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外伝・玲人の再起

「チクショウ、チクショウッ」


 玲人は一人、膝を抱えて座っていた。

 腐り果てた大木のうろに連れて来られた彼は、一日、そこで静かに暮らす事になった。

 爪を噛み悔しげに呻く。


 何が悪かった?

 突然の転落人生に恨みが募る。

 誰が悪かった?

 あまりの理不尽に妬みに染まる。

 どうしてこうなった?

 掌を返すように皆失った。

 意味がわからぬままエルパシアに殺されそうになって咄嗟に使った。

 奥の手にしておいたガルムを使い、なんとか逃げ切った。


 人間は危険だ。

 折角魅了して、真名を奪ったと言うのに、それでも正気に戻った彼女たちは玲人に怒りを向けて来た。

 こうなることなど全く気付いていなかった玲人はようやく己のしてきた行為に気付いた。


 魅了するなど、悪い事?

 真名を操ることは、酷い事?

 そんな事ではない。人間をどれだけ縛ったところで、自分を裏切る可能性があることは拭えないと気付いた。

 魅了も真名も万全じゃない。


 だが、テイムした魔物は違う。

 獲物を捕えて戻ってきたガルムの頭を撫でる。

 そうだ。魔物は裏切らない。何しろ考える脳を持っていないのだから。

 テイムだ。テイムしまくろう。


 そして、復讐するのだ。

 あの国の女たちに。

 玲人を好きだと言っておきながらあっさり裏切った女たちに。


 それだけじゃない。勇者ども。

 寄ってたかって俺を弾劾しやがった。

 がりっと爪を噛み千切る。


 大悟、必ず殺してやる。

 矢鵺歌。てめーはあやまっても許さなねぇ。

 若萌、人格壊してでも犯しまくってやる。

 だが、だが絶対に許せないのは……


「誠……覚えてろよ……」


 あの魔族どもを連れて来たのも、今回の発端となったのも、全部、そう、全部アイツが悪いのだ。

 真実が違っていても気にしない。奴が元凶、必ず復讐してみせる。

 暗い笑みを浮かべ、玲人はゆっくりと洞を出て立ち上がる。

 さぁ、復讐の始まりだ。




「どう、なってるの?」


 魔族令嬢ロシータはその光景にしばし呆然としていた。

 隣を見れば、半身機械の男が頭を掻いて虚空を見つめている。


「あー。今度はそう来るかぁ」


 周囲を見回せば、顔の綺麗なメイド達もまた、ロシータ同様戸惑っていた。

 ただ戸惑っているだけではない。気付いた者から即座に自身の恥部を隠して悲鳴を上げていた。

 当然ながら、ロシータも慌てて恥部を隠して男を睨む。


「何を、したんですかッ!」


「あー、うん。そのな、不幸なことに、勇者召喚に巻き込まれたっぽい」


 はい?

 意味が分からずロシータは小首を傾げる。

 そんな彼らの元に、数人の男女がやってくる。

 驚くロシータ達を無視して衣類を用意した彼らは、女性一人を残し去っていく。


「あの、皆様会話は可能でしょうか?」


「え? あ、はい?」


「では、着替えを。話はそれからに致しましょう」


 にこやかにほほ笑む女に釣られ、ロシータは言われるままに服を着替える。

 一体自分に何が起こったのか、理解できない彼女は手慣れたように立ち上がり周囲を見回す男に習うように、着替えを済ませて周囲を探る。


 祭壇とも思しき場所だ。

 神聖な感じがただようその場所に、王女のような服装の女が一人、皆の着替えが終わるのを待っている。

 やがて、最後のメイドが着替え終えると、女はお辞儀と共に泣きそうな顔を浮かべる。


「皆様、混乱している事はわかります。しかし、我が国はもう終わりを迎えようとしているのです。どうか、どうか私達にお力をお貸しください。魔王の脅威から、お救いくださいませ勇者様!」


 願うように祈るように、女はロシータに膝を折って手を合わす。

 目を白黒させながら半身機械の男に顔を向けると、男も呆れたようにそういうことだ。と頷いた。

 つまり、セイバーや矢鵺歌と同様のことがロシータに起こったと言うだけだ。


 だから、ここはあの世界から逸脱した世界。

 別の世界基準が存在し、魔法の構成からなにからが違ってしまった世界なのだろう。

 もう、二度と矢鵺歌たちと会う事は出来ないかもしれない。


「成る程、死ぬことはなかったけど、死ぬより不幸、か」


 虚空を見上げ、ロシータは呟く。

 それでも、生きながらえた。

 まだ矢鵺歌と会える可能性が消えたわけじゃない。

 エルナンドへの償いを行える可能性が無くなったわけじゃない。


「やってやるわ。だから、元の世界に返す方法を教えなさい」


「あ、それは、魔王を倒せば自動的に戻れるようになっているようです」


 やる気になったロシータにぱぁっと顔を輝かせた王女が嘘泣きを止めて告げる。

 一瞬、早まっただろうかと思うロシータだが、やるべきは魔王の撃破。この世界がこの後どうなるかなど知った事ではないのでさっさと終わらせてしまおうと腕をコキリと鳴らした。

 腐っても魔族。その実力は人間の比ではないのだ。

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