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4-33 青葉リゾートでのひと時、2日目②

「あ、司さんは今朝もボルゾイの子供たちに会いに行ってくれてたんですね~」


「ああ、リリの散歩の途中で、リーダーのお父さんが呼びに来てな。父親ってのも色々と大変だな……まぁ、自分の子供が可愛いのは人間も犬も同じってことだな」


 司が苦笑して言う。どうやら、ボルゾイリーダーは割と苦労人な立場のようだ。父親というものは案外こういう宿命なのかもしれない。


 リリがワンちゃんハウスを訪れると子犬たちがたちまち群がってきた。どうやら昨日遊んでもらったお姉ちゃんのことを覚えていたようだ。今日もまた4匹がもみくちゃになりながら楽しそうに遊んで、しばらくすると3匹の電池が切れたようにスヤァとなった。


 寝落ちした子犬を母犬が寝床へ咥えて運ぶのを見届けてから、司とリリはワンちゃんハウスを後にした。途中、リリが母犬の行動を興味深そうに見ていたのが印象的だった。ヴォルフやルーヴのことを思いだしているのかもしれない。


「エイミーも子犬が見たかったら、朝早く起きて司さんとリリちゃんとお散歩したらどうですか~? 司さん今日は何時に起きたんですか?」


「ん? いつもと同じ6時くらいかな?」


「そんなのムリムリ、朝は苦手……。それに寂しくなったら、きっとリリちゃんが相手してくれるもん。ねー? リリちゃん」


 澪が遠回しに早起きする癖をつけるように促したようだが、詠美にはナシの礫だった。そして、最終的にはリリに甘えることにしたようだ。



 一行が本日向かうのは島の南側、ビーチがあるエリアだ。各自、水着や着替えなどの必要な手荷物を持って移動を開始する。青葉エリアから一般公園エリアへ、公園を横切ってリゾートエリアへ入る。


「目的の場所は一般ビーチの先にあるので、歩くとちょっと遠いですけど、そのぶん良いところなので期待していてくださいね~」


 澪が先頭に立って、カルガモの親子のように連なる。リゾートエリアに入ってから、バカンスに来ている一般のお客さんと良くすれ違うようになった。圧倒的に日本人が多いが、たまに外国人もいる。多くは、身なりがきちんとしていて品が良さそうに見える。


 ペット連れの人もちらほらと見かける。司たちと一緒にトコトコと歩いているリリに興味を持って近づいてくる犬も少なくない。中には主人の静止を聞かずにベロンベロンと舐めてくる大型犬もいて、堪らずに司の腕に逃げ込んでいたりもした。



「わ~、これはすごいところですね! 青と白が綺麗です!」


「でしょでしょ~? 結構自慢のビーチなんですよ~」


 舞の感想に、澪が自信満々で答える。しかし、それも頷ける。


 目の前に広がっているのは陶磁のような白い砂と、周りを岩壁に囲まれた入り江のようになっているコバルトブルーの海。入り江の奥はアーチ状になっており、真ん中にぽっかりと開いた大きな穴から海水が満ち引きしている。


 現実のしがらみとかけ離れた幻想的な光景に、一行はしばし時を忘れて魅入った。リリだけは早く遊びたくて足元でソワソワしていたのだが。


「休憩用のコテージがありますので、そこで着替えましょ~。お昼は妙子婆様がバーベキューを用意してくれますので、コテージの前で昼食です~。さ~、みんな行きますよ~」


「橙花と蒼花も行っておいで、俺はもう服の下に水着着てるから服脱ぐだけだしな。リリと一緒に外で待ってるよ」


「わかりました。それでは少しだけ失礼します」


 澪の号令で女子たちがキャッキャッと連れ立ってコテージに入っていく。橙花と蒼花もこの時だけは外見の年相応の女の子に見えた。


「うむ、遊びに来て正解だったな。あんなに舞が楽しそうな顔をしているのを見るのは久しぶりだ。やはり武神流だけでは気が滅入るからな。ああいった年相応の楽しみもなくてはいけない」


 そういう宗司は、すでに準備完了して仁王立ちをしていた。いつの間に着替えたのか……。筋肉隆々の身体に海パン1枚の雄々しい姿。ふんどし1丁じゃなかったのが唯一の救いである。流石に一般的な分別はあるようだ。妹の舞に恥をかかせないための配慮なのかもしれない。


「そうですね、みんなとても楽しそうです。橙花と蒼花も家では仕事ばかりだったので、こんな時くらいは息抜きしてくれるといいのですけどね」


「うむ、皆、少し真面目すぎるな。たまの休みに多少はハメを外してもバチは当たらん。人間、楽しみが無ければ人生が豊かにならんからな。司も、俺に遠慮はいらんぞ。遊べよ?」


 そういう宗司は、なぜか筋トレを始めた。念のために確認しておくが、ここは青葉家のビーチで白い砂浜でコバルトブルーの海である。なぜ、今ここで筋トレを始めるのか。普通は海に入るための準備運動ではないのか。


 そんな2人を尻目に、リリは一人で波打ち際と格闘していた。打ち寄せる海水に自分の足が触れないようにぎりぎりで回避する取り組みに夢中のようだ。


 こう何もせずに待つだけの時間というものは結構長く感じるものだ。筋トレを始めた宗司はある意味で賢いのかもしれない。古今東西、いつの時代も、女性の着替えは時間がかかるものである。

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