魔王の挨拶回り7
「こちらが東の封印地になります」
「古き者……最後の一人か」
ギュンターの言葉にユクリが自分たちを見回す。
俺の背後にディアリッチオ、ラオルゥ、シシルシが連なっており、俺の横には若萌。
正直この配置だと後が怖くて振り向けない。
そして後の気配が恐ろし過ぎて気になって仕方無い。
「父よ、彼らが封印地を出て来るのは初めてなのだろう? なぜこんなことに?」
「余に聞くでない。そもそもが人間が魔王になること自体が初めてのことだしな。物珍しいのであろう。余も引退後であればどうなるか自分の目で見てみたいと思うものだ」
ようするに、変わった有名人が近くに来たから見に行こう。みたいな感じか?
俺は動物園に始めて来たパンダか何かか?
「では、この先の祠に魔神はいらっしゃるので、行って来るといい現魔王よ」
え? ギュンターさんは行かないのか?
普通にここで待ってます感をだすギュンター。
ユクリと若萌は気付いてないようで先行して歩き出す。
―― そう言わずにお前も来なよギュンター ――
びくん。
ギュンターが青い顔でびくりと身体を震わせた。
あの厳つい顔が恐怖で怯えるとか、ちょっと見たくなかった。
慌てて周囲を探るギュンター。しかし、空耳のような声はもう聞こえなかった。
「ふふ、どうやら先方がお呼びのようですね」
「ギュンター、諦めろ。全員で行った方が面白そうだ」
「ふふ。ぎゅんたーおぢちゃんお呼ばれだね。どんな人かな? ぷちっと潰してもいいのかな?」
バケモノ三人が興味深そうに歩き出す。
なんやかやで彼らが集うのは初めてらしいし、自分たちと同列扱いされる古き者に興味もあるのだろう。
俺もちょっと見てみたいし。なんかギュンター怯えてることからして、おそらく前にやらかして怒りを買った魔神っていうのがこれから会う相手なのだろう。
逃げたそうなギュンターと共に最後尾を歩く。
こら。こんなことなら死んだ方が良かったとか呟くなよ魔王。
生き返した上に病気まで除去した俺の苦労が台無しになるだろ。
祠の中に入ると、巨大な魔法陣が祠を席巻していた。
地面が魔法陣に侵略されていて、その中央に一人の美少年が立っていた。
美少年だ。短パンの似合う勝気で金髪で色白な美少年だ。
「おや、これは珍しい。こんな大人数でここを訪れる魔王が居た事も初だが、古き者と呼ばれていたお三方と再び見えるとは」
「あー。ルトラのお兄ちゃんかー」
「おや。あなたでしたか。そういえば魔王として一度お会いした記憶がありますね」
「ふむ。この魔力は覚えがある。そうかそうか。この程度でも今の魔族にとっては古き者なのか。昔はゴロゴロ居たのだがね」
三人の古き者はルトラと呼ばれた魔神を見てご納得。そしてなぜか落胆していた。
「これは手厳しいな。まぁ貴方たち三人と比べると近年の魔神だから正直見劣りはするだろうね。でもギュンター程度が魔王になってるくらいだ。僕様程度でも魔神でいいのさ」
ふっと挑戦的に俺を見て来るルトラ。
「しかし、次の魔王はギュンターよりも弱いじゃないか。その程度で魔王とは片腹痛いぞ雑種」
なんか、雑な言い方だな。確かに俺は弱いけど、勇者として召喚されてまだ一カ月も経ってないんだぞ。
名前:ルトラ 真名:ルトラッテ・ミンクティク・ポーライ
Lv:2017
二つ名:殲滅の魔狂帝
状態:封絶
スキル:飛空剣・操糸術・人形作成・呪魂注入・影踏み……
魔法:悪意之羽、ディ・ム、ディ・ムナ、ディ・ムナシス、ダ・クネ、ダ・クネム、ダ・クネムロート、呪怨之柱……
装備:太刀蜘蛛糸・お気にの黒マント・短パン・魔狂帝の服・デモニックナイフ×2
ふむ、確かに俺を弱いと言うだけはある。
強い。普通に強いし魔法を確認してみるとなんか物凄く物騒な魔法も後の方にあった。
確かに、ヤバいくらい強い。
「ほれギュンター。封印を解け。折角魔神が揃っているのだ。僕様も外に出るぞ」
「え? いや、しかしですな。まだ100年の封印が……」
「解け、と言ったはずだが?」
「た、ただいま!」
ギュンターがまるで下っ端のように動いて魔法陣の解除を始める。
ああ、やっぱり付いて来るのかこいつ……も?
あれ?
俺はふと、もう一度ルトラのステータスを見る。
隠蔽があるので他のメンバー同様ステータスを隠してはいるみたいなのだけど、ディアリッチオやシシルシとは違いスキルも何もかもがすべて見える。
多分隠蔽レベルが俺のステータス閲覧方法より弱いんだろう。
ちなみにラオルゥのスキルに隠蔽スキルはない。真名無効があるから問題はないんだけどな。
まぁ、それで、だ。
このルトラ、大切なスキルを持ってない。
そう、真名無効を、持ってないのだ。
「ふはははは。やった。再び僕様の時代が来たぞ! 世界の蹂躙を始めよう。まずは魔王に返り咲き……」
「ルトラッテ・ミンクティク・ポーライに命じる、俺と若萌を殺す攻撃をあらゆる方法において行うことを禁止する。ならびに以後、俺以外からの命令を受け付ける事を禁止する。ついでに今すぐコマネチ」
封印を解かれて高笑いをした瞬間、美少年が非常に残念な行動を行っていた。




