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5-2 ちょっとだけ違う日常の始まり②

 司とリリは、兎神の運転で喫茶『壁に耳あり障子に目あり』へ向かう。ちょっと急ぎめだ。何故かというと、屋敷を出る直前に毛玉たちに捕まったため、出発が予定より遅れてしまったのだ。ちなみに毛玉たちもお土産にリンゴをご所望だった。リンゴスキー多数である。



「司様、リリ様、もうすぐ到着です。私は駐車場で待機しておりますので、お帰りの際にはご連絡ください」


「兎神、ありがとう。行ってくるよ」


「行ってきまーす!」


 時間ぎりぎりだが喫茶店に到着した司とリリは、急いで店のドアを開けると、カランカラーンという昔ながらのベルの音に迎えられた。来客を告げる音に気付いたマスターの剛が正面のカウンターから顔を出す。司を視線に捉えると同時にその厳つい顔に笑みが浮かぶ。


「お、いらっしゃい。司、リリちゃん。舞ちゃんたちはもう来てるぜ。いつもの奥の席だ」


 勝手知ったる何とやら、挨拶もそこそこに司たちを席へ案内をする。店の奥には舞、詠美、澪、優のいつもの4人が座って雑談している様だった。


「すまん、ちょっと遅くなった」


「いえ、私たちもさっき来たところですから、気にしないでください」


 今日の澪たちは学校が休みなので私服である。澪は可愛い系、詠美と優はカジュアル、舞はいつも通り運動重視の服装だった。


 しかし、この展開、普通は男女逆ではなかろうか。ちなみにリリはお口にチャック状態である。外では誰がどこで聞いているかわからないので。子犬のフリである。


 全員が揃ったところで、剛に注文を伝える。本日のおすすめは栗のタルトだそうだ。注文のついでに、帰りにリンゴのコンポートをお土産に包んでもらえるように伝えておくのも忘れない。屋敷でルーヴと毛玉たちが今か今かとお土産を待っているだろうから。


 今日のリリは舞の膝の上である。久しぶりに会うのが嬉しいのだろうか。横で詠美がそれを羨ましそうに見ているのはお愛嬌だ。


 ケーキが席に到着すると、世間話をしながらお茶とスイーツを楽しむ。二足歩行のヒグマのような剛の手作りのケーキは今日も絶品である。リリも大好物のリンゴをシャクシャクと頬張って嬉しそうだ。


 専らの話題は体育祭に関すること。舞たちの高校で来月に催されるようだ。この4人は比較的……というか圧倒的に運動ができるタイプなので、各自の表情は明るい。澪は短距離走、舞は体力お化け、詠美は走る跳ぶ投げる、優はインドアに見えて平均以上に何でもできる。


 司は女子高生らしくコロコロと変わる話題を律儀に1つ1つ答えながら、4人と時間を共有していく。出会って半年ほどの仲だが、随分と慣れたものである。


「あ、そうそう、舞。今日の帰りに家に寄っていいか?」


「ええ、もちろん構いませんよ。父も母も司さんなら大歓迎でしょうし。というか、一々断らなくても来てもらって大丈夫ですよ」


 2時間くらい経過して、そろそろお開きになりそうな辺りで、司はそう切り出した。それを聞いた澪と詠美がボソボソと内緒話をし始めた。それってもしかして? ついに家に泊まっちゃうの? キャー、みたいな会話が聞こえた気がするけど気のせいだろう。


「何か御用でもあるんですか?」


「うん、まぁ、宗司さんに少し用事があるんだ」


 隣でキャーキャー言いながら妄想している2人を見て冷や汗を流しながら、司は舞に答える。しかし、それを聞いた舞は顔にクエスチョンマークを浮かべていた。今更、改まって何の用があるのかと。司は宗司に武術の指導されている。予定がなければ週1回のペースでである。


(司さん、うちのバカ兄に何の用でしょうか? しかも、私には内容を言い難そうな顔をしていますね、これは聞いても教えてくれないでしょう。……はっ!? まさか!? 浮気!? 男同士で、そんな不健全な!?)


 甚だ見当違いも良いところである。他の事には結構鋭いのに、司の事に関してはかなりのポンコツぶりを発揮する舞。まぁ、逆にそれが彼女の良いところでもあるのだが。


 不健全な方向に妄想する2人と、見当はずれな妄想をする1人は放っておこう。


澪は詠美と優を車に乗せて、ニヤニヤ顔で明日電話するからね~と言って去っていった。司は舞と一緒に武神家へ行くため、兎神の運転で家まで送る。


 武神家に着くなり、舞はふらふらと家の中に入っていった。何があったのかよくわからない司とリリも舞の後を慌てて追いかけると、玄関には舞の母親の凛がいた。


「あら? 司さん、リリちゃんいらっしゃい。舞? あなた、どうしたの……」


 まるで霊鬼のように漂っている舞に困惑を隠せない凛だったが、玄関にお客さんを放置するわけにもいかない。とりあえず、司たちを客間に案内するのだった。

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