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無人島?

外海のうねりの中・・・。

 潮の流れに沿って漕ぐので力がいらないように思うかもしれないが、船のバランスをとるために結構力を使う。


波の静かな湾の中でボートを漕ぐのとは違うんだなとエミリーはつくづく思った。


一つ一つの波のうねりが大きいので、ボートがひっくり返らないように制御するだけで精一杯だ。


ロブとムハラさんが、鳥や潮流の流れを見ながら方向の指示を出してくれる。


「エム! 島影が見える…島だっ、島があるぞ!」


ロブが興奮してそう叫んだのを聞いた時、心から神に感謝した。



島がハッキリと見えるようになって、漕ぎ手をロブに託した。


『エミリー、島を見てくれ。上陸ポイントを考える。下手に近付くと岩にぶつかって木っ端みじんになるかもしれないからな。』


ひぇー。

ムハラさんがまた物騒なことを言う。



疲れてパンパンになった腕を揉みながら、エミリーは島全体を見廻した。


ピーナツの殻のような格好をした島だ。

こちらからは上陸できそうな砂浜は見えない。


海側はごつごつした岩肌の崖になっており、海の中にも岩がにょきにょきと生えているのが見える。

崖の上には覆いかぶさるように木々が群生している。


素人が見てもわかる。

…上陸できない。


私の顔が曇ったのがわかったのだろう。ロブが振り向いて島を見る。


「…砂浜がない。」



『大丈夫。向こう側に多分砂浜がある。潮がぶつからない淀みがある方に堆積物は溜まるはずじゃ。ただ、砂浜が短い場合もあるからの。この潮流が島影を廻った時に、遠心力を利用して一気にボートを島に近づけよう。いちかばちの賭けじゃが、ロベルト、できるな。』


「ああ、わかった。もし砂浜が見えたら方向を指示してくれ。」


ロブが(たくま)しく見える。


私も負けてられない。

絶対に助かるんだ。


幸い2人ともライフジャケットを付けている。


海に投げ出されてもどこかよじ登れるところを探して、この島にしがみついてやる!


エミリーの眼の光が変わったことに、ロブも気が付いたようだ。

オールを漕ぎながらお互いに顔を合わせて頷き合う。



ボートを島側に出来るだけ近づける。


島の端を廻りかけた時に小さな猫の額ほどの砂浜というか、砂利(じゃり)浜を見つけた。


あそこしかない。


エミリーとムサカさんの矢継ぎ早の指示で、ロブは力を振り絞った。


もしもの時の為にエミリーはカバンを手に持ち、ボートから飛び降りるタイミングを図っていた。



ボートの底がガッという音をたてたと同時に、エミリーは飛び降りて、カバンごとボートの淵を(つか)み、島に向かって渾身(こんしん)の力を込めてボートを押した。


ロブもボートから降りて、びしょぬれになりながら引き綱を持って引っ張っている。


ガリガリガリッという音と共にやっとボートが地面に上がった。



ロブがはぁはぁ言いながら、引き綱を持ったまま地面に寝転んだ。


エミリーもぐらぐらする石を踏んで海から上がる。


胸から下がびしょ濡れだ。

ずっと波に揺られてきたので、地面を足がちゃんと踏んでいるのか心もとない。


まだ頭の中が揺れている。



「ロブ、ありがとう。ロブのお陰だよ。何とか助かったね。」


「はぁ、はぁ。いや2人のチームワークだ。はぁーーーー、でも良かった。一時はどうなることかと思ったよ。」


「私も、何度もこれで終わりかと思った。」


「へーー、そんな風には見えなかったけど。僕の事笑ったりして余裕じゃんと思ったよ。」


「あれは緊張しすぎてたからよ。極度に緊張すると何でもないことで可笑しくなるってホントだね。」


「まぁ、いいよ。しかし地面って有難いなーー。もう一生地面から離れないぞって気分。」



エミリーもロブの横に寝転んだ。


ふわふわ揺れていた頭が、一つの方向に落ち着いた感じがする。


そこそこ大きな砂利石なので身体の下がごつごつして痛いが、この痛みも安心感に繋がった。



 しばらくそうやって二人で寝転んでいたが…。


「…暑い。いや熱い。」


「…ん、僕もそう思う。日陰に入ったほうが良さそうだな。」


人間とは贅沢なものである。


しばらくするとこの上ない天国と思っていた砂利浜にも欠点が見えて来た。


2人で起き上がって、もう一度ボートを引っ張って、念の為に砂利浜の一番奥まで持っていく。


そうして、ロブがボートの引き綱をしっかりと根を張っていそうな木に結び付けた。


「これでよし。もし潮が満ちても、これで大丈夫だ。」



「うん。ロブ、ちょっとこっちへ来て、この木の間から崖の上に上がれそうだよ。」


「ん? でもなるべく岸辺を離れないほうがいいんじゃないか?」


「でも救助がいつになるかわかんないでしょ。もし明日まで誰も来なかったら、ここで寝ないといけなくなるんだよ。日のあるうちに寝るところを確保しといたほうがいいよ。」


『エミリーの言う通りじゃ。この砂利浜の石には海藻がついておる。もしかしたらこの浜は満潮になったら無くなるのかもしれん。』


ムハラさんがそう言うのを聞いて、ぞっとした。


本当に危機一髪だったのだ。

よくこの浜が見えている時に、島に着けたものだ。


エミリーが四つん這いになって台になり、ロブに先に上に登ってもらう。

そしてロブが木を掴んで、エミリーを引っ張り上げてくれた。


肩にかけたカバンがずり落ちそうになってヒヤッとしたが、何とか私も上に登れた。


木の下には笹が密集して生えており、当然のことながら道などはない。


どっちに進んでいいかもわからない。



その時、頭の中でブッブーーという音がした。


ロブにも聞こえたようで、こっちを振り返る。


『交代の時のようじゃな。』


「ありがとうっ。ムサカさん、本当に助かったよ。」


ロブが慌ててお礼を言った。


『いや、お前はよく頑張った。たいした奴じゃ。じゃあ2人とも頑張れよ。』


そう言ってムサカさんは記憶の場から消えた。



「僕にあの音が聞こえたということは、ロベルトさんを呼び出した方がいいんだね。」


「うん。そうみたい。」


2人でおでこをくっつける。

ロブは汗と潮の匂いがした。


声を合わせて呪文を唱えた。



「「【オルト クルコム イガ イゴウ】」」


ピーンポーーン



「『どうした? どこだ?ここは。』」


「私達にもわからないの。」


「いや、僕はニューポンドランドの一部じゃないかと思ってる。」


「何でそう思うの?」


「だって、地図を見てれば判るだろ。クラフの町から近い島と言えば、ニューポンドランド諸島しかないじゃないか。この島は見たことがない形だから、地図にも載らない程小さな島なんだと思う。」


「『それで、どうして私が呼び出されたんだ?』」


私達は海で遭難をしてここにたどり着いたことを、ロベルトさんに話した。


「『…よく助かったな。わかった。寝床の確保だな。野営は任せとけ。先ずは、この場所をマークしておくべきだな。』」


そう言って、私たち2人に直径一メートルの半円状に笹藪を踏みしめて、この場所をマーキングさせる。

この中に生えている木の幹も傷つけたり細い下枝を折ったりして、次に見た時に場所がわかるようにしておく。


笹を踏むのは大変だったが、2人で手分けしてなんとかマーキングすることが出来た。



「『よし。じゃあ次は寝る場所だな。小さい島ならそう大きな動物などの敵はいないだろうが、もう少し開けた場所じゃないと長くここにいなければならなくなった時に、この場所では居住環境が悪すぎる。』」


「うん。やぶ蚊がいる。私ここじゃ寝られないよ。」


さっきから何匹も叩いて潰している。



「『木の生え具合を見ていると、こっちが南だな。ロブ、島はピーナッツの殻みたいな形だと言ってたな。』」


「うん。僕が思うのにだいたい東西に長い島だと思う。僕たちは今島の一番東端を北側に少し回り込んだところにいるんだ。」


「『じゃあ、左手を南側にして進めば、島の中央に向かって進めるな。行ってみよう。ロブは藪を切り開くことと、足元を確認しながら歩くんだ。エミリーはさっき折った木の枝で、自分の左腕の肘の辺りの高さに通り道の木を傷つけながら歩くんだ。念のために帰り道を確保しておこう。急がないでいいからな。ゆっくり行け。』」


私達が歩いている地面は、ゆっくりと上り坂になっていた。


木を傷つけている手が怠くなったなと思った時のことだ。


「何だこれ?」


ロブが立ち止まったので、ロブの所まで行ってみると、そこには人が歩いた後のようなもの、道と呼べるような筋が地面についていた。


「『獣道に似ているけど、なんかちょっと感じが違うな。この道を辿って行ってみるか。エミリー、その枝をここの角に埋めておいてくれ。目印にしよう。』」


「わかった。」


エミリーは自分たちの道とこの変な道が交わったところに、持っていた木の枝を挿した。


ロブもエミリーも歩きやすくなったので、今までよりもスピードアップして上り坂を登っていった。



途中少し下りかけたかなと思った時にそれ(・・)はあった。


向かって右側の木々が少しまばらに生えていて、隙間から青い海がちらちら見えているところに、木や笹を寄せ集めて束にしたような「()」があったのだ。



「何?あれ。何かの動物の巣なの?」


「わかんない。近くまで行ってみよう。」


私達はゆっくりとその巣に近付いて行ってみる。



すると、突然ガサガサッという大きな音がして、その巣の中から毛むくじゃらの獣が飛び出してきた。


「うわっ!」

「ぎゃーーーっ!!」


エミリーは叫んで、ロブの後ろにギュッと縋りつく。



「『エミリー、大丈夫。人だ。』」


「あんたらはっ、いったいどこから来た! どうやって来たんだ! 俺は俺は帰れるのかっ!」


その獣は唾を飛ばしてそう叫んだかと思うと、声を限りにおいおい泣き出した。



その人?が落ち着いて話が聞けるようになって、やっと事情がわかった。


「俺は、ロビン・ウィルソンという。ニューポンドランド島の漁師だ。一週間前の嵐で遭難したんだが、この島がどこだかわからなくてな。船も沈んで、もうここからは出られないんだと思ってたとこだったんだよ。」


「僕は、ロベルト。こちらは、エミリー。僕たちはクラフの町で、手漕ぎボートに乗っていたんだけど、事故で気づかないうちに外海に出てしまっていて、強い潮流に乗ったまま、ここまで流されてしまったんです。」


「クラフだって?! じゃあ俺は、自分の漁場のすぐ近くで途方に暮れてたっていう訳か!なんてこった。あんた達が今日来たんなら、この島の形を見ているだろ。どんな形だった?」


ロビンさんに聞かれたので、ロブが自分の考察を交えて話をした。



「なんと、ナイン島まで流されてたのか…。」


「この島はナイン島と言うんですか?」


「正式な名前は知らんよ。ただこの辺りの漁師の間の通称だ。浜もナイ、何もナイ島だからな。そういえば、あんたらはよくこの島に登れたな。俺は崖に叩きつけられて、遮二無二垂れ下がってた木の枝に(すが)りついたんだ。嵐の最中(さなか)何度もう駄目だと覚悟したことか…。」



ロブがボートを東端の砂利浜につけたことを言うと、ロビンさんは目をギラギラさせた。


「ボート?! 乗れるボートがあるのか?!」


私達が頷くと、「よしっ、よしよしよしっ!帰れる。帰れるぞっ」と再び興奮し始めた。


ロビンさんはすぐ立ち上がって巣の中を探っていたかと思うと、Tシャツを着て出て来た。


あっ、人間に見える。


私はやっと安心した。

なんか野生のゴリラと話をしている気分だったのだ。



私達はロビンさんを案内して最初にいた浜まで戻ってきた。


帰り道は下りということもあるが、印をつけて歩いて来ていたので迷いもせずに、スムーズにたどり着くことが出来た。


その印の事やら用心深くボートを繋いでいたことやらに、ロビンさんは感心していた。


「あんたたちはたいしたもんだね。まだ子どもなのに…。でも、ここからは俺が必ず連れて帰ってやる。ここいらの海は、俺の庭のようなもんだからな。手漕ぎボートでもすすいのすいさっ。」



ロビンさんとロブがボートを海の方に持って行っている時に、頭の中でブブッーーという音がした。


ロブがボートを運びながらチラッとこっちを見る。

私は頷き返してロベルトさんにお礼を言った。


(よかったな。一応用心に、ムハラさんに変わってもらえ。)

そう言ってくれたので、ムハラさんを呼び出す。



「【オウセン カコウ セト テクラ】」


ピーーンポーーーン



『どうした?大丈夫か?』


「うん。この島に漁師の漂流者の人がいてね。手漕ぎボートでも帰れるって言うから、これから一緒に海に出るの。大丈夫だと思うけれど、一応用心に見守ってて。」


『わかった。ロベルトが呼んどるようじゃ。行きなさい。』



エミリーは、振り返ってもう一度このナイン島を見た。


短い滞在時間だったけれど、忘れられない島になった。



その後、帰路の途中で私たちを探している捜索船に出会うことができた。

それにはデビ兄が乗っていて、私は大声で泣かれながら叱られた。


反省してます。


今度から帽子には紐をつけよう。

…うん。

大反省のエミリー。皆に心配かけたのを謝らなくては・・。


でも、二人ともよく頑張ったね。やれやれ。

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