5-39 脳筋ゴリラゴーレム爆誕(裏)
時は少し戻って、赤い結晶に飲み込まれた瞬間の宗司はというと。
(さてさて、あっちの対処は司と舞に任せるとして、俺は俺で仕事をしないとな)
信じられないことに、普段通りに落ち着いていた。
(ふむ、嫌な感覚を思い出させてくれるものだな。ははは、まるで身体が動かなかった昔に戻ったようだ。あの頃はまさに地獄だったからな)
視界は閉ざされていて、耳も聞こえない。手足も動かそうとはしてみる……が、動いている感覚が感じられない。脳は働いているが、神経系統からは切り離されている状態のようだ。それに、まるで宇宙にでもいるかのような浮遊感を感じる。
どれくらいの時間いたのだろう。常人であれば直ぐに発狂しかねないような虚無の空間をしばらく漂っていた宗司だったが、人生のどん底を一度味わっている経験があったおかげで、この系統の負荷には耐性ができていた。
そして、どこからか声が聞こえる。
「……力を望むか?」
(誰だ?)
「……我は……力を望むか?」
(俺は、お前のような得体のしれない輩からの貸しは要らん)
「……力を望まぬとは、愚かなるものよ」
(第一、お前の言う力とは何だ? 肉体の強さのことか? 技のことか? 心の強さのことか? 一言で力と言っても用途は無数にある。俺は、俺が望む強さしか要らん)
「愚かなるものよ、力とは……暴力。汝は、他者を貪りたくないか? 他者を虐げたくはないか? 他者を嬲りたくはないか? 欲望のままに快楽を貪り、嗜虐のままに調伏し、怨恨のままに虐殺し、嫉妬のままに独占し、憎悪のままに懊悩せよ。暴力に溺れ、殺戮し、屍の山を積み上げよ。そして、汝が行きつく果てこそが我が望み」
(ならば、なおの事、そんな力は要らん。俺が願うのは、家族の幸せと安寧のみ。それを成せる力以外は必要ない。そして、俺はお前の戯言に付き合っている暇などない)
「愚かなるものよ、絶望を知れ、絶望に浸れ、絶望を噛み締めよ。汝が行きつく果てこそが我が望み。絶望を知れ、絶望に浸れ、絶望を噛み締めよ。汝が行きつく果てこそが我が望み。絶望を知れ……」
(人の話を聞かんやつだな……)
謎の声に律儀に答えた宗司だったが、それでも尚、この語り掛けは続いた。すべての五感が閉ざされて、呪いの言葉を延々と聞かされる。普通であったら、こんなに恐怖な体験はないだろう。心がポッキリと折れてしまっても不思議ではない。そして、心が折れてしまえばこちらのもの、便利な鉄砲玉ユニットゲットである。
しかし、謎の声にとっての誤算は、宗司が洗脳できるようなキャラクターではなかったことだ。宗司はある意味で己の本能に忠実である。過去に挫折を味わってからは、今の自分の行動に悔いがないように生きることを心掛けている。他人がどう思おうとも、自分がやりたいことをやり、自分の思い通りに生きる。そう、宗司は究極の自己中なのである。そのため、感情表現がストレートすぎて辟易している人や、宗司に対するアプローチで困惑している人もいるが、それもまた宗司の良さだろうか。
(しかし、困ったな。これに飲まれさえすれば、多少でも情報が得られるかと思ったのに、くだらない話を延々と聞かされるだけとは……話の内容も特に意味がなさそうだし、当てが外れてしまったな)
この時、外では司たちが宗司ゴーレムの猛攻を捌いて必死に時間稼ぎしているのに、中の本人は暢気なものであった。
(わかったことと言えば、この前、戦った魔獣とやらが何を考えて俺に向かってきたか、ということくらいか。ベースにされたのが何の生き物か知らんが、思考はこいつの入れ知恵だろうな。だが、負の感情を煽るだけ煽って、何がさせたいんだ? こいつは)
謎の声が言う様に生き物すべてが憎くて殺したいのなら、こんな悠長な手段を使わずに別の方法で関与したほうが圧倒的に楽である。多少は強化されるのだろうが、生物1匹が齎す成果などたかが知れているのだ。尤も無差別テロを起こすなら有効かもしれないのだが。
(自分が直接出てこれない事情がある? それとも何かの実験か? それにしても、兎神が俺を指名した意味が少しだけわかったな。そして、状態を確認したら有無を言わさずに破壊しろと言った理由も。もし、これを起動したのが司や舞だと、結果的にどうなるか皆目見当がつかないからな。万が一、洗脳でもされたら目も当てられん)
語り続ける謎の声を無視して、己の思考に没入していた宗司だったが、周りの状況が変化してきていることに気づいた。先ほどまでブツブツと呪詛を振りまいていたものが、いつの間にか聞こえなくなっていたのだ。
「素体損壊を確認、説得を一時的に中断……自己修復起動」
(は? おいおい、さっきまではトチ狂った変人かと思っていたのに、随分と理知的になったな……外で何かあったか?)
「防衛プログラム停止、迎撃プログラム起動…………迎撃失敗。作戦実行に支障発生。改善を要求」
「……代替案を受理。代替案を実行」




