矢鵺歌・オブ・ザ・デート3
「結局、私はゲームをする感覚でしか今を生きていないのかもしれません」
デザートにパンケーキをほおばりながら、矢鵺歌が告げた。
防具屋から出た俺達は、お昼でも食べようかと適当な飲食店にやって来たのだ。
流石に食事をこのスーツ姿で取れる訳じゃないので変身を解いて店に入った。
人間状態の俺を見た矢鵺歌がとても驚いていたが。
ナイスミドルだろ? と聞いてみたら返答に困った矢鵺歌が控えめに頷く。
アレは絶対に否定的な頷きだった。俺自身ナイスミドルはないだろ。と思っているので仕方無い。言い方を失敗しただけだ。
飲食店に入り食事を頼んでしばらく、食事も終えた俺達は追加で矢鵺歌が頼んだパンケーキを二人で突っついている所だった。
こうして見るとなんだか本当にデートしてるみたいだ。
改めて矢鵺歌を見る。
可愛らしい顔に背丈は140後半といったところか。線が細いので触れたら折れそうな容姿で、アンニュイな表情を浮かべた姿は、なんとなくこう、抱きしめてもう大丈夫、俺が守ってやる。と言ってやりたくなる。
そんなことしなくても充分強いのは分かっているんだけど、小動物系なんだよな矢鵺歌は。
ゲーム好きで異世界転生やら異世界転移をいつかしたいと、大悟と同じように考えていたらしく、この世界への順応は早かった。
弓もアーチェリー部に所属していたらしいので得意なのだとか、中学時代は弓道部にいたとか、いろんな話を聞かせてくれた。
そして、冒頭の台詞になる。
「今もゲーム感覚で?」
「はい。ロシータが生きていると分かったからかもしれないけど、魔族が闊歩しているこの街を見てもVRMMO、ヴァーチャルリアリティの体感型ゲームをしているような気がして、今も誠と二人で食べ歩きになってるのに、普通に喋れてるし。男の人というよりは人と話すの苦手なのよ。でもこうして普通に楽しんで喋れてる。きっとどっかでログアウトしたらいつもの一人きりの部屋で目覚めるんじゃないかって、思えてて、その、なんて言ったらいいのか、今いる自分は夢の中の私じゃないのかな? だったらやりたい事やればいいよね。っていう感覚というか」
恥ずかしげに頬を掻きながら告げる矢鵺歌。
気持ちは分かる。
突然見知らぬ世界に連れて来られ、こうしてファンタジー世界を体験してるんだ。
ある日ふと、元の世界で目覚めるんじゃないかと思ってしまっても不思議はない。
だが、これは現実なのだ。死に際に悟る程に、自分はこの世界に存在しているのだ。
「誠はそんなことない? 今の自分はゲームしてるだけなんじゃないかって?」
「俺? 俺はまぁ、今までが特殊だからなー。元々正義の味方になったのも、君、正義の味方やってみないか? ってアルバイトに誘われたからだし」
「え? アルバイト!? 正義の味方ってアルバイトで出来るのっ?」
「ああ。俺の所属していたジャスティスレンジャーはガンナー以外アルバイトだよ。その分ガンナーは博士やら上層部と交渉したり、指示を行ったりとリーダーに選ばれた俺よりリーダーしてたけどな」
「聞きたい。正義の味方って普段何やってるのかとか、どんな敵と闘ったの!?」
妙に喰いつく矢鵺歌。目がキラッキラしている。正義の味方に憧れを抱く子供の目だ。
あまりにも純粋過ぎて話を切り上げるのも悪い気がしたので、当時を思い出しながら口にする。
今の俺にとっては余り思い出したくない過去でもあるんだけど。
「基本は学生だな。召集があったり敵が現れるとその場に向って変身して闘ったり。闘った敵は、パステルクラッシャーっていう組織がメインだったかな。しょうもない組織だったけど組織力だけはかなりあったんだ」
パステルクラッシャーはあまりにも破廉恥な組織だった。
戦闘員はスカートめくりを行うし、怪人として出現するのはパンツ男やらセーラー服男やらだ。
敵の特性を聞いた辺りでえぇっと少し引いた顔をする矢鵺歌。
これはマズいとパステルクラッシャーの話は切り上げ、ライバルとして闘った初めての怪人の話をする事にした。
アルバイトとして闘った初めての怪人は、俺のクラスメイトだったんだ。
とある事情で異世界に飛ばされ、そこで見つけた怪人を倒そうとしたんだが、煙に巻かれて逃げられた。
その後、ハブルティスという怪人と闘った際、俺は敗北し、代わりにクラスメイトの怪人がハブルティスを追い詰めた。最後の一撃こそ俺が放って倒したのだが、奴に借りが出来た事は否めない。
当時はそいつが怪人である事自体が悪だと思っていたので、他のクラスメイトが止めるのも聞かずに決闘を叩きつけた。
結果、俺は勝った。
勝ったはずだった。
だが、空しい勝利を手に入れた俺は、正義が何なのか分からなくなって、弱くなった。
必殺ですら敵を倒し切れない時がしばらく続き、ジャスティスレンジャー内からも俺がリーダーでいいのか? という疑問すら出始めていた。
そんな時だ、師匠とも呼べる人に出会えたのは。




