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5-26 天空を翔る母鳥①

 司たちはクーシュの母鳥の背中に乗って空へと舞い上がる。


 ものの数十秒で山が掌よりも小さくなり、手を伸ばせば雲をも掴める距離まで飛翔してしまった。それに、普通であれば加速による慣性と風圧に曝されるはずなのに、そよ風程度しか感じない。母鳥の背中の上は、乗り手の事を考えた親切設計で、頗る快適な環境だった。謎の力、バンザイである。


「この距離を、あっという間ですよ……凄まじい速度ですね」


 空の上からは、司たちが登っていた山や、切り開いて進んだ森、横断した草原や大河を見ることができる。どれも数日の時間をかけて進んだ場所だ。しかし、母鳥はそれを僅か数分で超えてしまう。


 人間がどう身体を鍛えたとしても到達できない極地。種族の特性が成せる業である。


 しかし、非力な人間は考えた。無理だと諦めずに、人の身で大地を、海を、空を、真空を渡る方法を。そして、それを成しえるために、過去の偉人たちは車を作り、電車を作り、船を作り、飛行機を作り、最期には宇宙船を作ったのだろう。


 人間の最大の武器は、何も持っていないこと。


 早く走る足を持たぬから、早く走るための車を。泳ぐ身体を持たぬから、船を。飛ぶための翼を持たぬから、飛行機を。果てぬ探求心が、宇宙船を。


 チーターは走る訓練をしなくてもオリンピック選手より速い。イルカは泳ぐことを練習しない。鳥は翼を動かせば飛べてしまう。初めから何でも出来る生き物は、その次を考えない。人間は何もできないからこそ、どうすればそれらが出来るのかを必死に考えた。


 人間は何も持っていない。だが、人間は何もできない生物だからこそ、何でもできる可能性を持つ生き物なのだ。


 ただし……それは、良い悪いに関わらず、だ。その可能性が負のベクトルへと向かえば、最終的に人間を滅ぼしうるのも、また人間である。




 母鳥の背に乗って運ばれること、しばし。


「かなり遠いんですね。これ、依頼が終わったら無事に家に帰れるんでしょうか……」


「ん? まぁ、大丈夫なんじゃないか? 本来、鳥には帰巣本能というものが備わっているらしいしな! む……そう言えば、クーシュは鳥なのか? ペンギンなのか?」


 陸続きとは言え、かなりの距離を移動しているのがわかる。舞が不安になる気持ちもわからないでもない。万が一、出発地点がわからなくなった場合は……考えるのも怖い。そして、宗司よ、こんなに大きくて空を飛ぶペンギンはいない。


「安心せよ、娘。わらわは竜脈に沿って移動しておる。そして、あの山は竜脈上にあるのだ。場所がわからなくなるということはない。それと、そこの筋肉ダルマよ。わらわたちはフェルスという。ペンギンなどという、どこぞの何かもわからぬ種族ではない」


「ぴっぴぃぴ!」


 クーシュもそうだそうだと言わんばかりに司の脇腹をバシバシと叩く。司にコアラ状態なので、宗司を直接叩くことができないためだろう。司はいい迷惑である。


「それに心配しなくとも、もう少しの辛抱よ」


 母鳥の話しぶりでは、どうやら目的地は近いようだ。




 それから一行は、数時間の空の旅を楽しんだ。


 長距離の飛行を終えて、母鳥が降り立ったのは、巨木と言っても差し支えないほどの大きな樹の上であった。大樹様ほどの大きさではないが、樹齢は千年単位だろうか? アフリカのバオバブの幹を彷彿とさせる形状と太さである。


「まさかあれから、さらに2時間以上かかるなんて。少しとは一体……」


 話では近いようなニュアンスであったが、実際はかなりの距離を追加で移動した。そう、司たちとクーシュたちの時間感覚がずれていたのが原因である。そもそも人間、さらには現代日本人のような、秒単位の時間に追われて生きている生物のほうが珍しいのである。ゆとりのある生活を心がけたい。


「何、あと同じくらいの距離を移動すれば目的地よ」


 まだ着いてなかったんかい!


 舞、心の叫びである。クーシュたちのもう少しは、日単位の時間であることを学習した舞たちであった。本当に、時間の感覚というものは当てにならないのである。


 舞のツッコミを余所に、母鳥のお腹からひょこっと2匹の子供たちが顔を出す。周りをキョロキョロと見回して、クーシュを見つけると安心したようにお腹の中に戻っていった。クーシュの無事を確認したかったのだろうか? クーシュのほうはだいぶ前から司のお腹にくっついておねむである。


「わらわたちは食事を必要としないが、おぬしたちには必要なのだろう? 気にせずに休むが良い。ここは樹の上だが、それなりに平らだからの」


 司たちが樹の幹に降り立った後、母鳥はそう言うとくるりと丸まって休息をとり始めた。


「司さーん! 少しお腹が空きました!」


 それを見届けてから、リリの声掛けに苦笑しながら3人と1匹は食事をするべく荷物を漁るのだった。

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