4-48 青葉リゾートでのひと時、3日目④
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投稿が止まっていた間にも評価やブクマを頂けておりました。
改めて、お読み頂いている方々には感謝です。
ぞろぞろと別荘から船着き場まで移動する司たち一行、流石にこの人数がいると舞たちを見かけても声をかけてくる輩はいなかった。澪がいるのだから、顔を知っている人はそうそう絡んでくるわけがないのだが。そう言えば、舞をナンパしようとした金髪1号2号はあの後に一体どうなってしまったのか……神のみぞ知る。
「おーい! お嬢! こっち! こっちだぞい!」
船着き場で待っていた玄次郎が、澪たちを呼び込むように大きな声を張っていた。もう70に付近の年齢とは思えないほどの元気さだ。きっと妙子と一緒にいるにはエネルギッシュでないと務まらないのだろう。
「皆の衆、おはよう。皆元気そうじゃな。ん……? なんじゃ、1人だけ眠そうな顔をしてるのがおるのぅ。船の上で寝ぼけてたら海に落っこちるぞ! しゃきっとせんかい!」
「いったぁぁ! 玄さん、手荒すぎ! 私、女の子なんだよ? もうちょっと優しく」
「どうせ夜遅くまで、お嬢たちとしゃべっていたんじゃろ? 自業自得じゃわい。これから船に乗るんじゃから、今のうちに目を覚ましておかんと。……婆に殴られるよりマシじゃろ?」
眠そうな顔をしていた詠美の背中をぶっ叩いた玄次郎、詠美がそれに抗議の声をあげているが顔は嬉しそうだ。詠美にとってはこういう遠慮のない間柄が心地いいのだろう。
だが、最後の一言は……いくら妙子と言えど、女の子に対してそんな無体はしないだろう。するのは玄次郎に対してくらいのものだ。お互いに遠慮のない間柄とは羨ましいものである。うん。
「さぁ! 準備は出来てるよ! みんな乗った乗った!」
妙子が乗船許可を出すと澪を先頭にして乗り込んでいく。今日乗る船は前回とは違って少し控えめだ。とはいっても10人が乗れるのだから、それなりの規模である。
「……あと、爺は、陸に上がったら覚えてろよ? な?」
先ほどの玄次郎の最後の一言が聞こえていたのだろう。明らかな脅しである。わざわざ、玄次郎にしか聞こえないように耳元で言うから余計に恐ろしい。南無三。
「ということで、午前中はクルージングをして、お昼はホテルでビュッフェにしましょうか~。……野放しにすると若干怖いのが2名ほどいますけど、事前に連絡しておかないとですね~、料理長が血を吐きそうです~」
「きゅぴーん、ホテルで食べ放題? これは戦の予感」
「ふはは、全品制覇してくれるわ!」
昼食の話でテンションがマックスになった2人はさておき、船着き場を出発して、船で島をぐるりと北側まで行くと目の前には断崖絶壁が現れた。別荘は小高い丘の上に配置されていたのだが、その裏側は崖になっていたのだ。
「へ~、島の北側ってこんな風になってるんだね。でも、船で崖を見に来たの?」
「ふっふっふ、優ちゃんの胸でもあるまいし、ただの崖を見ても何も面白くないですよね~。本命はもうちょっと行くとありますから、楽しみにしておいてください~」
「うわっ、久しぶりにブラック澪だ。さりげなく優をディスったよ……」
「これは名誉棄損なり、断固抗議。しかし、客観的事実を否定できる要素が何もない……ガッデム。こうなったら、澪の胸をもいで私に移植する? しかし、あれは所詮脂肪の塊……ブツブツ」
さらっとディスられた優は大して気にしていないように見える。これくらいなら彼女たちにとっては親愛の表現なのだろう。
「がははは、優の嬢ちゃんの胸はまさしく洗濯板だからな! そんなんじゃ……ごはっ」
玄次郎のこれはセクハラである。そして、すぐさま妙子が容赦のない制裁を科した。先日もやられたばかりなのに、玄次郎も懲りない男である。
「リリ、ダメですよ。カモメさんたちに飛びかからないでくださいね。あの子たちはエサを取りに来ているんですから、襲ったら可哀想です」
「悪いな、舞、リリの面倒を見てもらってて」
「いえ、リリは私の妹みたいなものですから」
リリは船の近くを飛んでいるカモメが気になるようだ。今にも飛びかからんとしてウズウズしている。きっと狩猟本能が疼くのだろう。舞に抱きすくめられているので動けないのだが。
「見えてきましたよ~。アレが今日の目的です~」
見えてきたのは絶壁に穿たれた大地の裂け目。恐らくは波によってえぐり取られたそれは複雑な形をしながらも、どこかに芸術性を匂わせている。潮が引いている時しか姿を現さない自然の洞穴である。
「わひゃ~、すっごい! これは確かにワクワクするね!」
「娘、落ち着きな。あそこに入る前に注意しないといけないことがあるからね。ちょっと説明してからだよ」
落石の可能性があるため、全員ヘルメットと救命胴衣を着用すること。壁すれすれを通るかもしれないが、決して船から身を乗り出して触らないこと。海に飛び込まないこと、などなど。さすがは妙子、観光ガイドもプロである。
数名は己の身を守る注意よりも好奇心が勝るのか、ちょっと危なっかしい雰囲気はあるものの、妙子の話を無視するような輩はいない。いそいそと準備をして来たる時を待つのだった。




