4-39 青葉リゾートでのひと時、2日目⑧
全力で走り込んできたダンディな髭の男の怒りの鉄拳は振り下ろされた。
「いったぁぁ、何すんだよ!? 親父!?」
金髪1号に。
「何するじゃないわ! このバカモノが! ここに連れて来るにあたって、青葉の方々に迷惑をかけるな、とあれほど言ったのに速攻で破るとはどういうことだ!? お前の頭には脳ミソの代わりに生ゴミでも詰まっているのか!?」
割と散々な言いようである。それだけお怒りだということなのだろう。
「それは……」
「黙れ! お前はしゃべるな! それは、じゃないわ! 知っていても知らなくても、結果的にそうなっていたら言い訳も何もないわ! このバカ息子がぁぁ!」
立て続けにコンボを叩き込むサーファー型の髭ダンディ、一通りぶちかまして冷静になったのか、金髪1号を引きずって澪に謝罪に来た。そして、いつの間にか警備員の人たちがギャラリーを解散させていた。
「先ほど、お電話でも謝りましたが、改めて謝罪致します。青葉澪様、私の愚息が大変申し訳ありません。どうかお許しください」
社会的な地位も相当高いと思われる40歳くらいの成人男性が、10代の少女に頭を下げて謝る。この辺りは日本のビジネスマンの美徳であろう。迷惑をかけたら誠心誠意、素直に謝られると、意外と許してしまうものだ。
「いえいえ、幸いにも実害はなかったようですので、それにしても真谷のご子息でもナンパのような行為をされるのですね~? ちょっと驚きです」
「あの……大変厚かましいのですが、このことはできれば伏せておいて頂けると助かります。その……身内の恥ですので」
「もちろん、わかっていますよ~」
「澪様のお友達の方々、申し訳ありませんでした。今後何か問題があれば、こちらまで連絡ください。では、失礼します。……おい、お前たちさっさと歩け。ホテルで改めて事情を聞くが、情状酌量はしないぞ。覚悟しておけ」
そう言って司に名刺を1枚渡して、金髪1号2号を引きずって去っていった。去り際にちらりと見せた迫力は年相応の威風が漂うものだった。この後、2人がどうなるかは目に見えているが強く生きてもらいたい。どうやら、あのサーファー風の髭ダンディなおじさまは真谷グループの経営者のようだ。
「ごめんなさい、私がもっとうまく立ち回ればよかったですね……司さん、澪ありがとう」
本来であれば、絡んできたチャラ男が悪いのであって舞に非は一切ないのだが、舞は自分に責任を感じているようだ。いつもは物理的に解決していただけに、別の方法も必要だと感じ始めているのかもしれない。
「舞ちゃんは美人さんですから~、しょうがないですよ~」
「気にするな、こんなこともあるさ」
リリも舞の腕の中でペロペロと頬を舐める。リリなりに慰めているつもりなのだろう。シュンとしていた舞が笑顔になった。アニマルセラピーは偉大である。
「さて、飲み物買って戻ろう。余り時間をかけると、詠美ちゃんたちも心配するしな。そういえば、澪ちゃんはどうしてここがわかったんだ?」
「ここは私の家の持ち島ですよ~。島内の情報はリアルタイムで連絡がくるんです~。案の定、舞ちゃんがナンパされたと報告がありまして、すっ飛んで来たわけです~」
澪は司のほうをちらっと見て、
「ま~、私が来なくても司さんがちゃんと舞ちゃんを守ってくれていたみたいですけど~」
舞はキョトンとしていたが、少ししてから澪が言った意味がわかったようだった。
「いや~、俺はあしらうので手いっぱいだったから助かったよ。ああいった輩は叩き潰せばいいって問題じゃないから逆に難しい。それにここで舞を守れなかったら、次は宗司さんが来るからな。そっちのほうが怖い」
「……確かに~。宗司さんは、うちの警備員たちじゃ止められそうにありませんから、想像しただけでも恐ろしいですね~。最悪、対策を考えておかないとですかね~」
「そうなったら、あっという間に戦場だぞ。周りの店にもお客さんにも迷惑かけることになるしな。それだけは全力で回避しないといけない」
司は澪との会話に集中していて、そんな舞の行動に気付かない。澪はもし宗司が来た場合の事を想像して、珍しく顔が青くなっていた。
それにしても宗司は酷い言われようである。流石の宗司も周りの建物を巻き込んで暴れるということはないだろう。理性が少しでも残っていたらの話だが。一体、どこの怪獣か。
「おっと、そろそろ飲み物を買って戻ろうか。みんなが心配するしな。主に宗司さんが」
「? 舞ちゃんどうしたんですか? 行きますよ~」
「え? ええ、わかりました」
売店に飲み物を買いに向かう司と澪。考え事をしていたのか、ぼーっとしていた舞が澪に声をかけられて急いで追いつく。
それから3人は売店で飲み物を買って、ビーチへ戻るのだった。




