拉致
「人間めッ!」
「これ以上好きにさせるものか!」
「都会へ帰れ!」
好き勝手いいながら突撃して来たエルフたちを若萌が迎撃する。
一人も傷付けることなく剣の腹で撃退しているのは、おそらくスキルのおかげだろう。
「ずっしりとした霞」
エルフたちの周囲を黒い靄が覆い、彼らの身体に重く纏わりつく。
動きを阻害されたエルフ達を剣の腹で穿ち、戦闘不能にしていく簡単な作業だ。
正直あの技は食らいたくないな。
腹による一撃で昏倒しなかったツワモノには、残念だが致死之痛撃で激痛を味わってもらう事になるらしい。エルフの痛々しい叫び声を聞きながら、俺も拳でエルフを迎撃する。
一応レベル30越えで10レベル差のある相手だからか近接戦闘でも充分対応できている。
拳闘士にでもなるべきだろうか。
こんなことになるなら拳系のクラスメイトに闘い方を教えてもらえば良かったな。
合気道っぽいのなら別の正義の味方に教わったからまだ闘えているが、素手での闘いももっと覚えた方がいいかもしれない。
突きだされた剣を持つ男の腕を引っ張り、懐へと誘い込む。
そのまま横に流して腕を捻り、剣を落として投げ飛ばす。
倒れたエルフの腹に拳を突き入れトドメ。
ごふっと息を吐いたエルフが動かなくなったのを確認してから次の敵に向かう。
MEYと矢鵺歌は?
矢鵺歌は怯えながらも弓を引き、高命中率でエルフの脳天を打ち抜いていた。
いや、むしろ正確過ぎないか?
怯えてるにしては無駄に正確過ぎるぞ。むしろ怯えた方が命中率が良くなるとか?
あるいは命中補正が付いているせいでどれほど手ぶれがあっても命中するってことかな。
しかし、脳天を打ち抜かれたエルフは生存絶望的だな。
流石に矢鵺歌に敵を生かして撃退させるのは難しいだろう。
こればかりは仕方無いと割り切るしかないのかもしれない。
MEYの方は正常と言うべきか、矢鵺歌の直ぐ横で震えながら槍を構え、突きだす事すら出来ずに矢鵺歌にフォローされている。
今のところは放置していても大丈夫か?
そう思った次の瞬間だった。
エルフの一体が戦線を突破してMEYへと迫る。
咄嗟に矢鵺歌が矢を飛ばすが、倒れていた仲間を持ち上げ盾にして、エルフはMEYへと肉薄した。
「死ね、人間め!」
後ろに溜めた剣を思い切り突き出す。
MEYの泣きそうな絶叫が響く。
油断した。もっと彼女たちに意識を向けてれば……?
きぃんと金属音が聞こえた。
横合いから飛び出してきた剣がエルフの一撃を受け止めたのだ。
咄嗟に飛び退くエルフ。割り込むように叢から現れたのは、大悟だった。
「だ、大悟?」
「見つけたぞエルフ。エルフ殺す、エルフ全滅。汚物は消毒だァッ!!」
あいつ、ラリってないか?
血走った目でエルフに切りかかる大悟。
呆然とするMEYの前でエルフが斬り殺される。
血飛沫浴びた大悟はMEYの腕を掴んだ。
「え? なにっ!?」
「こっちだMEYさん。安全な場所に連れて行く。エルフ達は僕に任せて、僕が全部ブチ殺すから。MEYさんは安全を確保できる場所まで撤退しよう!」
「はぁ!? ちょ、待って、あたしは誠と……」
視線で助けて。とこちらを見て来るMEY。しかし距離があり過ぎる。
走り寄る間に茂みの奥へと消えて行く大悟とMEY。後を追ったが結局見失ってしまった。
「MEYさんが拉致られたわね」
「ああ、しかし今から捜索するのは……」
「チャンスでもあるでしょ、彼女は放置して逃げましょう。同じ勇者同士だし、真名による隷属はないんでしょ。なら大丈夫よきっと」
「そう……かな? そう、だな」
俺はMEY捜索を諦め若萌の手を取る。
この隙を逃せばきっと逃げる機会は無くなる。
次があるかどうかも分からないのだ。今の好機を逃すわけにはいかない。
「MEYさんが気になるなら落ち着いてから捜索に行きましょ。その時まだ私達と来たいって思うならきっと来てくれるわ。勇者として立ち振る舞う方が性にあってるかもしれないし」
そうだろうか? できるならば彼女も連れていってやりたかったのだが、向こうもこっちに付いて来たいみたいだったし。
だがエルフの森の中で彼女一人を探査するのはかなり難しい。
仕方無いが今回は諦めるしかないだろう。
「こっちよ、付いて来て」
「分かった」
「矢鵺歌さん、こっち!」
「う、うん。でも、MEYさんは?」
「見失ったわ。どこにいるかわからないけど一応大悟くんが付いてるし、滅多な事にはならないでしょ。それより私達はエルフ達の中心に向いましょ。多分苦戦してると思う」
そう言いながら中心、から少しずれた方角へと走る若萌、何も気付いてないようで後を追う矢鵺歌。
俺は二人の真ん中を走りながら前後左右に気を配る。
エルフの気配もスケイルの気配もない。これなら逃げ切る事も可能そうだ。




