赤き悪魔の覚醒
スケイルはその状況が信じられなかった。
自分の身体を貫いているのは剣だ。
形状は見たことが無いモノで、鎬地や平部分は赤い金属のようなモノで出来ており、鋒と刃区の間にある刃の部分は光で出来ていた。
今回、そのレーザー部は関係ないのだが、鋒先を鋭く尖らせて生成したのでスケイルを突き殺す事ができた。ちなみに、平は刀でいう中央部分、鎬地は平を挟んだ刃の反対側だな。
貫かれた心臓を見て、スケイルはごふりと血を零す。
「なぜ? なぜ……生きている?」
「正義は不滅だ」
セイバーを引き抜く。
支えを失ったスケイルの身体がどさりと崩れ落ちた。
「か、回復、回復薬を……っ」
致命傷のはずだが、動かなくなり出した身体で必死に懐を探るスケイル。
何かの薬品を取りだしたのを見て、背中から喉を突き刺してトドメを刺す。
アイテム入手ダイアログが出たのを確認し、俺はYESボタンを押した。
この世界は死亡確認が安易でいいな。このアイテムを入手することで相手の死を確定できる。
スケイルの身体が光の粒子と化して消え去っていく。
一人の人間だったものが還元されて行く様子を見上げて見送り、俺は視線を若萌に戻した。
「よく……生きていたわね」
「開放スキルに、いや、クラスメイトに助けられた。やっぱ、俺はあいつらと一緒じゃないと役立たずらしい」
溜息を吐いて倒れたままの若萌の横に座る。
正直生きた心地はしていない。
『おいおい、もうへばってんのかよ。逃げなくていいのか河上』
うるさい。ナビゲーターだろ、空気くらい読んで黙れよ
『疲れて座るのはいいが、この辺りはまだエルフの縄張り、魔族側だから魔族との戦いにも巻き込まれかねないぞ? どうする? さっさと移動すんのか、ここに留まって巻き込まれるのか、戻ってエルフと人間の戦争を止めるのか、正義としちゃ後者だが俺のおススメは前者、真ん中のはただの愚策だと思うぞ』
わかってるよそんなことくらい。だが、若萌だって絶体絶命だったし、俺も死にかけたというか実際死んだんだ。少しくらい休ませろ。
直ぐ横で俺の周りをうろつく自称ナビゲーターのクソ怪人が癪に障る。
うろうろすんな。気が散る。あ、こら、若萌に触れるなっ、ハーレム菌が移ったらどうする!
『知るか。俺自身にそんな菌はねーから気にすんな。つか触れないし見えないし。声も聞こえないっつの』
「声も、聞こえない? それってまさか……」
『良かったな。声に出してたら誰もいないのに独り言告げる気味の悪い存在になってたぜ。まぁ、今でも俺の姿追って挙動不審だけどな』
最悪だ。
思わず頭を抱える。
はぁ、とりあえず若萌が動けるようになるまでステータスを確認しよう。
一応能力解放の御蔭で必殺技とセイバーは使えるようになったし、後はレベルにより覚えたスキルたちだな。
Lv5:ナビゲーター・Lv10:ステータス完全隠蔽・Lv15:真名無効・Lv20:金剛・Lv25:ハンドフリーシールド・Lv30:ブーストスタンピードといった感じに覚えたんだっけか。ってことは次は35でもう一つスキルが追加されると。他の勇者たちとちょっと違う習得方法だな。他の奴らは3レベルだったり1レベルだったり覚える時期にムラがあるんだがな。
ナビゲーターは簡単だな。この俺の周囲をうろついているうっとおしい怪人野郎だ。俺の意識次第で姿や口調が変わるらしいけど、いくら意識しても怪人姿から変わってくれない。本当にこれはナビゲーターなのだろうか? 本人じゃないだろうな?
ステータス完全隠蔽は殺人数すらも隠せるらしい。変身解除が開放されたから人間の街に紛れこむのも容易になった。もう戻るつもりはさらさらないがな。
真名無効は最高のスキルだろう。これで強制的に操られることがなくなった。
このスキルがあるってことは他にも持っている奴がいるってことか。真名がステータス強制表示で見えるからと天狗になっていると足元を救われかねないな。
金剛は肉体強化スキル。防御力を二倍にできるらしい。有難いのだが、一定時間というのが曲者だな。いざという時の切り札にするか。
ハンドフリーシールドは、発動させると自分の周囲を漂う半透明の盾が二枚出現した。
腕に取りつけるタイプの小盾位の大きさの盾が俺の周囲を浮遊してくれるらしい。
腕を使って防御する必要が無くなるのでそれなりに使えそうだ。慣れてしまうと使用してない時も防御が疎かになって大ダメージに繋がりかねないけど。
ブーストスタンピードは一日一度だけ、凶悪な速度を叩きだせるらしい。
突撃攻撃を行ったり、少し離れた場所で味方が危機になってたりした時には使えるだろうが、通常は使いづらそうだ。奥の手候補その2だな。
『ああ、そうそう。落ち着いてからでいいからアイテムボックス整理しとけよ。なんかいろいろ入って凄い事なってるから。あと神様からの手紙もそっち入ってるぞ。開放スキルに付いて書いてあったはずだ』
「すでに意味ねぇよ!?」
「え?」
思わず声に出た。
起き上がった若萌が驚いた顔をするが、何でもないと伝えておく。
再び頭を抱えた。
「その考える人のポーズ、なぜか様になってるわね」
「褒め言葉とか言うなよ。全て侮辱と受け取っとくぞ」
「そう。なら言わないでおくわ。それで、どうする? 今からMEYさんと矢鵺歌さん助けに行く? 皆の呪縛も解けたはずよ」
「向こうは向こうで上手くやるだろ。真名の危険さも理解しただろうし、ステータス強制表示の危機も気付けただろ」
「それもそうね。じゃあ、行きましょうか」
「だな」
俺は立ち上がり、若萌と共に歩き出す。
東の大陸には、一度も振りかえることは無かった。




