5-8 非常識集団が向かう場所
ワイルドな食事が終わって、夜営のローテーションが始まる。
順番は宗司、司、舞のようだ。野営で最も辛いのは真ん中の時間担当である。中途半端に寝て、中途半端に起きていないといけないのは身体にかなりの負担をかけることになるからだ。リリは常に寝ているが、何かあればすぐ起きることができる。万が一、襲撃があった時の保険だ。
「それで、宗司さん、行くのはどの辺になるんです?」
既に舞は休んでいたが、司はまだ起きていた。少し、宗司と話をしたかったのかもしれない。
「うーむ、どう表現していいのか、とりあえず北へ向かう。そして、目的地は山の上だな。かなりの距離があるから、まだまだ先だが」
昼間、北の方角には高く連なる山脈が見えた。そちらの方向へどんどん進んでいるから予想はしていたが、やはり山へ登るらしい。それにしても山の上に本当に泉などあるのだろうか?
「へー、山ですか。どんなところなんです?」
「まぁ、一目瞭然、見たらわかるさ。たぶん、司も舞も驚くだろう。私も初めて見た時は驚いたからな」
やけに含みを持たせた言い方である。
「さぁ、司ももう休んでおけ。明日も移動することになるしな」
そう言うと、宗司は司から視線を外して、竈の火を見つめた。これ以上は、今は、話すつもりはないということだろう。司もそれがわかったのか、素直に休むことにしたようだ。
その後は順番通り、司、舞の順番で火の番をして、何事もなく朝を迎えた。司の番の時はリリも起きてきて、撫でろと言わんばかりに膝の上に顎を乗せてきたのが微笑ましかった。4時間きっちりとモフモフしてあげた司は流石と言わざるを得ない。
そんなこんなで特に何事もなく、移動だけで数日が過ぎる。
相変わらず耐久マラソン大会を絶賛開催中、律儀について行く司と舞は修行体質というべきか。こんな時までガチで修行しなくてもいいのではなかろうか。
道中では主に宗司が狩りをして食糧調達係をしていた。携帯している保存食の消費を抑えるために、ほぼ毎日何かしらの獲物を獲らないといけなかったのだ。ちなみに司と舞も参加してみたのだが、全く戦果を得られなかった。経験も技術も草原を生きる草食動物に歯がたたなかったのだ。最悪、この2人が遭難した場合はヤシの実モドキなどで糊口を凌がなければならない。
宗司以外で唯一、頑張ったのはリリだった。宗司は今後を考えてリリに狩りの経験をさせておきたかったのだが、予想外? に才能があった。宗司にコツを教えてもらって実戦したら、あっという間に獲物をとれるようになったのだ。最初こそ失敗して力なくトボトボと帰ってきていたが、2回目3回目と繰り返す度に上達して、4回目のトライで見事に例の鳥のようなトカゲを仕留めることができた。
これには司も親馬鹿全開で大絶賛してリリを褒め称えるものだから、尻尾が扇風機の様にすごいことになっていた。次の日から、リリが毎食ごとに張り切って狩りに出ようとするのを宥めて止めるのには苦労した。そんなに獲っても消費ができないのである。
出発して4日目には河の近くで野営となった。理由は水浴びである。舞も年頃の女の子、毎日タオルで身体を清めていたのだが、何日もお風呂に入れない状況は流石に辛い。さらには司も毎日近くにいるのだから、変な匂いがしないかチェックに余念がなかったし、かなり思うところもあった。とはいえ、もう秋に差し掛かり、夜はかなり肌寒くなる。水浴び後の焚火が無ければ危険である。きっと、素早く身支度を整える技術が向上したことだろう。
ちなみにラッキースケベな展開は一切ございません。舞自身も気配察知に優れているし、何よりも守護者宗司がいるのだから、覗きは命を懸けても無理である。舞と一緒に、リリも水浴びができて嬉しそうであった。既にお風呂に毎日入るのが習慣になっていたので、司と入れないのが少しだけ不満そうだったが。
干支神家を3人と1匹で出発して5日目、とうとう、目的地が見えてきたようだ。
「あそこが目的地だな。ここからまだ少し距離があるが」
宗司が指さす方向には、遠くに山が見える。かなりの標高があるのか、空にうっすらと。以前の大樹様を彷彿とさせる光景だ。しかし、前回とは違う点が1つだけある。
「え? 富士山? 何で?」
舞が山を見つめながら、呆然と言葉を溢す。司も自分が見ているものが信じられないような顔をしている。リリは2人が何に驚いているのか、よくわかっていないようだった。
そう、目指す山は日本人には物凄く見覚えのある造形をしていたのだ。




