4-29 青葉リゾートでのひと時、1日目①
ボルゾイはロシア原産の大型犬、ロシア語で俊敏。狼狩りの犬種として重宝されてきており、昔はロシアン・ウルフハウンドと呼ばれていた。体長は大きいモノで2メートルくらいになる。俊敏と名の付く通り、脚がとても早く、時速50キロほどで走る。嗅覚と視覚が非常に優れているのが特徴。見た目の美しさと猟犬としての野性的な本能を併せ持つとてもユニークな犬種。
ボルゾイの集団襲撃事件から数分後。
澪がボルゾイたちに一行を紹介していく。ボルゾイリーダーは一人ずつ匂いを嗅いで顔を覚えていっているようだ。だが、宗司の前に来た途端にプルプルし始めた。しっぽが股の間にくるりと入っている……しかし、リーダーの目はしっかりと宗司を見つめていた。
「私は動物好きなのだがな……すまない」
「あちゃ~。大丈夫ですよ~この人は怖くありませんよ~」
宗司を見て怯えてしまったボルゾイたちを澪が宥める。宗司が少し離れると落ち着きを取り戻した。
「この子たちは結構不審者には敏感で攻撃的なので気を付けてくださいね。皆さんは私と行動してくれれば問題ありません~。あ、舞ちゃんと宗司さんは襲われても返り討ちにしないでくださいね?」
「そんなことしませんって、私たちを何だと思っているんですか?」
「ある意味、猛獣?」
舞の質問に答えた、優の意見は至極まともだった。
そして、最後はリリの番だ。
犬にも相性があるから、どうしても相容れない場合は対策をしないといけない。ましてやリリはまだ子犬だ。大型のボルゾイたちに囲まれて心中穏やかなわけがない。澪が内心ドキドキしながら見守っていると、予想外なことにリリが自分から挨拶をしに行った。
トコトコと、ひと際大きい群れのリーダーのようなボルゾイに近づいて行くと、ふんふんと周りの匂いを嗅ぎながら、相手の鼻に自分の顔を近づけていく。
周りから見たら、子犬が体長1メートル以上はあるの犬の群れに自ら突っ込んで行くのだ、異様な光景としか思えない。しかし、ボルゾイのリーダーはリリの匂いを嗅ぐと、大きな舌でベロンとリリを舐めて、わふわふと何やら会話をし始めた。
「おや~、リリちゃん凄いですね。この子たちを全然怖がらないどころか、こんなにすぐにお友達になるなんて、それに、この子たちがまったく威嚇しなかったのは初めてかもです~。これは、リリちゃんが一緒にいれば大丈夫そうですね」
それもそのはず、今の見た目は子犬だが、リリの本当の姿は体長3メートル以上の謎狼である。狼狩りを主としたボルゾイの群れの中にあってもリリは怯むことがない。そして、敵意0のリリの行動はボルゾイたちにも受け入れられたようだ。リリの後ろからボルゾイたちを厳しく睨む3対の目があったのだが……杞憂に終わったようでよかった。
リリはボルゾイたちに代わる代わる身体を擦り付けられ、もみくちゃにされながらも嬉しそうだった。そういえば、こっちに来て初めてできた犬の友達かもしれない。
一通り挨拶が終わったところで、ボルゾイリーダーを先頭にして別荘に向かって進んでいく。どうやら、彼らは道の先導をしてくれるようだ。賢い犬たちである。その後ろをリリがチョコチョコと走ってついていく様子を司たちは微笑ましそうに眺めていた。
前方に青葉家の別荘と思わしき建物が見え始めた。さながら洋館という風体だが、それにしてもデカい。いったい何人収容できるのか……外観からは想像もできない。
「お嬢様、おかえりなさいませ。皆様、いらっしゃいませ」
建物の前には執事とメイドの恰好をした人たちが立っており、澪たちが家に着くと揃って礼をした。
「玄一郎さん、こちらが今回お招きした人たちです。皆さんよろしくお願いしますね~」
澪が軽く挨拶すると中央の執事が一歩前に出て何かハンドサインで指示を出す。
「皆様のお荷物を」
玄一郎の言葉で使用人たちが一斉に各自の荷物を受け取っていく。
「うん、なかなか熟練した良い動作ですね。所作がとても美しいです」
蒼花がうんうんと頷きながら感想を述べる。見た目が自分よりも年上の人間に対するコメントではないような気もするが……。
橙花と蒼花は子供の頃から兎神から使用人とはどういうものなのかを厳しく躾けられており、この辺の良し悪しにはとても厳しい。今日は青色系統の涼しげなフレアワンピースを着ていたが、立ち振る舞いから本業がメイドなのがまるわかりだった。
「……ありがとうございます。さすがは蒼花様と橙花様ですね。お嬢様からお話は伺っております。今回は私たちがサービスする側ですが、何かご指摘がありましたらよろしくお願いします」
澪はその言葉に苦笑しながら、
「さ~、中へ入りましょ~。各自お部屋にご案内します~。荷物を部屋に置いたら、広間に集合で~お茶を入れますから~。あ、そうそう、司さんとリリちゃんと舞ちゃんは後で少し時間を下さい~」
いったい何の用があるのか?




