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黄昏色の空と秋祭り

おきぬさんとのテッシュケース作り、少しは話もできたようです。

『カラスがね、空を鳴きながら飛んでいくんです。カァカァカァといいながらね。沈みゆくお天道様からの逆光を浴びて、目の前に、幾つもの山々の峰が折り重なるように現れるんですよ。…金粉をまぶしたような光と灰色に静かにたたずむ山々、この景色が一番好きでしたね。他所から来た方は雲海のすばらしさのほうを大抵褒めて下さってました。山の上に建っているお城だったので、朝方の雲海は確かに見ごたえがありました。けれど私は黄昏色の空と山が故郷そのものだと思っています。』


 ティッシュケースを縫いながらおきぬさんに生活していた場所を尋ねると、こういう答えが返ってきた。


エミリーはなだらかな丘陵地帯であるこの辺りの事しか知らないが、話を聞いていると自分でも懐かしく思うのだから不思議だ。

魂に刻まれた記憶というやつなのだろうか。



おきぬさんはお城のお殿様やお姫様の着物を用意する「縫いカタ」の取りまとめ役だったそうだ。

今でいう中間管理職のようなものなのだろう。


城下町から集められた縫子さんと呼ばれていた若い娘たちと一緒に、着物を縫い続ける毎日だったという。

お城でおきぬさんが仕事をしているお陰で実家に信用ができて、おきぬさんの姉妹や親戚の人たちは良いご縁があって次々と嫁いでいったが、おきぬさんはずっと独身のままだったらしい。



『寂しい一生でした。労苦を分け合い喜びを語り合う連れ合いがいない。そして自分の後に続く子孫がいないというのは空しいものです。でも、楽しいこともありました。自分たちの縫った着物が褒められたりしたときはね、そりゃあ心躍る気持ちでした。特に幼かった姫様が、私たちの心づくしのきれいな花嫁衣裳で嫁がれた時などは、誇らしく晴れがましい思いをさせて頂きました。ただ、誰かと夫婦(めおと)になりたかった、我が子を胸に抱きたかったという思いをずっと持っていたんでしょうね。身罷(みまか)った後に神様にお会いした時には、次の生ではその思いをかなえられる生であって欲しいとお願いしましたから。』



えっ、今サラッと神様の事を言いませんでしたか?


「おきぬさんも幽霊天使みたいな人に会ったの?」



『エミリーさんの言われる幽霊天使とはどのような方かは存じませんが、(わたくし)の会った方はお寺さんのお仏像によく似た方でした。三途の川を渡るとご先祖様のお迎えがあるんだと思っていましたが、少し違いましたね。身罷った時は白い光に包まれて、すべての思いを許容してくれるような暖かい雲の中に抱き留められました。あの黄昏色の空の中に今いるんだと思いましたよ。痛みも悩みもなにもない雲の中でだいぶ長い事眠っていました。すると御仏に呼ばれて、次の生に何を望むかと聞かれたのです。それで先程のように答えたのです。そうですね。その時にお前のめんどくさがりのところをよき方向に向けるよう修練せよとも言われましたね。』



「めんどくさがり! おきぬさんもめんどくさがりだったの?」



『ええ、恥ずかしいことにそうでした。若い頃は縫う前のしつけをするのをめんどくさがって、よく上の者に叱られたものです。けれど縫うことに手馴れてくると、簡易のしつけの仕方を編み出したりしました。これはめんどくさがりだったからこそできたことだと思うのですが…神様はそうは思われていなかったのでしょうかねぇ。』


その問いには答えようがないが…そうか、この魂のめんどくさがりは半端ないレベルなんだな。


お仲間がたくさんいて心強いような、しかし何百年たっても治らない不治の病のような…。



神様としては脱力するよね。


今回つけられた記憶チート。


もしかしてロベルトさんやまだ出てきていない四人目の人もみんなめんどくさがり繋がりだとしたら、なんか…すごいね。




◇◇◇




 サマー家がある村の収穫祭の朝が来た。


いくつかある雲は雨降りの雲ではないようだ。

なんとか今日一日天気がもてばいいのだが。



会場に歩いて向かう母様の顔が緊張に強張っている反面、エミリーたち娘三人はお祭りへの期待にウキウキしている。


私達の仕事はもうほとんど済んだ。

昨日バザーの品に値付けをして来たので、今日はそれを並べて売るだけだ。


母様たち役員は収益や売れ残りの後始末のことなども気になるのだろうが、私たちはその点参加者気分で気が楽だ。



アレックス兄さまとデビ兄は青年団の競技である棒倒しに参加するため、エミリーたちを待たずに自転車で先に会場入りしている。


今年は隣村に勝つぞと言っていたが、そうなればいいと思う。


青年団の競技だけは、毎年近隣の3つの村が周り持ちで主催を請け負う決まりだ。

参加人数が少なくなってきたので20年ほど前からそう決められたらしい。


今年はうちの村の受け持ちである。

3つの村から人が集まるのでにぎやかな収穫祭になるだろう。



去年は東隣の村で青年団の競技会が開かれた。


その収穫祭で、あのギーゴによる噴水突き落とし事件が起きたのだ。


その時は青年団の競技でもうちの村が負けたので、屈辱は二倍だった。


今年は勝って欲しい。



 収穫祭のメイン会場となる村の広場に来ると、サマー家の4人は昨夜のうちに男の人たちの手で建てられたバザー用のテントに向かった。


村の商店やジュニアスクールのPTAのテントもあるが、メインは私達教会の婦人会のテントである。



まだ開始時間前だが、広場はもう大勢の人たちでざわめいていた。


お祭り前の興奮のようなものが辺り一帯に漂っている。


エミリーの気分もそれに影響され、徐々にテンションが上がってくる。



テントに着くと、サラ・めんどーが大きな声を出して婦人会の人たちに指図をしていた。


「やっと来てくださったのですねサマー子爵婦人。紅茶のカップを持ってきてくださるはずのエメット夫人がまだ来られてないんですの。教会にあるカップだけでは足りませんわ。どうしたらいいのでしょう。」


サラ・めんどーが早口でまくし立てて、やっと息継ぎに口を閉じたので、母様が話しかけて(なだ)めている。


エミリー達は用意してきたエプロンを付けてすぐに自分の持ち場に行った。


エミリーの持ち場は手芸品コーナーのハロウィンの変身道具売り場だ。


段ボール箱から売り場に商品を出しながら、一つ一つの出来上がりを見ていく。


ジムじいさんの奥さんのカビィばあさんが作った悪魔の衣装は物凄く凝っていて、これは売れそうだなと確信する。

エミリーが作った天使の輪っかは天使の衣装と羽の横に置き、水色の魔法使いのドレスの側にあの星の杖も置いた。


私の作ったものも売れたらいいなと期待で胸が高鳴る。



広場の隣の畑で競技の開始を告げるピストルの音が響き渡った。


ジャガイモ堀り競争だ。


さあ収穫祭の幕開けだ。


一斉に大勢の人が畑の方に押し寄せていく。

こちらのバザー会場が賑わうのはこのジャガイモ堀り競争とその後の棒倒し競争が終わってからだろう。



兄さまたちの様子が気になるが、今年はしょうがない。

エミリーは売り場から畑の方をみながら、胸の内で兄さまたちにエールを送っていた。



そこに、街道の方から1人の女性がこちらの方に歩いてくるのが見えた。


お客様第一号かしら…と思って婦人会の人たちの方を見ると、ブリーもキャスも母様もなぜかサラ・めんどーも、急に背筋を伸ばして緊張をしているのが見えた。



…なんだろ。

誰か知っている人なのかな?

誰でしょう。

次回は「収穫祭」の続きです。

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