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逆ハー畑でつかまえろ☆  作者: さや@異種カプ推進党
番外編

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26/28

アーノネ、イッカさん私ゃ、かーなわんよぉ



「パーティー?

 って、すっごい大広間とかで、派手かつ重そうなドレス着て色んな人とワルツを踊ったり、グラス持ったまま歩き回って参加者と交流を深めるふりして陰謀を渦巻かせたり、高貴なお方に見初められて身分違いの恋愛に発展したりするアレ?」


 ここは俺に任せてお前たちは先に行けごっこで必死に大テーブルを下から持ち上げていた苺花は、その格好のまま視線だけをゼニスに向けそう返した。

 入室直後に彼女の奇行が目に飛び込んできたものの、すでに普通に椅子に座っていた方が驚き心配するレベルに達している彼は一切の動揺や気負いを見せることなく口を開く。


「いや、ただの立食パーティーじゃよ。場所も屋外庭園となっとる。

 主催はその昔に私の元で働いていた男でな、商会設立10周年記念ということらしい」


 ほれ、と豪華に装飾された招待状を苺花の方へ向け開きながら、ゼニスは彼女の傍まで歩み寄った。

 それを受け、苺花は遊びを止めて机の下から這い出し、肩や膝などを払いつつゆっくりと立ち上がる。


「で、今やゼニーの内縁の妻的な立ち位置の私も是非参加をって?

 隠してもいないけど、大々的に発表もしてないから色々噂になってるんだっけ」


 招待状をチラ見しコキコキと首や肩を動かし鳴らす彼女を、ゼニスは漫然と眺めつつ頷きと共に問いかけた。


「うむ。それで、イッカはどうするかね。

 参加でも不参加でも、私は一向に構わんよ」

「んんっと、どうしよう?」


 彼の言葉を聞くなり、苺花は唸りながら眉間に皺を寄せ、さらに腕を組んだ。


「いやさ、西大陸式マナーだって未だ付け焼刃レベルでしかない上に、社交場での会話も不慣れっていうか全然経験ないから、よしんば参加したところでゼニーの恥になりかねないじゃない?

 だからって、ずっと不参加ってのも印象悪くなっちゃうし、それが原因で下手な噂が立っても結局……ねぇ?」


 どうやら本気で彼の商王としての立場を案じているらしい苺花は、さらに目を瞑って唸り続ける。

 普段は常識の埒外に生きている彼女だが、それでも逆ハー男性陣が離れていかないのは、こうした何気ない言動から感じ取れる確かな愛情があるからかもしれない。

 ゼニスは柔らかに目を細めながら、悩める苺花の肩にそっと手を置いた。


「……イッカ。

 少なくとも、私のことを気にする必要はないんじゃぞ。

 老い先短い我が身じゃ。今さら誰に何を言われたところで痛くもかゆくもないわい」

「素敵! 抱いて!!」


 途端。勢いよく顔を上げ、興奮した様子でゼニスへと飛びかかる苺花。

 そんな万年発情期ビッチの行動パターンを把握していた彼は、年齢に見合わぬ意外な素早さで身を躱し背後に回り込んだ後、第2波を防ぐため右手で彼女の小さな後頭部をガッシと掴んだ。


「いーや、考える方が先じゃ」

「ううーーーっ。

 でも、行って大人しく振る舞って変な男に惚れられでもしたら、私にとってもゼニーにとっても面倒くさいことになるのは自明の理だしぃ。

 逆に、私と言う前例が出来て勝手に希望を見出した強欲女もしくは横恋慕女がいるなら、きっぱり引導を渡してあげなくちゃ、これも後々でウザいことになりかねないでしょぉ。

 何だかこう、それぞれにメリットとデメリットがあって難しいのよぅ。

 答え出すのって後日じゃダメかなぁ?」


 冴えないオッサンに美女が後ろ頭を掴まれているという傍目から見れば非常にシュールな状態のまま、苺花は常人には理解できそうにない不可思議な利点や欠点を並べて返答の延期を申し出た。


「まぁ、猶予は当然あるが……しかし、万一にも忘れられては敵わんからのぉ。

 結論が出るまでの条件として、そうじゃな、私との身体的接触を禁……」

「何事も経験なしに否定も肯定もできないわよねッ!

 イクイクぅ! 苺花もうイっちゃうぅ!」


 他の人間ならばいざ知らず、ビッチにとっては本気で死活問題となりかねない最低最悪の条件を提示されそうになり、その危機を感じ取った脳は生物としての限界を突破するレベルの超回転を見せ即座に解答をはじき出す。

 更にそこに意味の無いセクハラ要素まで盛り込んで来るのだから、全くどこまでも恐ろしい煩脳だった。


「あい、分かった。では、そう返信しておくわい。

 詳しい話はまた後日でいいじゃろ」


 だが、無駄に必至な彼女とは裏腹に、用件は済んだとばかりに早々部屋から去って行ってしまったゼニス。

 閉じられた扉を前に、苺花はどうにも納得のいかない感情を持て余して、はしたなくも床の上を転がり回るのだった。


「ひぎぃ!

 壊れるほど愛しても塵芥ほども伝わらないこんな世の中じゃポイズンッ!」




~~~~~~~~~~




 そして、次の日。

 いつものように逆ハー面子勢ぞろいで食卓を囲んでいると、苺花のパーティー参加を耳に入れたらしいユーリウスが酷く心配そうな声を漏らした。


「でも、パーティーだなんて、本当に大丈夫なんでしょうか。

 イッカさんはとても素敵な女性ですから、こう、色んな意味で目を付けられてしまいそうで……」


 なんとも安定の信者っぷりである。

 そんな彼女へ、苺花は安心させるように微笑みこう告げた。


「ん、そうね。ありがとうユーリちゃん。

 とりあえず、男女関わらず口説かれそうになったら、頬を染めハァハァ呼吸を荒くしながらゼニーの魅力を延々と語り続けてやるつもりだから普通の感覚の持ち主なら十中八九引いてくれると思うわよ」

「それはとんだ生き地獄じゃな……主に私が」


 すでにこの時点でドン引きしてしまったゼニスが、口へと運ぶ途中であったスープをゆるゆると下げ、眉間に皺を寄せ呟く。

 だが、彼女の奇天烈ぶりがその程度で終わるはずも無かった。


「そしてもし、パーティーでゼニーloveな女から全裸に剥かれるような嫌がらせを受けたりなんかしたら、何をするだぁーって叫びながら仁王立ちして、直後、理解が追い付かずに固まっているであろう犯人に飛びかかって、キィーヒッヒッヒと笑いながら同じようにひんむいてやるつもり」

「頼むから人間に分かる言葉で話せ」

「ヤン、苺花は終始人語のみを語っておったぞ?」

「イや、タマ。ヤンが言いたかっタのはソういう意味ではなくだナ……」


 最初から最後までツッコミどころしかない発言に、軽く頭痛を覚えるヤン。

 更にそこからタマが追い打ちをかけるようなセリフを被せて来たが、常識仲間のピ・グーの援護により彼がそれ以上の痛みを覚えることは無かった。

 苺花がヤン1人で満足していたら、今頃彼は度重なる心労で倒れていたかもしれない。

 ある意味、ビッチがビッチで感謝の状況である。


「で、実際どうなのゼニー?

 私も囲ってくださーい☆なぁんて図々しい女っているの?」

「む、まぁ、なんじゃ。いない……と、言えば嘘になるかの」

「っああああ分かってたけどやっぱりぃぃ!!

 きぃぃッ、ゼニーのオムツを交換していいのは私だけなんだからぁッ!」


 ゼニスの答えに一瞬にして脳を沸騰させた苺花は、奇声を発しながら自身の腿をバンバン叩き出す。

 とはいえ、食事の乗ったテーブルでそれをしないあたり、若干ながらも冷静さが残っているようである。


「嫌な方向の誤解を招きかねん発言は止めて欲しいんじゃが」


 さすがにまだ尿漏れに悩まされるほどの年齢ではないし、だからといってそういったプレイで喜ぶ特殊性癖もないゼニスは、ただただ呆れたようにため息をついた。

 苺花の落とした爆弾にピタリと固まっていた周囲も、彼の態度を見て思い違いに気付きその緊張を緩める。


「ソうカ。要はゼニスに介護が必要な時期が訪れても、他人任せにせズ自らが面倒を見たイということだナ」

「ほぅ。そのような意味であったか。

 ようやく理解した」

「しかし、アレだな。

 意外とイッカ語の翻訳が達者だな、ピ・グーは」

「うーん、羨ましいです。

 僕もイッカさんのこと沢山分かってあげられるよう頑張らなくっちゃ」


 相変わらず、無駄に和気藹々としたハーレム陣である。

 と、そこで不機嫌に頬を膨らませていた苺花が何かに気が付き小さく首を傾げた。


「ん? でも、ゼニー何かちょっと嬉しそうじゃない?」

「えっ。ゼニスさんは、イッカさんにオムツを変えてもらうのが嬉しいんですか?」


 瞬間、ユーリウスがギョッとした表情でゼニスへ視線を向ける。

 ちなみに、寝たきりになった際に愛した女性にお世話をしてもらうなんて逆に心苦しいのではないですかと問いたかっただけで、けしてそういう性癖だったんですかと蔑んでいるわけではない。


「いやいやいや、その言い方は止めてやろうぜユーリウスよ。

 先の短い人間にしてみれば、その……最期まで気心知れた相手に面倒みてもらえると分かれば、やっぱ安心できるだろ」


 メンバーの中で比較的ゼニスと年齢の近いヤンが彼を擁護し出した。

 その言葉を引き継ぐように、ゼニスが苦笑いを浮かべながら口を開く。


「じゃなぁ。雇い者では草(※)が混じっておる可能性もあるからして。

 かといって、息子たちの枷になどなりたくはないしのぉ」

「ふぅむ。

 さすがは老齢を間近に控えた2人、悲しいほどの切実さよ」

「ソれハ、少なくとも最年長のタマのセリフではなイと思うんだがナ……」


 微妙にしんみりムード漂う中、この会話のきっかけが立食パーティーにあったなどと、もはや誰1人として覚えてはいなかった。




~~~~~~~~~~




 そして迎えた、パーティー当日。

 使用人が機車きしゃを用意するまでの少しの時間、逆ハー面子と苺花ら6人は玄関先にて会話に花を咲かせていた。

 護衛と称したところで会場内部へは入れない仕様になっているので、今回ヤン、ピ・グー、ユーリウスの3人は留守番を余儀なくされている。

 その代りというわけでもないが、人の目に見えぬ精霊体となったタマが2人を見守るといった方向で自然と話がついていた。


「そう。それで、こなくそーッて言うのはいくら何でも下品だと思ってね?

 わざわざ丁寧に粉末大便ーッって叫んだわけ。

 そしたら、その直後にゼニーったら無言でゲンコツよ!?

 この麗しくも可憐な乙女に鉄拳制裁よ!?

 信じられる?

 せっかく、この私が、珍しくも、気を使ったっていうのに、無情にも怒られたの!

 こっちからしたらまさにワケが分からないよ状態じゃない?

 だから、私はこう主張してやったの!

 果たして世にこんな理不尽がまかり通って良いのか!?

 いいや、否! 断じて否だ!!

 私はこの不条理なる悪しき風潮に対し、断固として立ち向かう姿勢であるッ!

 ……って」

「お前、今すぐ丁寧って言葉に謝って来い」

「主張するイッカさん……凛々しい」


 もはやその内容にツッコミを入れることは放棄したらしいヤンと、恋は盲目といったレベルを遥か超えて意味不明にも頬を染めるユーリウス。


「記憶済みの単語数点に些か誤りがあったらしい。

 誰ぞ、辞書を貸してもらえるか」

「イや、タマの記憶は間違っていなイと思うゾ」


 苺花の言葉から習得している人語の意味が間違っていたと勘違いしたタマは熱心にもその場で修正を試み、意外と面倒見の良いところのあるピ・グーが無駄足を踏ませる前に彼の思い込みを正した。

 カオス空間ここに極まれり、といった風情である。

 今から参加しようかというのにパーティーにはあまり関心がないのか、苺花は本当にどうでもいい普段通りの雑談に興じているらしい。


「そうは言うが、イッカよ。

 アレは元より叱られることを前提とした発言じゃったろ?」

「バレた?」

「バレいでか。

 お前さんの広すぎる想定範囲の内には、いつも一般的視点が含まれとるじゃろ」

「ああんゼニーったら私のこと私以上に分かってくれてるーって言いながら抱きついてそのまま最後までイキたい気分を理性で必死に押さえつけているので夜にはご褒美が欲しいとか思ったり思わなかったりな今日この頃」

「タマ、間違えるなよ。

 こういう場合はな、素直じゃなく垂れ流しと言うんだ。」

「ぬ、難解な……いっそ、正直で手を打てぬだろうか?」


 ゼニスと苺花がキャッキャウフフする隣で、無駄に真剣な顔をしたヤンがタマの肩へと手を置き何やら教育を施している。

 聞こえていて当たり前にスルーできるあたり、苺花の面の皮は鋼鉄ででも出来ているのだろう。


「欲を言えば、主張の後は同じノリで返してくれると嬉しかったかなぁ。

 理不尽? 不条理? くくっ、笑止な。

 所詮この世は弱肉強食、貴様のごとき虫ケラの不遇はむしろ必然ではないか!

 ……とかさ」

「なんだか精霊のタマさんに似合いそうなセリフですねぇ」

「冗談にナらんゾ、ソレは……」


 嘘みたいだろ。逆ハーレムなんだぜ、これで。と思わず呟きたくなるような現場である。

 そんな団欒中の苺花たちへと、機車の準備を終えた使用人から声がかかる。

 こうして彼女は留守番組の心配そうな視線を受けながら、初めてのパーティーへと出かけていったのだった。




 数時間後。本当に本気でマシンガン惚気を炸裂させたらしい苺花は、まるで「良い仕事をした」とでも言わんばかりの清々しい表情と共に帰宅を果たしたのだそうな。

 そんな彼女と対照的に、ゼニスの瞳からは一切の光が消え失せていたのだが……それはこの際どうでもいいことだろう。

 更に、この日以降。なぜか商会の売上が目に見えて上昇したらしいが、その理由が判明することはついぞなかったという。




※正確には里入り忍のことだが、この話では長い年月をかけて潜伏し全幅の信頼を勝ち得た諜報員の意として使用。

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