1-16 灰色の男はファンタジーな生き物と出会う⑧
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リリを腕に抱いた状態で風呂場へ向かう。今日の分のタオルはまだ脱衣所にいくつか放置してあるのがあるからいいとして。明日には今部屋に干してある分が乾いてくれるといいんだが。雨が降っているから、外に干すわけにもいかんし、明日は晴れてほしい。
「リリ、今からお風呂に入るが、水浴びした後は濡れたままの状態で部屋に戻らないようにな。ちゃんと濡れた毛を乾かしてから戻ること」
「濡れたままはダメなんですか?わかりました」
リリは俺の言うことをちゃんと理解して返事をしてくれているみたいだ。本当に賢い。
脱衣所でリリを降ろして、服を脱ぐ。風呂場の開き戸を開けて中に入ると、リリがおずおずとついて入ってきた。蛇口の真下に洗面器を置いてお湯を出す。いきなりシャワーはびっくりしそうだしな。
「わわわわ、お水が出てきました」
リリが珍しそうに蛇口からでるお湯を見て声を上げる。
「これは水を温かくしたお湯というものだ。身体が冷えないように温かいお湯で身体を洗うのがお風呂だ。これからリリの身体を洗うけど、あまり動かないでくれよ」
「お湯……お風呂……ですか?初めて見ました。わわわわ、本当に温かいです。お湯、不思議です」
リリは片足を洗面器のお湯につけては、引っ込めてを何回も繰り返してる。
風呂場の床に座ると、俺は洗面器のお湯を手ですくって、リリの身体にゆっくりとかけていく。毛が十分水分を含んだら、シャンプーで胴体部分をわしゃわしゃと洗っていく。人間用のシャンプーだが仕方あるまい。犬用のシャンプーってあるのだろうか?
「司さん……ちょっとくすぐったいです」
しっぽのほうを洗っていくと、リリは少しぷるぷるしていた。
「リリ、今からシャワーという機械でお湯を出すよ。ちょっと音が大きいけど我慢な」
そういって蛇口からシャワーへとお湯を切り替える。シャワー口から勢いよくお湯が噴き出す音を聞いてリリが一瞬ビクッとしたけど、すぐにシャワーの音に慣れたようだ。
シャワーでシャンプーを落とすと、もう一度シャンプーをつけてわしゃわしゃと洗う。2回目のシャンプーを落とすと、薄い紫色の毛並みが姿を現した。今まで汚れていて気付かなかったけれど、洗うことでリリ本来の姿に戻ったようだ。洗面器のお湯も入れ替えると、リリを洗面器のお湯の中につける。それにしても、リリはお風呂に忌避感がなくて一安心だな。犬や猫はお風呂という行為がダメな場合が多いと聞くし、そもそも野生の生物はお風呂で身体を洗うことで、皮膚の油分や自分の匂いが消えるから嫌がるはずだ。動物によっては、身体が湿ると病気になったり、最悪死んだりする生き物もいるらしいから注意が必要だぞ。
「はわー、お風呂温かいです。わふわふ」
リリはお風呂大丈夫そうで、むしろ好きそうな部類だな。今も洗面器の枠に前脚をだらんと乗っけて、お湯に浸かったまま、ほわんとしている。本来はこれがお風呂じゃないんだがな。犬らしくない行動に、俺は苦笑してしまった。リリを洗い終わったから、今度は自分の身体を洗って、髪もシャンプーしていく。あ、髭剃りがなかった。まぁ1日くらいいいか。
リリはあまり長くお湯に浸かっていると危なそうだからそろそろ切り上げよう。リリの息も上がってきていて暑そうだ。体温は十分に上がったのだろう。洗面器からリリを出すと自分でブルブルブルっとして身体の水分を飛ばしていた。おお、これは本能でやる行動なんだな。毛並みはまだ水分を吸ってペタンとしていたけど、びしょ濡れの状態よりははるかに乾かすのが楽になるな。
「司さん、司さん、お風呂気持ちいいです」
うん、リリはお風呂が好きそうでよかった。脱衣所に戻ると、バスタオルでリリの身体をわしゃわしゃして水分をふき取る。
「そうか、それはよかったよ。ちょっとここで待っててくれよ。身体を乾かしてやるから」
自分の身体もさっとふくと、リビングへいってペットボトルの水とお皿をもって脱衣所へ行く。向かう途中でふと気づいた。玄関に旅行用の鞄みたいなのが置いてある。鞄の上には手紙が置いてあり、『着替えです』。助かる、とても助かるんだが、兎神よ、なんか本当に監視されているようで怖いぞ。しかも玄関のカギをどうやってあけてしめた?……考えないようにしよう。
脱衣所でリリに水を飲ませる。暑かっただろうからな、のども乾くだろう。水を飲み終わったら、ドライヤーでリリの毛並みを乾かす。初めは音にびっくりするものの、すぐに慣れてくれるから助かる。ドライヤーの温風で毛を乾かしている最中に、ウトウトしていたリリは寝てしまった。きっと慣れない場所で疲れていたのだろう。
すっかり綺麗になったリリを抱きかかえてリビングへ戻り、毛布の中へリリを入れる。リリはそのまま丸くなって、すぴすぴと寝始めた。さて、今日は俺ももう寝よう。隣で毛布をかぶるとそのまま1分もしないうちに寝付いた。




