ハムダマたちは自分の寝床になるケージに入ったり出たりして住み心地を確かめているようだったが、概ね好感触のようだった。子ハムダマたちはケージ内のクッションの上でぽよんぽよんとトランポリンしていたが、すぐにお昼寝体勢に移行した。
「食事は水飲み場のところに毎日置くようにするから、手間だけど届けてもらっていいかな? 他に何か必要なものがあれば言ってくれれば用意するから」
「ええ、ええ、それくらいは問題ありません。何から何までありがとうございます」
父ハムダマがペコペコと頭を下げているようだが、相変わらずバスケットボールが前後しているようにしか見えない。
「それじゃ、お母さんを呼んでもらって住み心地を見てもらっていいですか? 何かあれば呼んでください」
父ハムダマは嬉しそうに上下しながら母ハムダマを呼びに行った。それを見届けてから司はカーテンを閉めて部屋を出ると、早速2匹が住処1号に入っていった。
司の目には真っ暗闇だが、リリにはハムダマたちが見えるらしく、迷いもせずに寝床へ着いたようだ。本来、ハムダマたちは木の洞や根元に穴を掘って住んでいるらしく、異常なほど夜目が発達していた。この程度の暗さであれば、行動するのに何も問題はないようだ。
「ハムダマさんたち、お家を気に入ってくれるといいですね!」
司のお手製なので簡易的で不格好ではあるが、彼らの要望はある程度反映したものが出来たと思う。あとは実際に住んでみて改良点を洗い出せばいいだろう。こういうことは速く対応することが重要なのだ。
ハムダマたちが嬉しそうなのを見て、リリも始終ニコニコしていた。




