4-63 夏の旅行の帰り道
青葉リゾート滞在7日目。
楽しかったリゾートでのバカンスも今日で終わりとなり、一行が帰途に就く日である。それぞれが思い思いに最後の朝を迎えていた。
司とリリは朝の散歩をしたが、今日はボルゾイハウスには行かなかった。子犬たちと遊んでしまうと別れが辛くなってしまうかもしれないという司の配慮からなのだが、それがわかっているからか散歩中のリリは心なしか気落ちしているようだった。
舞たちは8時頃には起床して準備を整え、朝食をとった後、荷物をまとめに部屋に戻っていった。宗司は日課からの朝食、いつも通りであった。
「1週間、お世話になりました」
「いえいえ、皆さま、ゆっくり休めましたか? ぜひ、またお越しください」
執事長の玄一郎さん以下使用人たちに見送られて、別荘を後にする。後から判明したのだが、この上品そうなおじさん執事が、あの玄次郎の兄とは夢にも思わない一行であった。
島の出口である船着き場では、来た時と同じく妙子と玄次郎が待っていた。
「お嬢! みな! こっちじゃぞい!」
「みんな、島は楽しめたかい? それじゃ、陸まで送るからね! 乗った乗った!」
妙子の号令で船に乗った一行は、青葉リゾート島を出発する。船はあっという間に陸から離れ、一行は船上の人となり、それぞれがこの1週間の出来事に想いを馳せる。
「楽しかったね~、また来たいよ~」
「うむ、久しぶりに本当の力を解放した」
「楽しかった分、少し寂しく感じますね」
「そう言って頂けると計画した甲斐があったというものですよ~。また予定が合えば、みんな揃ってご招待しますよ~」
船のデッキで一列になって、女子4人は離れていく島を名残惜しそうに見つめていた。楽しければ楽しかった時ほど、終わってからの哀愁もひとしおだ。だが、この時、この場所、この楽しかった思い出は、宝石のように、いつまでも色褪せずに心に留まり続けるだろう。
島を出港して数時間後、船は無事に妙子の店がある港に着いた。行きでは船酔いに悩まされていた詠美も帰りは問題なく、船上の景色を楽しむことができた。
「我々は、帰ってきたぞ~!」
誰よりも早く、一番に船を駆け下りる詠美。慣れたとはいえ、やはり海より陸のほうが落ち着くのだろう。
「さ、最後にお昼を食べていきな! 腕によりをかけて振る舞うよ!」
妙子の好意で振る舞われた昼食は行きと同じく豪勢なものだった。リリと毛玉たちも島で焼き魚の味を覚えたようで、切り身のあぶり焼を美味しそうに頬張っていた。
「いつでも、またくるんじゃぞい! まっておるからな!」
「いいかい? 私たちがくたばる前に、絶対にまた来るんだよ!」
お昼をご馳走になって、澪たちは名残惜しそうな妙子と玄次郎に送り出された。ここからは車で移動して、この旅行で最後の一泊する場所、棲龍館へ向かう。
「妙子さんにも、玄さんにも随分とお世話になっちゃったな~。また会えるかな?」
「エイミーがお礼を言っていたことはちゃんと2人に伝えておきますよ~。また島にご招待しますから、すぐに会えますよ~」
「豊かな漁場、美味しい食事、有意義な時間だった」
「楽しかったですよね。みなさんにも良くしてもらいましたし。計画してくれた澪には感謝です。今度は、うちの山でキャンプでもしますか? ご招待しますよ?」
「いやいやいやいや、舞んちの山って修行する場所でしょ? スマホもつながるかつながらないかの。そんなところでキャンプできるのはあんたの家族くらいだよ」
「ん? 宗司さんに連れて行かれたあの山か? 確かにあそこの修行はきつかったなぁ」
「がははは、軟弱な精神を鍛えるための場所だからな! 完全に自給自足だ! だが、狩りは私に任せろ! イノシシ狩って牡丹鍋がうまいぞ!」
「司さんは行ったことあるんだ……というか、イノシシ捕まえて食べるんだ……うへ」
舞の提案は却下になるようだ。どうやら武神家の保有する山は未開の場所のようだ。電気も水道も電波もない。つまりは衣食住を自前でこなさなければいけないということ、それはデジタル世代の現代日本人にはとても厳しいのである。
そんなこんなで会話が弾む一行は棲龍館にたどり着く。行きと同様に玄関前には女将の麗華と仲居さんたちが整列していた。麗華が一歩前に出て、澪に声をかける。
「青葉様、皆さま、ようこそお越しくださいました」
「麗華~、一泊だけですけど、またお願いしますね~」
「青葉様、もちろんでございます。また別館を貸し切りでご用意してますので、さ、皆さまもどうぞ」
麗華に案内されて別館へ向かう一向。密かに毛玉という生き物が増えているのだが、大丈夫なのだろうか? まぁ、謎生物すぎて麗華に打ち明けるわけにもいかないから、こっそりと匿うしかないのだ。こっそりと。




