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5-33 空飛ぶ島②

 彼の世界。


 この司たちが行き来している謎の世界は、限りなく地球に酷似した環境を保有している。違う点と言えば、不思議で独自な生態系くらいである。


 大気内の空気成分は人間が生命活動を維持するのに問題ないし、河や湖などの水源も豊富だ。動植物も食物連鎖を営んでいるし、太陽のような恒星の運動も観測できている。ちょっと変わっているのは、リリたちみたいな知的生命体が存在することと、魔素と呼ばれている不思議な力があるくらいだ。


 司たちの活動範囲は限定されているが、現時点の情報だけで考察しても、正常な天体活動を行っていると断定してもよいだろう。



 ここで、いくつか疑問がある。


 クーシュたちの様に生理現象を必要としない生命体は、何のために存在するのか? クーシュたち、フェルス族は食事をとらない。当然、食事をしないので排泄なども行わない。睡眠などの生命維持活動も必要ない。彼女たちは気脈と呼ばれる惑星のエネルギーラインから補給を受けることで活動しているからだ。


 では、クーシュの母鳥が己の存在意義を考えたように、食物連鎖や生死の概念がない生命体というのは生態系に関与をしない。得てして、必要のないものは進化をしないものである。つまり、フェルス族は惑星というシステムの外側にあるということなのかもしれない。



 次に魔獣と呼ばれる生命体の存在である。宗司たちが遭遇したアレは、周りに隠そうともしない殺気を振りまいて、目に映る生物をただただ殺戮する本能の塊のような生き物だった。己が捕食するためでもなく、縄張りを守るのでもなく、生存するためでもなく、他者を殺戮するために行動している生物というものは、生態系に置いて、明らかに異質である。


 さらには、痛覚を感じておらず、宗司という圧倒的強者と相対しても恐怖を感じている素振りもない。野生の生き物は、この生存本能に基づく感覚がとても優れている。基本的に自分よりも強者には近づこうともしない。例外は飢えている場合か、背水の陣の場合くらいだ。実は宗司が動物に好かれない点は、ここに原因がある。宗司を見ると相手が本能的に委縮してしまうのだ。初対面で宗司に懐いた物好きは、リリくらいのもの。


 そして、生命活動を停止すると、赤い石を残して砂となって崩れることも不可解だ。これでは、まるで単一の役割を与えられた機械のようである。


 今回の依頼における重要アイテム、血液で出来ていると思われる赤い石。これを分析することで何か分かればいいのだが……。



 一方、リリと逸れた司たち。


「臨兵闘者皆陣烈在前……臨兵闘者皆陣烈在前……」


「司さん、落ち着いてください。いえ、リリが心配なのは私も同じですから、気持ちがわからないでもないのですけど……」


 司は岩に腰かけ、膝の上で手を祈るように組み、九字を呟きながら盛大に貧乏ゆすりをしていた。所謂、考える人の変化球ポーズで心頭滅却しているのだ。これは、リリと意図せずに逸れたことで発生した、強烈なストレスを内々で処理しようとした結果の奇行である。出来るならば、この行動には目を瞑って頂きたい。


 しかし、心配になって話しかけた舞も、司のこの姿には若干引き気味である。幻滅して嫌われないことを切に願う。


 そして、珍しくクーシュも司にくっついていない。司の周りには内面を現すようなドス黒いヘドロのようなどんよりオーラが漂っているので、逃げたのである。現在は、近くで腕立て伏せを始めた宗司の背中に、クーシュたち3匹で並んで座わることで重りの代わりを務めていた。ちなみに、重りとしての意味があるかは謎である。




「わぁ……凄い」


 周囲に夜の帳が降りると、地面に生えていた苔のような草が一斉にホワホワと淡い光を放ち始めた。まるで、辺り一面にホタルが現れたかのような幻想的な風景で、一行は息を呑む。


 舞が非日常の光景に目を奪われて無意識に呟いたタイミングで、司の耳はぴくぴくと反応した。耳をすませば、土を蹴る音がかすかに聞こえてくる。


「司さーん! 戻りましたー!」


 森の奥のほうから走って戻ってくるリリ。どうやら無事のようだ。


 その後、お約束の如く、司にがっつりとお説教をされてしょんぼり状態となった。しかし、司はリリの頭の上に見覚えのない物体が鎮座しているのに気が付いて、とりあえずお説教は一時中断となった。リリは、何を持ち帰ってきたのだろうか。


 体長30センチほどだろうか。全体的に丸っこいフォルム。背中には甲羅を持つ四足獣。ワイルドそうな顔には長い髭が2本生えていて、風でにょろにょろと靡いている。


「リリ、それってまさか……」


「はい……竜さん、です」


「肯定」


 その生き物は、動くリリから振り落とされないように、頭の上に四足でしっかりとしがみ付いていた。そして、司の疑問に答えるリリを肯定するかのように、うんうんと頷いたのだった。

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