4-37 青葉リゾートでのひと時、2日目⑥
2017/10/13 固有名詞を修正
周囲と談笑しながら和やかに食事の時間は過ぎていく。宗司と優が取ってきた海産物もとても好評だ。最も、優が自分で焼いた分の50%は彼女の胃に収まっている現実がある。それでも一人で食べつくさないのは、きっと彼女なりの配慮があるのだろう。
「ん? リリどうした? 何か欲しいのか?」
リリがいつの間にか司の足元にやってきた。
先ほどまで詠美の膝の上で、ミディアムレアに焼かれた赤身肉の塊を切り分けられたものを手ずから食べさせてもらっていた。一切れ食べさせる毎に、蕩けそうにニマニマした詠美の笑顔は、他では見せられたものではないだろう。リリが食べ終わって膝から離れていった時のしょんぼり顔も。普段とのギャップが凄まじすぎる。
司は朝からステーキを食べたからか、野菜をメインで食べているようだった。リリもお肉を食べた後に野菜が食べたくなったのだろうか? リリは司の膝に飛び乗ると焼いたトウモロコシをガジガジと齧り始めた。顔はとても満足そうだ。
「おや、もう飲み物が少なくなってきたね。多めに持ってきたつもりだけど、まぁ予想以上に随分と食う連中がいるようだからね……」
妙子が鉄板作業をしながら、ちらりと飲み物の在庫をチェックしてそう呟いた。宗司と優を見て苦笑気味だ。
「私が買ってきますよ。お茶類とかを買ってくればいいですよね?」
「いえいえ~、舞ちゃんにやらせるわけにはいきませんよ」
「大丈夫です。みんなは待っていてください」
舞はそう言うと水着の上にパーカーを羽織ってさっさとホテルのほうへ走っていった。一般の海水浴場のほうには海の家のような売店があるからそこへ向かったのだろう。
舞と澪の話を聞いていた司は、すぐに舞の後を追う。きっと荷物持ちをしに行ったのだろう。リリは何やら楽しそうな気がしたので、司について行った。
その様子を横目で見ていた宗司はとても嬉しそうな顔をした。一般的な男女と比べたら、それこそ亀のような速度なのだが少しずつでも前進している様子が嬉しいのだろう。宗司からしたら司は弟のようなものなのだから。
「宗司さん、お肉が焼けましたよ。一緒にどうですか?」
舞と司が席を外したタイミングで詠美が宗司に話しかけてきた。こちらもこちらで、超鈍感生命体と純情乙女なので遅々として進展していないのだが、一体どうなることやら。
その様子を遠巻きに見ている澪と優はニヤニヤと嫌な笑顔をしていた。メンバーで唯一、この2人だけがなんのストレスもなく旅行をエンジョイしているのかもしれない。
「へいへいへーい、そこの黒髪の彼女~、水着可愛いね。一人なの~?」
「へー、やっぱりここのビーチの女の子はみんなレベル高いな。高校生くらいかな?」
舞が売店へ向かう最中、2人組の男に声をかけられた。金髪で浅黒く日焼けをした見るからにチャラそうな2人である。有態に申し上げると、舞の一番嫌いなタイプである。
最初は人違いかと思ってスルーしていたのだが、舞が無視をすると進行方向を遮るように回り込んで話しかけてきた。この時点で、舞の視線は鋭くなり、眉間にはイライラの素となる微かな皺が刻まれていた。噴火寸前の富士山のようである。
「ねぇねぇ、そんな顔してたら可愛いのが台無しだよ? 折角の海なんだから、開放的な気分をもっと楽しまないと!」
「俺たちに付き合うと、後でイイコトあるかもよ~。君、可愛いから目いっぱいサービスするしね」
無駄にハイテンションに笑顔でそういう2人、まさにチャラ男を絵に描いたような対応である。この時点で、舞の眉は吊り天井である。
「いえ、私には用事がありますので結構です。それでは」
さっさと切り上げて売店へ向かおうとする舞。会話するのも嫌だというオーラが全身からあふれ出ている。しかし、そんな空気の読める人間がナンパしているわけがない。空気が読めるなら、明らかに近寄るなオーラの舞に話しかけるわけがないのだ。
「まぁまぁ、そう言わずにちょっとだけ付き合ってよ。お試しでちょっとだけ、ね?」
「いえ、予定があるので結構です」
「そんなに邪険にしなくてもいいじゃん。俺たち、こう見えてやさしいから手取り足取り色々なことを教えてあげるよ?」
お互いに日本語が全く通じていない。いい加減、対応が面倒くさくなってきた舞。そろそろ物理的に対処しようかどうしようかと悩んでいたら、
「さ、それじゃ行こっか」
沈黙した舞を了承と受け取った金髪ナンパ男が、そう言って舞の肩に手を触れようとした瞬間……金髪ナンパ男の天地がひっくり返った。
そのままひっくり返って背中から砂浜へ落ちる金髪。下は柔らかい砂、受け身が取れる体勢で落ちるように配慮されていた体崩し。本人には何が起きたのかよくわかっていないだろう。目が白黒している。
「女の子に対してそんな扱いはダメだろう」




