5-19 不思議な山を登る旅⑦
湿った岩場は想像以上に滑るため、足元に注意しながら3人は歩を進める。前までウルの森で野外生活をしていたリリにとって、この程度は慣れっこなので何も問題はない。クーシュは司の胴体にコアラ状態なので何も問題はない。
「予定では今日で山頂部に到達するんですよね?」
「うむ、その予定だな。少し遅れているが、このペースなら問題ないだろう。山の上に火山口があってな、そこに通じる横穴が今回の目的地となる。今日はそこでキャンプにするつもりだ。その鳥の巣も探さないといけないだろうしな」
どうやら今日中に目的地に着くことができるようだ。それにしても火山口に用があるとは驚きの新事実である。この山が休火山なら良いが、活火山だった場合は……。休火山であることを祈ろう。
何回かの休憩を挟んで、山道を進むこと10時間。
途中、何度か下を見たら身が竦むほどの不安定な足場の崖を乗り越え、ついに目的地に到達した。この3人と2匹でなければ、ここまで安全にこれたかどうかもわからない。
3人の視線の先には、山の頂が姿を現した。幸いなことに山頂部には噴煙などは確認できていない、どうやら休火山だったようだ。
「ここだな。もう日が暮れるから、今日は入口付近で休んで、明日から周囲を捜索しよう」
宗司が指し示すところには横穴がぽっかりと口を開けていた。入口からだとどこまで続いているのか確認できないような深さである。ただ、一つだけ気になる点があるとすれば、どうにも人工くさい様相をしているところだ。
「あの……この入口って誰かが作ったんですか?」
「まさか、いくらなんでも、そんなわけありませんよね?」
司と舞が疑問を口にした理由は、その横穴が人の手で掘ったような形をしているところだろう。まるで炭鉱の入口のようである。
「私が来たときは、もっと自然の穴って感じだったんだが、親父と一緒にある程度整えたからな! 武神流の良い鍛練になったぞ! がはははは!」
まさかの土木作業マシーン宗司&巌の仕業だったようだ。それにしてもろくな道具があったとは思えない状況で、どうやってここまで整備したのか? その昔、武神流の初代は素手で岩をカチ割っていたそうだが、それを実践する後継者が2人も身近にいたことに驚きを隠せない。特に舞はドン引きである。
「ぴゅい? ぴーぴーぴー!」
「?」
宗司のガハハ声でお昼寝から目を覚ましたクーシュが周りを見回して……何かに気づいたのか、ぴーぴーと嬉しそうに鳴き声をあげ始めた。鳴き声だけ聞くと、今にも走り出しそうなくらいの調子なのだが、クーシュの手は司の胴体をがっしりと掴んだまま離れることはない。
「あの、皆さん、クーシュがお家に帰ってきたって言ってますけど……」
クーシュの反応の意味は、リリが通訳することで判明した。どうやら、この辺りに見覚えがあって、自分の巣が近いことを喜んでいるようだ。
「クーちゃんのお家はこの辺りなんですか? よかったですね~って、何で避けるんですか……司さんにはこんなに懐いているというのに」
「何となく山頂付近に住んでいたことはわかっていたが、まさか、こことはな……」
舞はクーシュの巣が近いことを純粋に喜んでおり、クーシュの頭を撫でようとして……躱されて、少し凹んでいた。今のところ、無事に撫でられたのはクーシュがお昼寝している時だけである。
「宗司さん、どうします? クーシュの巣が近ければ、少しでも探しますか?」
「うーむ、近いからと言っても、正確にどこにあるかもわからないからなぁ。これから日も暮れるから探すのは明日の朝からがいいんだが……リリちゃん、どんな感じなんだ?」
リリとクーシュがわふわふぴゅいぴゅいと相談を始めた。
しかし、時間的にはもう夕暮れ時である。宗司としてはこれから探すにはリスクが高いと考えている。だが、万が一、クーシュが早く巣に帰りたいという場合、なるべくなら探してあげたいという気持ちもあるのは事実だ。クーシュはまだ子供、親から離れる時間が長いのはよろしくはない。
「むぅぅぅ、巣に戻るのはいつでもいいみたいです。むしろ母鳥とは、まだ喧嘩中なので戻りたくないそうです……だから、司さんはお父さんじゃないですって! あなたは何回説明したらわかるんですか!?」
「ぴゅぴぃぃ! ぴゅぴゅぴゅいぴゅーい!」
そして、唐突に始まる言い争い。至近距離で巻き込まれている司は堪らない。こうなるとしばらくはどうしようもないため、すぐに耳を抑えて防御姿勢となる。
「クーちゃんがすぐに帰りたくないというなら、明日でもいいですよね?」
「うむ、そうだな」
言い争っている2匹を横目に、舞と宗司はいそいそと野営の準備を始めた。どうやら司を助けてくれる人は、この場にはいないようだ。




