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5-20 来襲! 人外の輩(ともがら)

 次の日の朝、司はすぴぷーという気の抜ける寝息で目が覚めた。背中にはリリが、お腹にはクーシュを抱えていたので、朝までぬくぬくのぽかぽかだった。昨日はあれほど騒がしかった2匹も寝てさえしまえば可愛いものである。子供の寝顔は誰でも純真無垢なのだ。


 その後3人は、司とほぼ同時に起床したリリと、かなり寝坊したクーシュと一緒に朝食を取って身支度を整えると、昨日話し合っていた通りに行動をしようとした、が。


「ぴぃぃぃぃぃ! ぴぃぃぃぃぃ!」


 けたたましく泣き叫ぶクーシュに途方に暮れてしまった。昨日のリリとの言い争いを遥かに凌駕するような音量。高音域の必死の絶叫は、まるで超音波兵器のようだった。


 これからクーシュの巣を探しに行くというところで、リリがそれを説明したらクーシュは烈火の如く泣き始めてしまったのだ。そして、絶対に離れまいと全力で司にしがみ付くクーシュ。それはまるで、親から無理やり引きはがされそうになっている子供のような必死さだった。



「!?」


 クーシュが泣き始めて、すぐに宗司は異変に気付いた。


「まずい! これはまずいぞ!」


 宗司から見ても、恐ろしいとしか言えない気配がどんどん近づいてくる。司はクーシュの対応に追われていてそれどころではないが、舞の顔は真っ青になりつつある。どうやら舞も何かが近づいてくるのに気づいたようだ。その力量も。



 心なしか、辺りが若干薄暗くなったような気がする。


 そして、宗司が空を見上げた時……それはいた。


「鳥? だが、気配は近づいてきているのに、なぜ……」


 上空をこちらに向かって飛んでくる1匹の鳥のシルエット。宗司が捉えたのは間違いなくアレの闘気だろう。遥か遠くに見えるはずのそれは、近づいてきているにもかかわらず、それほど目視のサイズが変わらない。遅れて気づいた舞は闘気に当てられたのか、顔面蒼白である。そのまがうことなき、怒りの気配は宗司をもってしても肌が粟立つほどだった。


「そういうことかっ! 司! 舞! リリ! 急いで洞窟の中に走れ! 全力だ!」


 宗司が突然に発した大声に条件反射の様に反応して、2人と1匹は洞窟を目指して走り出す。どんな状況に置かれていても、宗司の命令は絶対。今回の旅の決め事だった。そして、どうやら宗司は殿を務めるようだ。


 しかし、3人がもう少しで洞窟に到達するかどうかというタイミングで風が吹いた。今の今まで穏やかだったのに、明らかに自然のものではないような、まるで竜巻のようなおかしい強さの突風が。


「ぐうううう」


 予想外の出来事に、その場に踏みとどまれたのは宗司とリリだけ。休憩中で荷物を担いでいなかったのが災いしたのか、クーシュを抱えていた司と、体重の最も軽い舞は踏ん張ることもできずに吹き飛ばされることになった。それも運の悪いことに洞窟の入口から離れる方向に。


「くそっ! 舞! 司! 無事か!?」


 自分のことは諦めて、咄嗟にクーシュを庇って地面をごろごろと転がる司。辛うじて受け身はできたが、慣性のまま吹き飛ばされていく舞。タイミング的に最悪であった。


 明らかな敵意を見せて近づいてくる者に対して、あの状態の司と舞は最早洞窟への避難が間に合わない。それを見た宗司は、覚悟を決めるようにリリに告げた。


「リリ! 司たちの事は任せて、お前は洞窟に逃げろ!」


「で、でも! 司さんと舞さんが!」


「約束のはずだ! 命令だ! 行け!」


 リリは悔しそうな表情を浮かべたが、すぐに洞窟の中に滑り込んだ。去り際、リリの目には涙が溢れていた。リリの優しい性格を考えれば、自分の身が危険に晒されるとしても司たちを見捨てて逃げるなんていう選択は絶対にしない。


しかし、リリは、この旅に同行するにあたって司と約束していたことがある。


 それは、リリ自身の身の安全を最優先する事。例え、司たちと離れ離れになったとしても。例え、司たちが命の危機に瀕していたとしても。例え、それが原因で司が死んだとしても。


 それは、リリにはとても許容できる内容ではなかった。だが、こちら側では何が起こるかわからない。だから、司はリリと約束したのだ。誰よりも、リリ自身の命を最優先することを。ヴォルフたちともそう約束したのだから。



 リリが避難を完了し、宗司が司たちをフォローするべく舞たちに到達したタイミングで、それはその場に現れた。まるで、空から舞い降りる死神の如く。


 この世のものとは思えない気配。両翼を広げると何十メートルあるかわからないような圧倒的な大きな身体。人間なんて一刀の下に引き裂けるような鋭い爪と嘴。荒ぶる風神のようなとてつもない闘気。


 あげる咆哮からは身の毛も弥立つほどの怒りの感情がひしひしと、その眼からは明確な敵意と全身が粟立つような殺意が冷気の如く。


仄暗い灰色をした、まさに怪鳥。


その姿を一目見ただけで、宗司はかつて感じたことがないほどの焦燥感に苛まれていた。

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