後日談5
「全く、こんなことになるとはな……」
コーデクラ王国国王は感慨深げに呟きながら、会議室を見回した。
魔王国にて行われている魔王祭に呼ばれた各国の王族が参加している。
コーデクラにとっては憎き存在だったルトバニアの席に座っているのは、今は亡き王国の筈のムーラン王。ルトバニア王が暗殺され、王国が停滞することに危機感を覚えた家臣たちは王族の擁立を諦め、国内に亡命していたムーラン王とその娘を国王にしてしまったらしいのだ。
そのため、ルトバニア王国という名前でありながら、実質新生ムーラン王国となったルトバニアは、女神大戦による戦勝国でありながら最大の被害者であるとも言える。王族が全員死亡した為実質滅んだようなモノである。
同じく敗戦したレシパチコタンやエルダーマイアもすでに滅んでしまい、代表者として来ているのは王族や教皇ではなく一般市民から代表として押し上げられた存在である。
他国の王族の発する高貴な空気に触発されて緊張しているようだった。
カーランとネンフィアス帝国は世代交代を行ったようで王族として出席して来たのは年若い少年たちである。
メーレン、ノーマンデ、ハーレッシュ、ルインタ、レインフォレストなどはいつも通りの面子で、ルインタ女王が女性がまた我だけになってしまったの。などと言っていたが誰も話題を広げようとはしなかった。
魔国はジャスティスセイバーに代わりギュンターが出席しており、その傍らには宰相を務めているらしいコルデラという名のサキュバス。
男性陣が思わず魅入る美貌の女は、なぜかメガネを掛けて理知的に振る舞っていた。
書類が配られ、これからの事に付いての話し合いが行われる。
下々の者たちは魔王祭で遊べているというのに、王族は重役会議か。できるならば私もよっちゃんと露店とやらを見て回りたかったぞ。コーデクラ王は城に残してきた最愛の妻に思いを馳せる。
「そうそう、コーデクラから言われていたアイドルに付いてだがな」
「む? ああ、そう言えばセイバー殿に頼んでいたな」
「魔国の頭文字を取りMKK48というセイバーと若萌が発案した100人組アイドルを企画している」
「百人っ!?」
「うむ。なんでも各国からアイドル志望者を募り、選抜総選挙? などを行い48人組ゆにっととやらを作って日によって表舞台に立つアイドルを入れ替えるとか。詳しくは後ほど二人で詰めて行こう。何やら事細かにルールが決まっているので実際アイドルをしていたよっちゃんだったか? 彼女にも意見を聞きながらにした方がいいだろう。後日そちらの城に行かせて貰う」
「了解した。では日程を空けておこう」
「あと、ルインタ女王」
「うむ、我が国に大使館を置くということだったな」
「男人禁制と聞いたからな。蛇娘を中心にして送らせて貰う。あと男禁制と言われていたがセイバー達の企画していた美少年魔族ユニットを使ったアイドル育成を行いたいらしい。これについては同じアイドルということもありコーデクラとの話し合いが終わりそちらが軌道に乗ってからの事になるが、男性アイドルによる興行を行おうと思っている。許可を出すかどうかはそちらで決めてほしい」
「ふむ。アイドルのぅ、しかも男か……他の者たちとの兼ね合いもあるしの、前向きに考えておくよ」
王族会議は終始紛糾することなく進み、和平に向けて一歩づつ着実に進みつつあった。
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斎藤琢磨、伊丹十三、光子の三人もまた魔国祭を楽しんでいた。
失恋気味の男二人に戸惑い浮かべながらも食事を楽しむ光子は露店で商品を買っては二人に与えて元気づけている。
一応元気はないがそれなりに会話が可能なので控えめながら盛り上がる三人は、おでんと書かれた屋台の前を通りかかった。
そこで、運命的出会いを果たしてしまう。
「カァ――――っ。大将もう一杯!」
「そろそろやめときなって嬢ちゃん。飲み過ぎだぜ」
「うるっさいわね。仕方無いじゃない。もう魔国には私の居場所はないのよぉーっ。ちくしょぉーっ。ネンフィアスで男どもと訓練よ、女一人で、飲まなきゃやってられないっつーの」
うわっと光子が嫌なモノを見た顔をする。事実、彼女の思い通り、そこにいたムイムイは背後に来ていた三人に気付いてギロリと睨む。
「あによ? なんか文句あんの?」
「い、いえ……」
「ちょーどいいわ。あんたたちエルダーマイアの奴らでしょ。わたしゃ、あんたらのせいで地獄の特訓フルコースだーってーの!」
酔っ払いに絡まれた。
逃げようとした光子だったが、素早く回り込まれで肩に腕を掛けられる。
首に腕をまわしてもたれかかってきた酒臭い女に溜息が洩れた。
「ほらほらぁ~そこの色男二人も、辛気臭い顔するくらいなら飲め飲めぇ~」
魔国祭、折角の祭りだというのに、エルダーマイアの勇者三人は酔っ払いの相手をすることとなるのだった。
数時間後、同じように酒に呑まれて愚痴を言い合う四人は、意気投合し、ムイムイ邸へと向かい恐ろしき一夜の過ちが起こる事を、彼らはまだ、知らない。




