5-35 空飛ぶ島④
司が投げかけた素朴な疑問。そして、微妙に誘導してくる兎神たち。もしかしたら、今回の依頼の真意は、赤い石を調べるためではないのかもしれない。司には次々に疑問は湧き出るが、それでも疑心には至ることはない。
正直、疑心暗鬼になってもおかしくない程の怪しさ満点の内容だが、司は兎神たちを信頼しているのだ。もちろん、意図的に隠していることはあるのだろう。でも、彼らが自分に不利益になるようなことはしないだろうと。それに根拠はない。所詮、それは勘。されど勘なのである。しかし、司は兎神たちが自分に向ける目を信じているのだ。
実際、兎神たちは狂信的なまでに司を信望している。彼らには彼らなりの理由があって、司が幼少の頃から付き従っているのである。それを司に伝えたことは一度もないけれど、本人は薄々感じているようだ。
「ぴぴゅい!」
「ん? ああ、クーシュ、ごめんごめん。リリもな」
リリがいなくなってからはブラック司になっていたので遠慮されていたが、元に戻ったことでクーシュが近づいてきた。そして、定位置によじ登ると抗議の声をあげる。どうやらお腹が減ったらしい。同じく考え込んでしまったリリの頭を撫でて現実に引き戻す。
「そうだな、考えてばっかりでもダメか。宗司さん、舞、今日はここに泊まることになるでしょうから寝る準備をしましょう」
「うむ。そろそろかと思って準備は始めていた」
筋トレを終えて、いつの間にか野営の準備を始めていた宗司と舞。まさに阿吽の呼吸、似たもの兄妹である。言うと怒られるが。
宗司と舞がテントを設営していたので、司は食事を準備しようとしたら、意外なところから声がかかった。
「司さん、司さん。竜さんが食べ物をわけてくれるそうです」
「肯定」
竜は1回頷くと、口から透明な液体を地面に生えている草に向けて吐き出し始めた。すると草がシュルシュルと急激に成長して、僅か1分ほどで1メートルくらいの大きさに育ち、青いマンゴーのような実をいくつもつけた。
これにはテントを立てていた宗司と舞も振り向いた状態で硬直して、目をまん丸にしてこの光景を凝視していた。司も突然起きた怪奇現象に唖然である。
「竜が今吐き出したのは、この世界に満ちる力を凝縮したものよ。普段は、ここから少量ずつ大地に降り注いでおる。そして、雫となって落ちた力は、地に生きるものたちの活力となるのだ」
クーシュの母鳥が説明してくれたが、さっぱりわからない。が、ニュアンスからは肥料入りの水、成長促進剤みたいなものらしい。
ビジュアル的にはあまり食欲のわかない光景であったが、育った果実に罪はない。鮮やかなブルーの色調が仄かに危険な香りを醸し出しているが、司たちはありがたく頂くことにしたようだ。手持ちの食料が乏しくなっていることが理由の1つでもある。
ちなみに一番槍は宗司だった。
なんの疑いも、躊躇もなく一口目を食べて、無言で目を見開いた。どうやらかなり美味しかったようだ。というか、彼の場合、生半可なものでは体調不良になることはないので、宗司が安全だから他の人も食べれると思わないほうがいいのだが……それでも人柱はないよりマシである。
宗司が大丈夫なのを見届けてから、舞と司は口にした。どうしても宗司が毒見すると言ってきかなかったのもあるが、そもそもリリが何も反応しない時点で2人も食べれないものではないという算段がついていたのだ。リリに至っては、自分の番はまだかまだかとソワソワしていた。
安全が確保されてから、リリとクーシュも果実をもらう。齧るとシャクシャクと心地良いナシのような食感で、不思議な甘みのある果物だった。皮は念のため剥いてから、中身だけを取り出して1つを食べさせると、その後しばらく司はフルーツの皮むき器と化した。一心不乱に食べ続ける2匹の、次は? という無言の圧力に耐えられなかった結果である。
のちにリリはこの時のことを、こう語った。
「あの果物は、リンゴの次に好きになりました! でも、一番はリンゴです!」
まぁ、それくらい美味しかったらしい。
不思議な夕食をとった3人は、今後の行動を話し合うことにしたようだ。リリとクーシュは食休みタイムに突入している。
「それで、司さん。どうします?」
「寝るまでに、また整理しながら考えるけど、とりあえずは当初の依頼をやってみようか」
「いいのか?」
「ええ。あと竜の件については、少し心当たりがあるので、依頼が終わった段階で相談してみましょう。もしかしたら居候が増える可能性があるのですけどね……」
宗司も舞も何となく雲行きが怪しいということはわかっているだろう。しかし、司がそう決めたのなら、2人は最後まで付き合うと顔に書いてある。体育会系の2人は、こういう時の決断は物凄く速い。以心伝心、今の司にはそれがとてもありがたい。
どうやら、決戦は明日のようだ。




