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外伝・潜入作戦

「行くぞ玲人」


「テメェが指揮んなオタク野郎。ここに居るのは俺の女だ。俺らは勝手にやらせて貰うぜ?」


「え? 何を言って……」


 潜入をしようと準備していた大悟の首に手刀を落とし、彼を気絶させる。

 背後に居た二人の女性にニヤリと笑みを浮かべ、騒がしくなった街へと紛れこんだ。

 そんな彼らが向うのは、豪奢に飾りのついた貴族邸。


「さぁて、魔族の貴族はどんなものか、クク、楽しみだなァ、オイ」




 騎士団長ベックナーは決死の覚悟をしていた。

 この潜入作戦を成功させるため、王と姫からは死んでくれと言われている。

 つまり、ここに居る三人の兵は死ぬために選ばれた兵士だ。


 クラッツとレストン。二人には迷惑をかけたと思う。

 貴族のいざこざに駆り出され恨みも買っていただろう。

 結果、自分と共に死出の旅路に出されてしまった。

 だが、勇者の礎となれるのならばそれもまたよし。


「やるぞ!」


「「オウ!」」


 油の染み込ませた布を丸めたモノを木の枝に突き刺し、火炎魔法で火を付ける。

 それを、思い切り街中へと投げ入れた。

 刹那、兵士だと思われる魔物達が一斉に現れる。


 まるでアリの巣をつついたような状態。あるいはスズメバチの巣に近づいた状態とでもいうべきだろうか?

 正直生きて戻れる気がしない。

 たった三人の闘いは、不退転の決意で臨むしかないのだ。

 武器を引き抜き、陽動だけを考え、動き出……


「あれ? どっかで見たことあると思ったら騎士団長じゃね?」


「ベックナーさんだったわね。たった三人で魔族領に乗り込んだの?」


 不意に、聞き覚えのある声が二つ耳に届いた。

 バカなッ!? そう思いながらも動けない彼の前に、魔族たちを割り裂くように赤いスーツの男を始めとした一団が現れる。


 武藤誠、河上若萌、そして、弓羅矢鵺歌。

 三人の勇者がそこに居た。

 魔族領で、普通に魔族たちに囲まれて、ベックナー達三人を不思議そうに見つめていた。


「なぜ……なぜです勇者様!? なぜ魔族側にっ」


 血涙流さんばかりに叫ぶベックナー。

 そんな彼を見て赤い男は困ったように頭を掻く。

 小柄な少女がくすくすと笑っているのを見て溜息を吐いていた。


「ギュンター、こいつら一応知り合いだ。兵士を下げてくれ」


「いいのか?」


「ああ。というか、どんなに抵抗してもここにはディアとラオルゥ、シシー、ルトラ。古き者が四人もいるんだぞ。兵士がいる方が被害が出る」


「それもそうだな。わかった。兵士の行動は通常に戻しておこう」


「そんなっ!?」


 ギュンターの行動に驚きの声をあげたのはベックナー達の方だった。

 赤い男はえ? と驚きベックナー達を見る。


「そう言えばなんでこんな場所に居るんだベックナーさん。あんたたち人間は魔族領には居ないはず……」


「待ってセイバー。この三人だけという可能性は無いわ。火の手を上げて兵士を集め……陽動!?」


「でしょうな。逆方向に四人、うち三人が行動を開始したようです」


「ようです。じゃないだろ。ディア、もうちょっと早く教えてくれよ」


 呆れた様子のセイバーにディアと呼ばれた初老の魔族がくっくと笑う。


「おや、この三人が向っているのはロシータ嬢の屋敷ですかな」


「ロシータ!?」


 ディアの言葉に反応したのは矢鵺歌。慌てて走り出す彼女に呼応するように若萌が、そしてユクリが走り出す。

 それをシシルシとルトラが追い越して行った。


「まっつり、まっつり。よーし人間で遊べるぞー」


「僕様にも分けろよ。ストレス解消に丁度良い」


 あー、あれはやり過ぎるパターンだ。ディアとギュンターに死なさないように告げて兵士三人を預け、セイバーはラオルゥとともに矢鵺歌たちを追う。


 時間的には殆ど無かったはずだった。

 しかし、セイバーが辿りついた先には、呆然と屋敷を見上げる矢鵺歌と若萌。既に内部を確認し終えたらしい。

 屋敷は燃えていた。内部にはもう生存者はいない。

 エルンストやメイド達は炎に包まれた屋敷の中で息絶えアイテムだけがばら撒かれていた。


 ただ数人、ロシータと綺麗な顔のメイドたちだけが消えうせ、その光景をただただ矢鵺歌たちが見つめている。

 陽動の間に行われた悪意ある貴族邸襲撃事件。

 貴族自体はセイバー襲来時に逃げていたため無事だったようだが、実質この貴族の財産は無くなったに等しい。


「あれあれー、赤いおぢちゃん、逃げ遅れかな?」


 シシルシが指先でつんつんと突いているのは別の入り口近くに倒れていたらしい大悟だった。

 ルトラが気付いてここまで引きずってきたらしい。

 遊んでいい? と告げるシシルシにダメだしをしてセイバーは大悟を回収する。

 どうやら気絶しただけのようだ。


「大悟がここに居るってことは……貴族邸侵入は玲人たちか」


「ロシータ……」


 ロシータは連れ去られたのだろう。彼女と、数人のメイド、美人だけはアイテムも残さず居なくなっているらしかった。

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