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5-42 皆さま、お忘れ物はございませんか?

 司の案はすぐに賛成多数で可決されたものの、問題点がないわけではない。


 幸いにもリリたちやマッドチャリオットたちのような前例が成功しているからといって、単純に遠足するかのように地球へ連れていけばいい、なんてことでは不味いのである。生き物を別の環境へ移すというのは相当のリスクが伴うのだ。


「……というわけでさ、クーシュたちと竜は、俺の家に来てみないか?」


 まず大前提になるのは、本人たちの了解。何が目的なのか、どういうリスクがあるのか、などを包み隠さず説明して、本人たちが納得することが必要である。同意がなければ、それは密猟か誘拐になってしまうのだから。


「ふむ、おぬしの巣にか……ちと考えるか」


「ぴっぴぃ!」


「肯定、是非」


 クーシュの母鳥はいくつか疑問がありそうだが、クーシュと竜のほうは既に行く気満々である。片手を上げてぴょんぴょんとジャンプしているのと、首を縦にブンブンと振って肯定しているのが見える。だが、小さいほうの竜は兎も角、大きいほうはどうするのだろうか……不安は残る。


 それにフェルス族は気脈からエネルギーを取り込んで活動しているので、地球でも同じことができるかという検証をしてみないと危ない。クーシュだけは食事をするので大丈夫かもしれないが、母鳥と姉妹たちはどうなるかわからない。リリたちだって定期的に魔素を含む食物を摂取しないと、具合が悪くなってしまうのだから。


 その後は、母鳥の判断が終わるまで、帰りの準備をしたり、空飛ぶ島の散策をしたり、それぞれで過ごした。尚、宗司を乗っ取ろうとした赤い石の回収を試みたが、粉々に砕け散ったらしく、姿形も残っていなかった。まぁ、もともと兎神からの依頼は破壊も含まれているので回収できなくとも問題はない。


「ぴっぴぃぴ、ぴぴぴ!」


「そうか、おぬしは行くことにしたのか。自分の道は自分で決めたのだ、わらわは止めるようなことはせぬよ。いや、おぬしには案外そっちのほうが合っているのかもしれぬ」


 自由奔放に見えるクーシュだって好き好んで離れ離れになりたいわけはない。何だかんだ言っても、彼女にとって母鳥たちはとても大切な家族なのだ。クーシュだってやるときはやる。いつもただ己の欲望に忠実な鳥ではないのだ。本当だよ?


「わらわたちも、新たな生き方を探してみるのも一興か……」


 最終的には、熱心なクーシュの説得で母鳥たちも干支神家へ行くことが決定した。彼女たちの生命維持や魔素の検証も行わなければならないが、同意を得られたことで移住の計画が進められる運びとなった。



「それにしても、司は思い切ったことを考えるよな。発想がおかしいというか、飛びぬけているというか、私にはとても真似できんよ。あ、もちろん、いい意味でだぞ?」


「司さんはすごいのです!」


 そうと決まれば、善は急げ。


 母鳥たちや竜に説明をして、移住を開始する。まずは元の世界に帰るために始まりの岩戸へ戻らなければならない。


「問題はここからどうやって帰るかですよ……乗りと勢いでここまで来たのはいいですけど、迷って帰れませんとか洒落になりません」


 大きな竜に乗って上空を長距離移動しているので、司たちは自分たちが現在どこにいるのかがわからない。


「娘、それはわらわに任せておけばよい。ここから、あの山に戻ることは造作もない」


 どうやら母鳥は帰り道を知っているようだ。司、舞、宗司、リリ、クーシュ、小さい竜(長いので小竜と命名)が母鳥の背に乗り、姉妹鳥たちが懐へ収納された。一度山に戻ったら、今度は司たちが歩いて進んできた道に沿って飛んで移動する予定だ。


 ちなみに小竜の乗り物、大きな竜は、このままこっちの世界を飛び続けるらしい。泉の水を世界に撒くのと、惑星外脅威の排除の役目が残っているので。



 大きな竜を飛び立ち、帰途に着く一行。


 去り際、大きな竜を目視できなくなるまで、小竜がじっと見つめていた。己の役目とはいえ、どれだけの時間を、あそこで孤独に過ごしたのだろうか。その目には確かな哀愁が漂っていたのが感じられた。その目に真っ先に気づいたのはリリだった。故郷を離れる者同士、何か通じるものがあったのかもしれない。小竜を頭に乗せると、同じ方向を黙ってじっと見つめるのだった。


 そんなセンチメンタルな2人の心情をさて置いて、舞の主張で帰りにも温泉に寄って、しっかりと旅の疲れを落とすことにした司たち。案外、2人にとっての良い気分転換になったのかもしれない。


 温泉は初めてだが、小竜は亀っぽいだけあって泳ぎが上手だった。マイペースにスイスイ泳ぐ後ろを姉妹鳥たちがカルガモの親子のようについて周る光景はとても微笑ましい。クーシュだけは司の膝の上で身体を弛緩させてまったりしていたが……おっさんか。


 そんなこんなで、出発した山へと戻っていった。帰りの道中を楽しみながら。

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