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タバサの功労

まだ旅行は続きます。

 観光に生かせそうな歴史上の発見が一つは見つかりそうなので、だいぶ気分が上向いてきた。


微々たるものかもしれないが、この研究旅行の成果を出せたようで、エミリーとしては単純に嬉しい。



お腹が空いてきたので、エミリーとロブはこの先の商店街でお昼を食べることにした。


都市部とは違いやっと車がすれ違えるくらいの狭い道幅だが、それがかえって人々の親密感をよんでいるようで、人通りは多かった。


両側に並ぶ店の中にも、大勢のお客さんが入っている。



「観光地としても充分賑わってるね。冬場でこれなら、あんまり手助けをしなくても経済的には大丈夫そうだね、キャンベル家の民宿。」


「そうだな。まぁそれが判っただけでも、来て良かったじゃないか。帰っておじさま達にそう伝えられるだろ?」


「うん。ところで何食べる? 折角アイルランドに来たんだから、こっちの名物がいいかな?」


「ハギスとか?」


ロブが意地悪く笑いながら、エミリーに問いかけてきた。


「もうっ、私が内臓系のお肉は苦手だって知ってるくせに。」



外がひどく寒かったので、早くどこかに入った方がよさそうだ。


山小屋風の雰囲気がよさそうな店があったので、中に入ってから注文するメニューを考えることにした。



「やっぱりなにか暖かい物がいいよね。」


「うん。僕はソーダブレッドとテールスープとグラタン。」


「早っ。こういうことは決めるの早いのね。えーと私は…私もスープがいいかな。この地元野菜のスープと、ミートパイ。後はデザートに、ルバーブパイ。」


「相変わらずパイが好きだな。太るぞ。」


「いいのっ。タバサは何にする?」


「わたしは、ブラウンシチューとパンとサラダのランチセットをいただきます。」



全体的にみて、この店に入ったのは正解だった。


店の奥では泥炭、ピートがゆらゆらとした不思議な炎をあげて旅情を誘ってくれる。


料理も全部おいしかった。


お腹が一杯になったので身体がぽかぽかと温かくなってくる。


欲を言えば私としてはルバーブパイにもう少しお砂糖を入れて欲しかったが、ロベルトさんは懐かしいおふくろの味だ、とおおいに感激してルバーブパイを褒めたたえていた。




◇◇◇




 お腹が満足したので、もうひと頑張りと気合を入れて、一気にお城に行くことにした。


お城は、山を背にして少し小高い所から村を見下ろすように建っている。


坂道を登っていく途中でお城の全容が見えてくると、ロベルトさんが言った。


(これはだいぶ違うな。まず私の知っている建物はこの半分ぐらいしかない。東側翼のあの部分が主だった。昔は城と言ってもこの辺りのものは、砦に領主館の機能を付けたようなものだったからな。)


「後から付け足ししながらこの大きさになったんだろうね。領史によるとハンニガム候に嫁いだといわれている、娘のオリガさんが産んだ子どもが建てた翼もあるらしい。」


(それはぜひ見てみたい。私の孫の施策ともいえるな。)



エミリーたちは、お城に向かう坂を登り切ってから自転車を降りた。


ロブの言っていた建物は、ロベルトさんの知っている東翼の建物に続いて、更に東側に向かって付け足されていた。


この土地は後ろの崖の方へ斜めに下り気味になっている。


山際(やまぎわ)のせいか先日のクリスマス前から降っていた雪がアイスバーンのようになって建物の裏に残っていた。



「エム、足元に気をつけろよ。」


ロブがすぐにエミリーの手を繋いで、そろそろと坂を下ってくれる。


こういう紳士的なマナーはいかにも公爵家の息子だよね。



(おいおい、私の孫は何を考えてあそこに壁なんて建てたんだ?)


「どこの壁?」


(ほら、そこだよ…。)


ロベルトさんが言いかけた途端に、物凄い悲鳴が聞こえた。



「ぎゃーーーー、止まらないっ!! 坊ちゃまーー誰かっ誰かっ止めてぇーーーー!!」


私達の横を物凄いスピードで自転車が通り過ぎていく。


タバサだ!



タバサの自転車はアイスバーンで滑ったためか、なんとか建物への激突は避けられた。


しかしその横にあったボロボロに崩れかけていた壁に勢いよくぶつかって、はね飛んだ。



壁の方も衝撃で向こう側にドミノ倒しのように崩れていく。


ドサッドスッという石が崩れていく重い音と土煙が、タバサの周りを包んでいた。



「タバサっ!大丈夫かっ?!」


「ゲホッ、ケホンッ…坊ちゃま…痛いです。手がっ、手が動かない。」


「手だけかっ? 他は? …立てるか? ちょっと立ってみろ。」


ロブに寄りかかって、なんとかタバサは立ち上がれた。



よくこれだけで済んだものだ。


タバサよりも壁の方が酷いことになったようだ。


この壁が崩れてくれたおかげで、衝突の衝撃が少しは緩和されたのかもしれない。



「『ほら見ろ! ……やはりな。』」



「何ですかお2人とも?」


タバサは不思議そうだが、目の前にはタバサのことなど気にもならない程のものが露出していた。



「金塊だっ!!!」



ロブはタバサを掴んだまま、打ち震えている。


「なんでこんなところに金の塊があるの?」


(ここは宝物庫のあった場所だ。後ろが崖に、横が山に囲まれてるから、泥棒からお宝を守りやすかったんだ。しかし、ここに壁を建てたことで、かえってそれが判らなくなったんだろうな。これが壁でなく建物であったなら、後の世で既に何者かに盗まれていただろう。)



驚天動地とはこういう状況の事を言うのだろう。


それからの騒ぎが凄かった。



金塊を発見したラッキーな3人として、大々的にマスコミに報道されることになったのだ。


私達は何度テレビカメラの前に立ち、何度新聞社や雑誌のインタビューに答えたことだろう。


手の骨が折れたタバサも、病院までマスコミに押しかけられて、しつこいほど何度も質問されていた。




エミリーは、今度の旅行の顛末が一冊の本になると聞いたときには驚いた。


ロブの被害は甚大だった。


元々公爵家の嫡男でネームバリューもあったことから、王族関係のパパラッチにも(しばら)く追われることになったのだ。


そのために情報を公的に公開した方がいいと、このような本が出ることになったのだろう。



エミリーが一番びっくりしたのは、ワイドショー番組の取材の細かさだ。


あの日昼食を食べたレストランが映っていて、「これがあの3人が食べたというゴールデンランチです。」とレポーターがしゃべりながら、エミリーたちが食べたものと同じメニューを食べていた。


騒動これに極まれりといった映像だった。



勿論、私たちの当初の目的は達した。


私達が当日泊まっていたことに加えて、この旅行のきっかけにもなった宿屋の名前を知らないイギリス人はいなかった。


そこの跡取り息子がいずれエミリーの義兄になる予定だということで、キャンベルB&Bは一躍世界的に有名になったのだ。



その後、「黄金の恋人たちの宿」と銘打って、B&Bに新しい棟を建て増ししたにも関わらず、半年たった今でも新婚旅行などの宿泊客が途切れないと言っていた。


儲かっているのはいいのだが、忙しすぎてブリーの結婚式が延び延びになっているのが、本末転倒ともいえる。



結婚式がなかなかできないと、ブリーにブチブチと文句を言われているが、結婚を決めるのが早すぎたのだから丁度いい婚約期間ではないだろうか。


エミリーの方は事件より3か月経った春頃から周囲が落ち着いて来て、最近、やっとゆっくり本が読めるようになった。


しかしロブのほうは今だに「ゴールデンプリンス」と言われて、知り合いに揶揄(からか)われている。



こういう冒険じみたことは金輪際経験したくないと思う。



自分の意思など尊重されず、大きな波にもみくちゃにされて、ほとほと嫌気がさした。




だから…あの洞窟の事は誰にも、何も、言っていない。


まさかあそこにもお宝があるなんてことは、ないだろうけど……。


多分ね?

お疲れ様。エミリー、ロブ。そして陰の功労者タバサ。

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