表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

160/278

5-22 クーシュの真実

 怪鳥に収束された真紅の風が暴虐の限りを尽くそうと、今まさに放たれそうになっている。司たち3人にこれを止める術は無く、洞窟の壁際に伏せて耐ショック体勢をとるくらいしかできない。少しでも衝撃を逃がす工夫をして生存率を上げるしかないのだ。


 そんな中で、場違いなほど平然としている者がいた。


「ぴぃっぴぴぃぃぃぃぃ!」


 クーシュは司から離れると、洞窟の外へ向かってトテトテと歩き出した。クーシュは自力で歩けたようだ……いや、司たちと会う前は1人で行動していたのだから当たり前なのだが、司にへばりついているイメージが定着しつつあった。


「クーシュ! 外はダメだ!」


「!? 司さん!?」


 勝手に外に出ていくクーシュを慌てて走って追いかける司。


 今の司には既にクーシュを確保するということしか頭の中にない。直前まで自分が置かれていた状況が真っ白になってしまっていた。決して自分の命を軽く見ているつもりはないが、それでも自分の命よりも仲間の命を優先する。良くも悪くも、司とはこういう人間なのである。


 目の前には赤く輝く怪鳥の姿。


 クーシュを捕まえて、司は改めて自分の状況を認識する。少し遅れて、司を守るようにリリの身体が司たちの身体を包み込んだ。極限の状況では、自分を優先しろと命令されても、それでもなお、司を守ろうとする。これもまたリリの人間性なのである。


 1人と1匹が諦めようとした、その時。


「ぴっぴぃっぴ!」


 場違いなほど明るいクーシュの鳴き声が辺りに響き渡ったのだった。




「あー、あれは本当に死ぬかと思ったよなぁ。リリ、ダメじゃないか、俺と約束したよな? 危ない状況になったらリリは自分を優先するって。あの状況で前に出てきちゃだめだろ」


「司さん……ごめんなさい」


「ぴっぴぃぴ」


 司がリリを嗜めると、クーシュもそうだそうだと言わんばかりに追従する。新入りのクーシュにまで言われて、リリは益々しょぼーんである。しかし、もとはと言えばクーシュの行動が起点になっているのに、自分の行いは棚上げして良い身分ではある。


「それを言うなら、司さんもですよ! 何であのタイミングでクーちゃん助けに出るんですか! そりゃ、クーちゃんだって危なかったわけですけど、もっとやりようがあったでしょうに! 私たちがどれだけ心配したか……」


 そして、司は舞に窘められた。1人と1匹はしょぼーんである。


「がははは! 結果として、全員無事だったのだからいいではないか!」


「それは結果論であって、いつもうまくいくとは限りません! 特に司さんはご自身よりも庇護下のリリやクーちゃんを優先する癖がありますし。第一……」


 くどくどくどくど。


 司の事を想ってか、今回も舞のお説教は長い。しかし、口調や内容は怒っているのだが、みんなが無事で安堵した、という穏やかな表情をしているのだからギャップが酷い。


「まぁ、何にせよ、今回はクーシュのおかげで助かった。あのタイミングで会えたことは神の采配だったのかもしれん。それに司がクーシュをうまく手懐けたのも僥倖だったしな」


 結論から言えば、司たち3人と1匹は無事だった。そして、今いる場所は……。


「別に、わらわはお前たちを殺す気なんぞなかったぞ? そもそも我が子が目の前にいるのに本気を出すわけがあるまい。まあ、そこの筋肉馬鹿には、ちょっとだけ頭にきたことは確かだがな」


 不思議な声が辺りに響き渡る。そう、司たちが今いるのは、あの怪鳥の背中の上なのである。現在は、クーシュたちの巣まで運んでもらうため、空中散歩の真っ最中である。


「ぴっぴぃっぴぴぴ!」


 クーシュがとても不満そうに怪鳥に向かって声をかける。ちなみにクーシュは、再びコアラ状態に変形し、司の胴体にくっついていて離れようとする気配がない。


「何? 父親とはどういうことだ? わらわの一族には父親はおらんと何度も言っておろうが。おぬしが巣を不用意に離れたから、この者達にも迷惑がかかっておるのだ。それをわかっておるのか?」


「ぴっぴぃっぴぴぴ!」


「はぁ……まぁ、おぬしの好きにせよ。だが、なるべくその者たちに迷惑をかけぬようにな。まったく、一体誰に似たのやら……わらわも長く生きてきたが、こんなに変わった娘を持ったのは初めてよ」


 クーシュが話している内容はわからないが、母鳥の言う事を聞いていないということだけはわかる。母鳥はかなりあきらめ気味である。家出する前に散々説明したのだろう。


「え? クーシュって娘だったのか? 俺はてっきり雄なんだとばかり……いててて、ごめんって、いててて」


 衝撃の事実に、司は別の意味で驚いていた。そして、クーシュに手を激しく突かれていた。男に間違われた乙女は激しくご立腹なのである。報復された司は自業自得と言わざるを得ない。


「さぁ、おぬしたち、そろそろ巣に降りるぞ? 守っておるから大丈夫かと思うが、念のため、振り落とされないように気を付けておくがいい。翼を持たぬ者達では、この高さから落ちたら危なかろう?」


 背中の上で繰り広げられているコントをさらりとスルーして、母鳥は巣に向かって降下を始めた。どうやら、クーシュの家出の旅は終わりを告げたようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング  ← 1日1回ぽちっと応援下さると嬉しいです(*´ω`*)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ