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後日談6

「ふふ、相変わらずですね姉さん……」


「ペリカ何してるにゃ?」


 現代世界にやってきたペリカは、六畳一間の一室で、ちゃぶ台前に座ってクスリと笑みをこぼしていた。

 御盆に乗せたお茶を持って来たマイツミーアが、御盆ごとちゃぶ台に置いて隣にやって来る。

 ペリカの手には手紙が一枚。どうやらどこかから送られた手紙を読んでいるようだ。


「姉さんからのお手紙です。向こうの皆さんの現状報告が一割、残りはギーエンさんとのノロケです」


「うわぁ、ノロケは要らないですにゃー。現状の方は?」


「魔王祭が開かれたらしいわ。ギュンター様の誕生記念祭も兼ねているらしいけど。ギーエンさんと満喫したって。で、ネンフィアスの兵士長とモルガーナさんが、兵士とエルジーさんがくっついたそうです」


「また複雑な恋愛模様を……」


「闘いが終わったらカップル続出してるらしいわね。何か関係あるのかしら?」


「ふー。出した出した。お、何ソレ?」


 トイレから出てきたテーラも逆方向から手紙を覗く。


「テーラ、随分手慣れたにゃー」


「この世界って便利だよねー。料理も箱に入れてボタン押すだけで暖かくなるし、トイレもお風呂も完備だよ。私この世界好き」


「私はまだ戸惑うことの方が多いですけどね。見てください、ラガラッツがシオリアにオトされたみたいです」


「シオリアが次期魔王の嫁かぁ。トドロキとカルヴァドゥスは相変わらずっぽいね」


「サイモンは宰相になるみたいね。ブルータースが北の総大将になってパリィとベーが魔将になったみたい」


「コルデラ……ギュンター様の側室になってるにゃ……」


「メイクラブさんは相変わらず南で魔将してるし、ポェンティムは領地に戻ったみたいね。フェレは人族領にシシルシ様の代わりに学生暮らししてるそうよ」


 三人はそのまま手紙を読み進めようとして、諦めた。

 ペリカが言うように、皆の現状説明はそこで終わり、後は魔王祭でのギーエンと過ごした感想がラブラブバカップル全面に押し出した感想文として書き出されていた。


「うぅ。これは、正気度がガリガリ削られる気がするにゃ」


「私無理。砂糖吐き出しそう。もう一回トイレ行って来る」


 二人が離れる中、ペリカだけは楽しげに姉の現状を読みこんでいく。

 こちらからの手紙もバカップル感丸出しで送ってやろうと密かに企みながら。


 ----------------------------------


「ただいま」


 懐かしき六畳一間の一室に、河上若萌は戻ってきた。

 部屋にはおっさんと化した男が一人、ちゃぶ台に身体を向けて新聞を読んでいた。

 聞こえた声に顔を上げ、ああ。と納得したように頷く。


「おかえり若萌。昔の俺はどうだったかな」


「どうも何も……お父さんだったなぁって思った。やっぱりお父さんは正義の味方っぽくないと思う」


「ほっとけ」


 新聞をくしゃりと押しつぶした父親に、若萌は背中へと近づきそのまま抱きつく。


「ほんと、疲れた。私凄くがんばったよ?」


「知ってるさ。もう十年以上前だが実体験してる」


「私父さんに襲われかけた」


「おう、ほんとけしからんよなまった……」


 ごじゃぁーっと音が流れ、トイレから現れる女。


「ほほぅ。娘を襲ったの、あ・な・た?」


 ぱさり、新聞紙が畳張りの床に転がった。


「ま、待て萌葱、待ちなさい、昔だ。昔の話でだな。もう十年以上経ってるし時効が……」


「ちょっと、表出ましょうか?」


 言い訳し始めた父が母に連れ出され外へと消えていった。

 きょとんとしていた若萌だったが、いつも通りの両親を見てふふっと笑みを零す。


「未来でも過去でも……お父さんとお母さんは相変わらずね」


 -------------------------------------


「おぅ、死んだと思ったが生きてたのか赤い魔王」


 秘密結社ラナリアの受け付けカウンターにやってきた河上誠はその場にいた怪人や正義の味方から背中をバシバシと叩かれていた。

 その傍らには若萌とユクリ、そしてラオルゥがその光景を見てクスクスと笑っている。


「なんか、思った以上に受け入れられたんだな俺……」


「基本ここは冒険者ギルドみたいなものですしね。皆さん気のいい人たちばっかりみたい」


「ふむ。それはいいが、どの辺りが秘密の結社なのだ萌葱よ。我が思うにこの施設は全く隠れておらんぞ?」


「まぁ、日本政府御用達の結社ですからね。秘密はないと思いますよ、多分」


「魔王城より人が多くないか、いや、人? 魔物?」


「誠さん、こんなとこでなんだけど……」


「おう、どうした萌葱、改まって」


「おかえりなさい」


「……ああ。ただいま萌葱」


 ラナリア受付カウンター前で二人が見つめ合う。

 口笛がそこかしこで鳴り響く。白けた瞳が無数に射抜く、そんなものはどうでもいいと、ユクリが割って入るまで、ずっと萌葱と視線を合わせて思いを通じ合わせている誠だった。

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