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5-16 不思議な山を登る旅④

 リリの通訳で、ペンギンのような生き物は家出中の迷子ということが判明した。しかし、まだ1つの問題が現在進行形で発生している。


「で、こいつは何で俺にくっついたままなんだろうな?」


 リリの話を聞きながら、せがまれるごとにナッツを手すがら与える司は、当然の疑問を口にした。食べ物をもらえるのが嬉しいのか、咀嚼と嚥下が終わるとぴゅいぴゅい鳴いて次をせがむ姿は可愛いのだが、司にとっては疑問の占める割合のほうが多いので素直に喜ぶこともできない。


「それは……その……司さんが、お父さんだって言ってます。私は違うって説明したのですけど、全く聞き入れてもらえませんでした」


「やっぱりか……」


 リリの尻尾が力無くへにょんと垂れさがった。自分が司の力になれなかったことを残念に思っているのかもしれない。


「いや、リリは悪くないぞ? リリがいなければ、理由どころか意思疎通もできなかったわけだし。いつもリリがいて助かってるよ。ありがとう」


 そう言って司がリリの首元を撫でると、途端に尻尾が元気を取り戻した。ちょろいとか言ってはいけない。リリにとっては司の役に立てることが最大の喜びなのだから。


「後々、巣まで送り届けてやるにしても、しばらく同行するわけだし、呼び名がないと不便だよな。リリ、こいつの名前って何だろうな? というか名前なんてあるのか?」


 司がそう尋ねると、リリはわふわふとペンギン? に話しかけて、ぴゅいぴゅいとすぐに答えが返ってきた。


「名前は無いそうです。名前って何? って言ってます」


「ふむ……」


 個別名称という概念自体がないのだろう。そもそも名付けというのは、地球上では人間だけの専売特許である。普通、野性で生きている生物同士は個体識別をすること自体に意味がほとんどないのだから。


 しかし、司たちにとっては名前がないというのは不便極まりない。巣へ送り届けるまでとはいえ、いつまでもアイツとかコイツとかソレとかアレとか呼ぶのには抵抗がある。適当な名前をつけてしまったほうが楽なのである。


「……クーシュ、でいいかな?」


「司さんにしては、かなりまともな候補が出ましたね。以前、ボルゾイの子供の名前をみんなで考えた時はネーミングセンスがアレだったのですけど……今回は可愛らしくて良いと思います。てっきり、ペン子とか付けるのかと思いましたよ」


 舞がさらりとディスった後に称賛して、宗司もうんうんと頷いている。リリは司がつけてくれるなら何でもいいと思っている。それにしても、ペン子は無いだろう。以前、ボルゾイにどんな名前を考えたのかがわかった気がする。きっと、ボル吉とかボル子とかだろう。


 司がクーシュと名付けて、これからはそう呼ぶことをリリが説明すると、ぴゅいぴゅいと嬉しそうに鳴いて頭を擦り付けた。どうやら、本鳥も気に入ったようだ。


「クーシュ、名前も付けてもらったわけですし、そろそろ司さんから離れなさい。あなたは私たちにお世話になる身なのです。しっかりと自分の脚で歩くのですよ?」


 リリのペンギン? 改めクーシュに対しての言葉遣いがちょっと大人びてきている。きっと自分のほうがお姉さんだから、威厳を見せないととか思っているに違いない。それに対して、クーシュの返事は明確だった。


 ぴゅいっと低いトーンで短く鳴いたかと思ったら、リリから顔を背けた。さらに司に抱っこしてほしいアピールの如く、スリスリとすり寄って身体を密着させていく。あざとい……。そして、その態度を見て、ぷるぷると震え出すリリ。明らかにオコ状態一歩手前である。


「まぁまぁ、クーちゃんはさっきまで一人ぼっちで心細かったのでしょう。少しくらい多めに見てあげましょう? リリだって経験があるでしょう?」


「うっ……」


 舞にそう言われてしまうと、リリも強くは出ることはできない。リリだってたまたま司に拾われなければどうなっていたのかわからないのだから。本当の親の如く、愛情たっぷりに接してもらったからこそ、ここまで司に懐いたのだから。


 だけど、それだからこそ納得できないこともある。何せ、クーシュは司の事を父親と勘違いしているのだ。さらに、種族は違えど、本当のお兄ちゃんの様に思っている司を独占されているのを見ると、心にモヤモヤとした黒いモノが漂ってくる。リリの心情としては、ぽっと出の新入りに自分の大切な人を譲るわけにはいかないのだ。


「リリ、ごめんな。クーシュを巣に届けるまでの辛抱だ。それが終わったら、出来る限り、リリと一緒にいるから、それまで我慢してくれ」


 司が本当にすまなそうな顔をしてリリの頭を撫でると、リリも心の闇をぐっと我慢することができた。あと少しの辛抱、それが過ぎれば司に心置きなく甘えることができるという大義名分を得たのだ。これがあれば、大抵のことは造作もないことのように思えてしまう。


「さぁ、もう少し休憩したら、上に向かおう。幸い、クーシュの巣も山頂のほうにあるみたいだからな」


 クーシュの拙い説明とリリの通訳から、どうやら山の上のほうに巣があることが判明した。登るついでに巣まで迷子を送り届ければミッションコンプリートである。


 ただ、一行は失念していた。ペンギンのような可愛い外見に騙されて、クーシュがどういう種族で、どういう生態をしているのか、それを全くと言っていいほど考えていなかったのである。

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