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後日談2

「おーっせぞクソ女!」


 罵声が飛んだ。

 遅れて来た女は悔しげに睨むが、兵士たちはどこ吹く風といった顔でげらげら笑っている。

 魔王軍の中でも荒くれ者しかいない御荷物兵団。

 その中で、ムイムイは副隊長として働いていた。


 一人敵前逃亡した彼女は、新造されたこの御荷物部隊に入れられてしまったのだ。魔王直属の命令なので逆らうこともできず、家名を汚した後ろめたさもあって彼女は仕方無くここで仕事をしている。といっても、兵士たちは雑事などする気はなく、隊長とムイムイの二人が貧乏くじを引かされている現状。隊長であるアウグルティースは裏切り者、ムイムイは敵前逃亡の腰抜け娘。兵士たちは命令など聞きもしない荒くれども、もはや手のつけようのない流刑地のような部隊であった。


 こいつらは先の大戦では南軍で勇者たちと闘っていたこともあり、増長が酷い。

 ディアリッチオ人形を倒したこともあり、レベルも9999なのでさらに手を付けられない酷い兵士達になってしまっていた。

 ある程度は他の魔将の御蔭で増長は止められたのだが、同じレベルで魔将より強いとなれば話は別だ。初期ステータスが高かったり、上昇値が高かった御蔭で今の魔将達を越えた実力を持ってしまった一般兵の手に負えない奴らがここに集まっているのである。


 もちろん、やり過ぎればルトラやギュンターによる制裁があるのだが、素行が多少悪い程度やムイムイを見下す程度では制裁があるわけもなかった。

 なので、彼女は涙を飲んで今日も軍務をこなして行く。

 あの時、自分だけで逃げたりしなければ、そう思いながらも、副隊長としての座に付けている現状にしがみつき、兵士より少し多い給料を貰い続けるのだった。


 ちなみに、同じく蔑まれていたアウグルティースと一時いい感じになったムイムイだったが、アウグルティースには既にムレーミアという妻が居ることを聞かされ失恋に沈むことになることを、まだ彼女は知らない。


 --------------------------------


「ルインタにようこそ客人たち」


 少女とムレーミアは本日、ルインタへとたどり着いた。

 女神大戦の折、参加しなかった国である。

 魔王軍に加担する事もなく人族として討伐に向かうことも無く、ただ一国鎖国を行った国は、ディアリッチオ人形も放置していたらしく、無傷で存続していた。


 女神が倒れ、闘う必要も無くした魔族と人族が普通に通商を開始しており、ムレーミア以外にも無数の魔族が闊歩している。

 少女は初めて見る異国に驚き、眼を輝かせて周囲を見回していた。


「ここでもアンゴルモアの話は聞けるみたいね」


「はい、いろいろ見て回りながら情報を集めましょう!」


 ムレーミアと少女はアンゴルモア伝説を編纂すべく各地の話を集めていた。

 いくつかの街でその話を聞いており、今回もこのルインタで話を聞こうとしているのだ。

 まずは換金所でお金を変えて、露店を覗きながら気に入った串物を購入。

 ぱくつきながら街を探索する。


 女性兵が多いルインタでは、酒場で飲み比べしているのもマスターもどれもが女性であり、男性は首輪をして女性に連れられている者か、兵士くらいしか見ていない。

 街中で遊ぶ子供も少女ばかりであり、少年の姿は見受けられなかった。


 折角なので一般人に聞いてみると、少年たちは施設に放り込まれ、女性優位の常識を叩き込まれてから奴隷身分として働かせられているそうだ。

 運良く女性に気に入られれば身請けもされるが、基本は一生奴隷身分で終わるそうだ。

 少女が可哀想と言っていたが、この国の特性なのだから仕方ないことだとムレーミアは納得して放置する。




「なかなかやらかしてるわねアンゴルモア」


「あ、はは。お兄ちゃん、いろいろやってたんだなぁ」


 ムレーミアと笑い合いながら少女はルインタを後にする。

 女王との謁見を行いいろいろと教えて貰えたのだが、本に編集するにはちょっと盛り過ぎな気もする逸話が多い。


「でもこれ、本当のことなのよね」


「さすがお兄ちゃん。すごいなぁ」


 溜息を吐くムレーミアに凄い凄いと楽しそうに告げる少女。


「あ、そうだお姉ちゃん」


「何?」


「あうぐるさんと結婚するの?」


「アウグルティース様と? 確かに戦争終了後に来た時に考えてくれとは言われたけど……今はまだそう言うのは……」


「えー。しないの? 私はお似合いだと思うんだけどなー」


「そうかしら? ……そうね。受けてみようかしら。流浪してる私なんてどうせ直ぐに愛想尽かされるだろうし」


「そんな事ないと思うけどなぁ」


 旅の途中で魔国に寄った二人はアウグルティースに面会し、その場で結婚を確約、魔王ギュンターが認め即座に夫婦認定されるのだった。

 その後、各国を回り終えたムレーミアは書物を編纂し、少女の家に住み込み、アウグルティースと仲睦まじく過ごしたとか。

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