5-9 世界の理、それぞれの想い
宗司が司たちを案内しようとしていたのは富士山……によく似た山だった。なぜ、この世界に、司たちの目の前に富士山によく似た山があるのか? その答えは誰にもわからない。
「宗司兄、アレは……」
「うむ。やはり、あれを初めて見ると驚くだろう?」
「驚くというか……何で? のほうが強いですよ」
言葉が繋げられない司と舞を見て、宗司は悪戯が成功した子供のような意地の悪い笑みを浮かべていた。リリだけは2人が何を驚いているのかわからず、きょとんとしていたが。
「今日は、山の麓の森の手前まで行こう。そこで野営して、明日からは森越えと山登りだ。夜になってから森に入るのは危険すぎるからな」
宗司はそう言うと1人で先を歩いて行ってしまった。リリも司たちを振り返りながら先を進んでいく。よくわからない想いに心を占有されながらも、司と舞は先行する宗司たちを追いかけて行った。今ここで悩んでも答えなんて出ないのだから。
山に近づくにつれて、段々と未開の地の如く背の高い木や草が目立ってきた。宗司が通行に邪魔そうなものは薙ぎ払っていく。そんな宗司を手伝いながら司が問いかける。
「前来たときは巌さんも一緒だったんですよね?」
ちなみに舞は、進むスピードが遅くなったことで、ちょっとだけストレスフルなリリを宥めるために騎乗中だ。女子同士、会話が弾んでいる。
「ん? そうだな。だが、前回来たときは、私はひどい状態だったからな。親父も余裕が無くて、帰りに山を見上げた時に気づいた感じだな。正直、考えたところでわからんから、へーそうなんだー、で終わったが。何せ、私たちは脳筋だしな。考えるのは苦手だ」
それを自分で言ったら御終いである。
「宗司さんは……あの本を読んだ時に、何を感じましたか? ちなみに、俺は嫌な予感しかしませんでしたよ。触れちゃいけない何かがある気がして」
作業中の宗司の動きが僅かに、ほんの僅かに淀んだのを司は見逃さなかった。宗司にも思うことがあるのだろう。自分で脳筋と宣う宗司だが、決して馬鹿ではない、と司は日頃から思っている。
「司、私はな、あの本が何を示しているのかは、わからないままでいいと思っている。理を解き明かさなくても、この世界は私たちの前に実際にあるし。この世界には神秘が存在して、それで私は一度救われている……というのは建前だな。正直、私は真実を知るのが怖いんだ」
あの傍若無人と唯我独尊を地で行くような宗司にそこまで言わせるとは……司が言う本には余程の内容が書かれていたと思われる。
「やはり実物を見ているという情報が最も大きいが、他にも兎神たちが隠している……いや、言えない内容も少しは予想できる。だが、それから導き出される答えは、余りにも現実味がない」
舞に聞かれないように司だけに聞こえるように囁いて、宗司は自分の予想を口にする。悲壮感はないが、楽観視もしていない、そんな微妙な表情に見える。
「兎神たちは、この依頼が最悪の想定だった場合、今後の対策を考える必要があると言っていました。あれは……何かを決意した目でしたから」
「そうか……まぁ、何にせよ、まずは依頼を無事にこなす必要があるな。兎神たちの説明は聞いてきたが、私たちも最悪を想定して備えておくべきだ。未来を憂うには、私たちが生き残らなければ意味がないからな。舞のためにも、絶対に誰も死なせるわけにはいかん」
自分たちの目の前にある現実、兎神が宣告した内容、司たちの思考の先にあるもの。司の心には、この旅が始まる前から嫌な予感が付き纏っていた。それは、あの本の内容を見てしまった瞬間から、今もずっと続いている。
『さて、これを目にする者たちよ。長きに亘った私の書置きは、これで最後となる。この先を知りたければ、自身の目で、自分の耳で確かめよ。だが、人生の先達として、一言だけ忠告させてもらえれば、この世には知らないほうが良い真実もあるということを、胆に銘じてほしい。そして、それでも答えを求めて先に進まんとする者よ。不屈の魂を持って進むことをお勧めする。では、私は一足先に最果ての地で待っている』
『私は、この世界を旅している中で、いくつもの不自然なものを目撃する機会があった。それらが意味するもの。これが世界の心理か。これが世界の現実か。私は決めた。この世界と運命を共にすることを。どこへ行くのか、どこまで行くのか。何をするのか、何を成すのか。この矮小な命が尽きるまで、この世界と生きることとしよう。それが、真実の一片を垣間見てしまった、私の宿命だろうから』




