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4-59 青葉リゾートでのひと時、4日目②

「その、わなびー? とは何ですか?」


 食べるのを一時中断して、親毛玉が首を傾げる。しかし、ワナビーではない、花火だ。1文字違うだけで全くの別物である。毛玉たちにとってみればワナビーもハナビも同じ知らない物なのだが……。


 昼食という名の戦場から戻り、毛玉たちにも昼食を提供している最中。今日は茹でた豆とキャベツとササミだ。毛玉たちは雑食なのか、今のところ何でもおいしそうに食べている。


「花火だな、花火。ああ、先に食べてくれ、終わってから説明しよう」


 今日の夜は海水浴をしたコテージで花火をやる予定なのだが、司たちが出かけてしまうと毛玉たちを相手する人がいなくなってしまう。どうせ、澪たちにはバレているし、夜で暗くてよくわからないだろうから、どうせなら一緒に連れて行ってしまおうと考えた司。


「それでは失礼して……もぐもぐもぐもぐ」


 一度、極限まで飢えた毛玉たちは食べることにどん欲だ。食べれるときに食べる、当り前のことだが、それがより顕著になった気がする。


 待つこと数分、毛玉たちが食べ終わり、ほよんほよんとし始めた。どうやらリラックスすると無意識に揺れる習性があるようだ。それを見計らって司は親毛玉に予定を説明する。


「では、時間になったら呼んでくれますか? それまでは家族でゆっくりしてますので」


「……いいのか?」


「ええ、私たちは、あなたを信じております。危ないところを助けてくれて、こんなにも良くしてくれているのですから」


 親毛玉がそういうと、子毛玉たちのほよんほよんが激しくなった。まるで頷いているようであった。一緒に生活し始めて2日目、毛玉たちは司に絶対の信頼を寄せているようだ。それもあって、子毛玉たちの司への懐き方は凄まじい。司はそれを見て、この信頼は裏切らないようにしないとな、と肝に銘じるのだった。



「それでは~、そろそろ海岸へ向かいましょ~。今から向かえば、ついた頃に日が暮れるでしょうから~。必要な荷物は既に現地に運んでいます~」


 夕暮れ前、澪が玄関前に集合したメンバーにそう告げる。各自には予め伝えられており、出発の準備もできていた。司は大きなカバンを持っており、毛玉一家が収納されている。もちろん、中で潰れないようにケージに入ってもらった上でだ。


 海岸のコテージまではゾロゾロと歩いて向かう。今日は司が毛玉たちを収納したカバンを担いでいるので、リリは足元をチョコチョコと歩いている。


「本来であれば、危ないので夜は立ち入り禁止になるんですけど~、今日は許可とってありますので~。たまに許可なしで夜の海に入るおバカさんがいますけど、それで事故しても自業自得ですよね~」


 夜の海は危険だ。何もなくても暗闇が恐怖を冗長するし、方向感覚もおかしくなる。慣れている人であっても、用が無ければわざわざ夜に海に入ろうとは思わない。誰も好き好んで漂流はしたくないだろうから。


 目的地に着くと女性陣は連れ立ってコテージの中に入っていく。荷物を運んであると言っていたから何かするのだろうか。


 司は持ってきたカバンからケージを取り出し、毛玉たちを外に開放する。解き放たれた毛玉たちは自分たちの周囲が砂浜だと確認したと思ったら、突然砂を身体にかけ始めた。砂浴びである。


「あ~、心が洗われるようだ~」


 親毛玉がやけにおっさん臭いセリフで砂を浴びる。さらっさらに乾燥して肌理細かい砂は砂浴びに最適なのかもしれない。子毛玉たちもぎこちなくだが砂浴びをしており、とても気持ちよさそうだ。


 それを見たリリは不思議そうな顔をしていた。水浴び以外は司たちとお風呂に入るのが習慣化しつつあるリリは砂浴びをする毛玉たちが珍しいのだろう。砂浴びをする習性があるのは鳥やネズミなどであり、狼にその習性はない。最も、水浴びする狼ですら稀なのだから、お風呂が好きなリリはとても珍しい部類なのである。


 砂浴びする毛玉親子を見守るリリ、今何を考えているのだろうか。そして、そんなリリの様子を微笑ましいと笑顔の司。世の中には様々な習性が存在する。色々な体験を通して、リリが成長することが嬉しい。司はそんなことを考えていそうである。


「いや~、こんなにも気持ちいい砂を浴びたのは久しぶりです」


「そうかそうか、それじゃ定期的に砂浴びできる準備をしないとな」


 砂浴びをする習慣を確認した司が、砂浴び用の砂を用意してくれると聞いて、子毛玉たちがほよんほよんし始める。砂浴びの気持ちよさを経験したことで、司の提案が嬉しいと感じているのだろう。


「お待たせしました~」


 毛玉たちとそんなやり取りをしていると、澪たちがコテージから出てきた。その姿は先ほどまで私服ではなく、日本の夏を想像させる出で立ちに替わっていた。


 そう、女性陣は全員浴衣に着替えていたのだ。

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