5-22 クーシュの真実
怪鳥に収束された真紅の風が暴虐の限りを尽くそうと、今まさに放たれそうになっている。司たち3人にこれを止める術は無く、洞窟の壁際に伏せて耐ショック体勢をとるくらいしかできない。少しでも衝撃を逃がす工夫をして生存率を上げるしかないのだ。
そんな中で、場違いなほど平然としている者がいた。
「ぴぃっぴぴぃぃぃぃぃ!」
クーシュは司から離れると、洞窟の外へ向かってトテトテと歩き出した。クーシュは自力で歩けたようだ……いや、司たちと会う前は1人で行動していたのだから当たり前なのだが、司にへばりついているイメージが定着しつつあった。
「クーシュ! 外はダメだ!」
「!? 司さん!?」
勝手に外に出ていくクーシュを慌てて走って追いかける司。
今の司には既にクーシュを確保するということしか頭の中にない。直前まで自分が置かれていた状況が真っ白になってしまっていた。決して自分の命を軽く見ているつもりはないが、それでも自分の命よりも仲間の命を優先する。良くも悪くも、司とはこういう人間なのである。
目の前には赤く輝く怪鳥の姿。
クーシュを捕まえて、司は改めて自分の状況を認識する。少し遅れて、司を守るようにリリの身体が司たちの身体を包み込んだ。極限の状況では、自分を優先しろと命令されても、それでもなお、司を守ろうとする。これもまたリリの人間性なのである。
1人と1匹が諦めようとした、その時。
「ぴっぴぃっぴ!」
場違いなほど明るいクーシュの鳴き声が辺りに響き渡ったのだった。
「あー、あれは本当に死ぬかと思ったよなぁ。リリ、ダメじゃないか、俺と約束したよな? 危ない状況になったらリリは自分を優先するって。あの状況で前に出てきちゃだめだろ」
「司さん……ごめんなさい」
「ぴっぴぃぴ」
司がリリを嗜めると、クーシュもそうだそうだと言わんばかりに追従する。新入りのクーシュにまで言われて、リリは益々しょぼーんである。しかし、もとはと言えばクーシュの行動が起点になっているのに、自分の行いは棚上げして良い身分ではある。
「それを言うなら、司さんもですよ! 何であのタイミングでクーちゃん助けに出るんですか! そりゃ、クーちゃんだって危なかったわけですけど、もっとやりようがあったでしょうに! 私たちがどれだけ心配したか……」
そして、司は舞に窘められた。1人と1匹はしょぼーんである。
「がははは! 結果として、全員無事だったのだからいいではないか!」
「それは結果論であって、いつもうまくいくとは限りません! 特に司さんはご自身よりも庇護下のリリやクーちゃんを優先する癖がありますし。第一……」
くどくどくどくど。
司の事を想ってか、今回も舞のお説教は長い。しかし、口調や内容は怒っているのだが、みんなが無事で安堵した、という穏やかな表情をしているのだからギャップが酷い。
「まぁ、何にせよ、今回はクーシュのおかげで助かった。あのタイミングで会えたことは神の采配だったのかもしれん。それに司がクーシュをうまく手懐けたのも僥倖だったしな」
結論から言えば、司たち3人と1匹は無事だった。そして、今いる場所は……。
「別に、わらわはお前たちを殺す気なんぞなかったぞ? そもそも我が子が目の前にいるのに本気を出すわけがあるまい。まあ、そこの筋肉馬鹿には、ちょっとだけ頭にきたことは確かだがな」
不思議な声が辺りに響き渡る。そう、司たちが今いるのは、あの怪鳥の背中の上なのである。現在は、クーシュたちの巣まで運んでもらうため、空中散歩の真っ最中である。
「ぴっぴぃっぴぴぴ!」
クーシュがとても不満そうに怪鳥に向かって声をかける。ちなみにクーシュは、再びコアラ状態に変形し、司の胴体にくっついていて離れようとする気配がない。
「何? 父親とはどういうことだ? わらわの一族には父親はおらんと何度も言っておろうが。おぬしが巣を不用意に離れたから、この者達にも迷惑がかかっておるのだ。それをわかっておるのか?」
「ぴっぴぃっぴぴぴ!」
「はぁ……まぁ、おぬしの好きにせよ。だが、なるべくその者たちに迷惑をかけぬようにな。まったく、一体誰に似たのやら……わらわも長く生きてきたが、こんなに変わった娘を持ったのは初めてよ」
クーシュが話している内容はわからないが、母鳥の言う事を聞いていないということだけはわかる。母鳥はかなりあきらめ気味である。家出する前に散々説明したのだろう。
「え? クーシュって娘だったのか? 俺はてっきり雄なんだとばかり……いててて、ごめんって、いててて」
衝撃の事実に、司は別の意味で驚いていた。そして、クーシュに手を激しく突かれていた。男に間違われた乙女は激しくご立腹なのである。報復された司は自業自得と言わざるを得ない。
「さぁ、おぬしたち、そろそろ巣に降りるぞ? 守っておるから大丈夫かと思うが、念のため、振り落とされないように気を付けておくがいい。翼を持たぬ者達では、この高さから落ちたら危なかろう?」
背中の上で繰り広げられているコントをさらりとスルーして、母鳥は巣に向かって降下を始めた。どうやら、クーシュの家出の旅は終わりを告げたようだ。




